真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「必殺色仕掛け」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:高田純/プロデューサー:伊地智啓/撮影:前田米造/美術:渡辺平八郎/録音:福島信雅/照明:松下文雄/編集:井上親弥/音楽:月見里太一/助監督:佐藤重直/色彩計測:松川健次郎/現像:東洋現像所/製作担当者:山本勉/出演:二條朱実・牧れい子・叶今日子・薊千露・市川亜矢子・島村謙次・木夏衛・浜口竜哉・丹古母鬼馬二・谷本一・堺美紀子・小森道子・深町真樹子・吉野あい・小見山玉樹・氷室政司・谷文太・清水国雄)。出演者中、堺美紀子以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 意表を突くモノクロ無声映画風開巻、時代的には明治中頃か。旅に出る売り出し中の任侠・花田優次郎(谷本)が、遊郭「廣満楼」の女郎・鏑木郁子(二條)の髪に簪を差す。手向けにと郁子が手渡す弁当なり林檎が、ヒシと花田が郁子を抱き寄せるなり川に落ちる学習能力を欠いた別れの遣り取り経て、カラーの林檎の画に“そして五年―”。“そして五年―”に赤く色が着くと、長ドスを提げた郁子にピントが移る。廣満一家が仕切る、色町・圓山仲町の喧騒。廣満一家と反目する金辰一家の若い衆・庄吉(清水)が、金も使はず女々に痴漢して回る。劇中オチ担当の今でいふ小梅太夫みたいな女郎(深町)の顔見せ挿み、自身も旅に出、渡世で“日陰花のお郁”なる異名も誇るやうになり圓山仲町に戻つて来た、郁子が庄吉を脛蹴りで撃退。郁子が母と慕ふ“血桜のお満”こと廣満一家組長(堺)、代貸の小満(小森)と、ギャラリーに見切れる庄司三郎も見守る中、郁子は手コキで庄吉を蘇生。庄吉が射精に至る大花火のイメージに乗せた“廣満屋”、“日陰花”のシャウトとともにタイトル・イン。一方、西洋思想に気触れた娼婦廃業促進連盟理事・徳大寺春枝(市川)を招き入れ、金辰一家組長の金山辰三(丹古母)は廣満楼を狙ふ。俵締めのおさね(牧)、ミミズ千匹のおりん(叶)に、数の子天井のおぬき(薊)。廣満楼看板の名器三人娘に対抗するべく、ナニに真珠を埋め込んだ三男の喜三郎(浜口)。面だけでなく馬並の次男・慶次郎(木夏)に、無尽蔵のスタミナを誇る長男・沢太郎(島村)の奥野三兄弟を金山は呼び寄せる。
 配役残り谷文太は、庄吉と二人劇中メイン格の金辰子分、多分寅。小見山玉樹と氷室政司は、おさねとおりんの亭主といふ名のヒモ・キクチシンジロウと車蛾次郎。ついでに何時の間にか肺を病んでゐた花田が、おりんのヒモ。吉野あいは、廣満楼の女中かと思へば、ラストでは女郎に出世するおしん。
 名器自慢の三女郎と、棹自慢の三兄弟が激突する。マンガみたいな物語をロマポのプロダクションで如何に形にするのか、事前には非常に興味を覚えた藤井克彦昭和48年第三作。ところがいざ蓋を開けてみると、裸の面でも映画的にもてんで不甲斐ない残念作。名器三人娘が次々奥野三兄弟に籠絡され、存亡の危機を迎へた廣満楼の窮地を見かねた日陰花のお郁が、単身金辰一家に乗り込む。女任侠映画としてのフォーマットは綺麗に仕上がつてゐるものの、必ずしも当サイトは量産型裸映画に、そんなものを求めちやゐない。見せ場の濡れ場たる筈の色道勝負が、絡み的に全く以て説得力から遠いのが第一の敗因。気取つて浄瑠璃の真似事なんぞ戯れてゐる内に、慶次郎と対戦したおりんの絶頂描写はスッ飛ばし、喜三郎と慶次郎を一応撃破し、沢太郎と相見えた郁子が、最後沢太郎のスタミナ源たる背中のイボを、アバンで花田から貰つた簪で差し勝利を得るのは、百歩譲つて反則もへつたくれもないにせよ、少なくとも色道の勝負ではない。更にはおしんを筆頭に廣満楼の女達が、女郎稼業に身を投じる方便が男を喜ばせたいの一点張りなのがどうもかうもしやうのない致命傷。ほかの誰かのためでなく、ただアタシがヤリたいからヤル。どうしてたつたそれだけの清々しさが描けないのか、その貧しさは如何ともし難い。幹が朽ちては枝葉も繁らず、ヒロインのex.いい人にしては花田の扱ひは甚だ雑で、市川亜矢子はこのビリングの高さで脱ぎもしない。出し抜けにオーラス膨らませてみせる人類史上最大級の林檎ネタも、藪蛇の極み。丹古母鬼馬二を半壊させるドリフ桶ばりの額縁以外唯一の見所は、サブは何時も通りのサブぶりながら、みんなのコミタマことロマポの座敷童・小見山玉樹の、凡そコミタマらしからぬ台詞と出番の多さ。結局色男に女を寝取られる、情けない役である点に変りはないのだけれど。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )