真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「過激!本番ショー 異常者たちの夜」(1990/提供:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/カントク:サトウトシキ/キャクホン:小林宏一/キカク:田中岩夫/プロデューサー:岩田治樹/サツエイ:西川卓/ショウメイ:高田賢/オンガク:ISAO YAMADA/ヘンシュウ:金子尚樹/ジョカントク:上野俊哉/エンシュツジョシュ:中野貴雄/サツエイジョシュ:福島佳紀/ショウメイジョシュ:島田良一/トクシュコウカ:城沢源太郎/スチール:福島写真館/オンキョウコウカ:高野藤次/ロクオンスタジオ:ニューメグロスタジオ/ゲンゾウ:東映化学工業/キョウリョク:城沢靖・西山秀明・勝山茂雄・大倉琢夫・及川清夫・チキンシャック《福生》・《株》サンアイ・スノビッシュプロダクツ・エグザエル/シツエン:吉田春兎・芹沢里緒・神山洋子・清水大敬・梅垣義明・中根徹・中野貴雄・石井基正・世良福助・加納妖子)。キャクホンの小林宏一は、小林政広の前名義。クレジット含め印象的な筆致の割に、タイトル担当はクレジットされない。
 喪はれ行く風景を切り取る方便か、にしても執拗も通り越して些かくどく全篇を通して繰り返し繰り返し繰り返し挿入され続ける、今は亡きコマ劇場を皮切りに新宿の映画街と歓楽街の画を連ね、幕の内弁当をビニール袋に提げたワタナベ(吉田)が、風俗情報誌を発行する「歌舞伎町タイムス」に帰社する。ここで吉田春兎といふのが、案外色んな名義を多用してゐる現在の本多菊次朗。凡そ三十年前ともなると当たり前でしかなからうが若く細く、軽い。入れ違ひに社を出た編集長の宇野(清水)が都庁新築に伴ふいはゆる浄化による、界隈の斜陽も予想される世相に触れた上で、建設中の新都庁舎の画も連ねてタイトル・イン。神山洋子と中根徹の絡みが家中を移動する傍ら、駅から歩いて三十分かゝる―チャリンコ乗れよ(´・ω・`)―自宅にワタナベがてくてく帰宅すると、妻の恐らくユミコ(神山)は、実はワタナベとも面識がある旨後々語られる、間男の古賀か古河か古閑辺り(中根)を連れ込んでの情事の真最中であつた。ユミコの父親名義の家を出たワタナベが、暫く寝泊りすることにした歌舞伎町タイムスに、電話番を募集する求人広告を見た梓ユウコ(芹沢)が現れる。
 配役残り、薔薇族映画畑では翌年の「奴隷調教 ドラゴンファクトリーの男たち」(ENK/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀)がデビュー作と謳はれてゐるものの、当然こちらの方が早い石井基正と、世良福助は宇野が取材する本番ショーの男達。あのワハハの梅垣義明の梅垣義明は、石井基正と世良福助のショーで女性客の動員を目論む、売りのショーの中身をコロコロ変へるショーパブ、十足した「第十七天国」店主、多分この人も今回が銀幕初陣。加納妖子は、宇野に記事を書かせておいて薔薇族本番ショーには早々と見切りをつけた第十七天国の、SMショーの女王様、責められる奴隷は世良福助の二役か。中野貴雄はラストの第十七天国にてステージ上尺八を吹いて貰ふギャラリー、もう二人、後頭部くらゐしか見切れない客要員は流石に判らん。ところで第十七天国が、物件的には現存する老舗ライブハウスの「チキンシャック」。老舗も老舗、何と創業昭和49年!
 全体リリース当時如何様にセレクトしてゐたのか、何が飛び出すか予測不能な雑多ぶりが堪らない「Viva Pinks!」殲滅戦。第七戦は福岡芳穂単独第一作に続いて、とかいふザックリした括りでいいのか、生かキナ臭い火種を抱へなくもないノンフィクション『名前のない女たち』の映画化第二作―第一作は佐藤寿保―「名前のない女たち うそつき女」(脚本:加瀬仁美/原作:中村淳彦/主演:吹越満)が、六年ぶりの新作として公開間近のサトウトシキ1990年最終第三作。
 今作の公開は十二月、即ち厳密な前後は不明ながら、最早“新”ともとうにいはない現都庁舎の竣工に、フルコンタクトで当てに行つた格好となる。といふか、封切りをぶつけるどころかなラストを見るか観るに、サトウトシキは明らかに都庁を撃ちに行つてゐる、現に撃つた。尤も、あの頃サトウトシキなり小林宏一らが感じてゐたにさうゐない、やがて明けるやうに暮れる白々しき夜に対する悪寒にも似た予感は、時間と距離の隔絶か単なる知性ないし想像力の欠如か、個人的に共有可能な類のものではなく、あるいはさういふ者にも体感させるだけの、時代を易々と飛び越える跳躍力をこの映画が有してゐる訳では必ずしもない。吉田春兎のみならず、あの狂騒的なエキセントリックの大家・清水大敬にまで強ひる、含みを持たせたばかりで大して中身もない台詞を、坦々と妙な間で発せさせる演出は古臭さとまどろこしさとにモジモジ身悶えしてしまふのを禁じ得ず、遂に鳴るアタック音には頭を抱へる。確かに過激な本番ショーとはいへ、“異常者たちの夜”の多様性を第十七天国店主の移り気に頼りきりな展開は面白味に乏しく、寧ろ古賀に飯の最中肛門性行を求める、ユミコの方が余程箍が外れてゐる。二番手たる神山洋子が快調にカッ飛ばす反面、主演の筈の芹沢里緒の濡れ場の比重は清々しく小さい。ところが漫然と終始するかに思へた始終が、文字通りの飛び道具で以てとんでもない急加速で弾ける。表面的には「タクシードライバー」との類似も窺はせつつ、アイリスをも殺める点を決定的な差異に一線跨いだその先で更にもう一線跨いでみせるワタナベの凶行は、ピンク離れした本格的な特効と超絶の繋ぎとで一息に引き込ませて見させる、梅垣義明の後頭部が吹き飛ぶショットには吃驚した。人より生命力の強いと思しき清水大敬には二発を費やす心配りも心憎く、ただそれだけに、ワタナベがリボルバーの撃鉄も起こさず続け様に撃つ、今となつては考へられない初歩的なボーンヘッドは地味にでなく目立ち、見事な弾着と比すればなほ一層、ラストの銃創のショボさが際立つのはグルッグルッと二周した致命傷。突発的に煌めき、損なふ一作に止めを刺すのは、“オワリ 1990アクトキャストプロデュース作品”なる間抜けなエンド・クレジット。“アクトキャスト”て何だ、“アクト”て。何か明後日だか一昨日な、変な方向に完成してゐる。


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コメント
 
 
 
Unknown (はる)
2018-02-13 03:37:24
石井基正は星野ひかるのビデオに出てるから
映画よりビデオの方が先かも?
1990年12月8日
ひかるの失神クリニック 星野ひかる
 
 
 
>石井基正 (ドロップアウト@管理人)
2018-02-13 07:01:47
 AVリリースと現都庁竣工と今作封切りが全部90年十二月なんで、微妙な前後は不明ながら(都庁竣工関係ねえ、
 まあ銀幕初陣は今作てところで。
 ほんでも八日なら、世に出たのは失神クリニックが最速になるのかな?
 
 
 
Unknown (はる)
2018-02-13 08:31:56
かもしれないですね>石井基正
因みに撮影された時期はかなり前っぽい
少なくても90年8月なのでもしかしたらビデオが一番先なのかも?
AV男優デビューが先って当時は結構新しいかな?
南城千秋とかもそれっぽいですね。

都庁も昔はバリバリ出てましたね。
今は見れないAVのドキュメンタリーのインタビュー受ける場所も都庁でした。
懐かしい。
 
 
 
新宿 (ドロップアウト@管理人)
2018-02-13 19:55:29
>都庁も昔はバリバリ出てましたね

 何となあく旦々舎があの辺りでよくロケしてた気が。
 あとピンクでは案外滅諦に出て来ないロケーションが、歌舞伎町一番街のアーチ。
 
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