真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女医ワイセツ逆療法」(1997/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:小松公典/撮影:創優和/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:加藤義一/監督助手:小松公典/撮影助手:立川亭/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・下川おさむ・沢口レナ・月野ひとみ・安藤広郎・杉本まこと)。
 黒下着の青木こずえが、絵に描いたやうなドヤ顔で男の方に振り返る。青木こずえの持ち味が爆裂する、ファースト・カットが何気に完璧。共生病院理事長の苗字不詳和也(杉本)と精神科の女医・鳴海唯(青木)の、タイトルを入れるタイミングを少々遅きに失しさせてでも、絡みをコッテリタップリ見せんとする鋼の意思が感じられる一戦。事後の駐車場、まんまと籠絡され唯に心奪はれた和也に対し、周知の恋人・美奈と別れろと主導権を握つた唯は、送りの車を拒否し一人歩いて捌ける。その模様を少し離れた場所から覗いてゐた下川おさむが、上手い具合に闇に消えてタイトル・イン。タイトル明けは、踏切を待つ唯。歩きだした唯を、予備校生・吉川隼人(下川)が殆ど密着しかねない勢ひのベタづけで尾行してゐたりするのが、らしからぬ洗練を窺はせたアバンから一転、量産型娯楽映画の判り易さと表裏一体だか諸刃の剣の、関根和美の無造作さ。
 配役残り月野ひとみは、唯の治療の甲斐あつて、目出度く退院する運びとなる鬱病の入院患者・長内法子。東映化学(現:東映ラボ・テック)もとい共生病院の玄関口まで法子を迎へに来る安藤広郎が、彼氏の英樹。英樹の車に乗つた法子を、吉川は原チャリで追跡。カーセックスを窓から覗き込むかのやうに、といふか完全に覗き込む以外の何物でもなく堂々とさへ注視する吉川に、二人が営みを完遂して漸く仰天する煌びやかなまでの不自然さは、三番手とはいへども見せ場を妨げぬピンク映画固有の至誠と解するべきだ、見せ方がもつとほかに幾らでもあるやうな気もするけれど。きつかけは語られないが唯を正真正銘の本域でストーキングする吉川は、受験ノイローゼを装ひ共生病院精神科に通院する。廊下兼の待合室に居並ぶ面々が、画面奥から関根和美の愛妻・亜希いずみ、吉川と背中しか見せない関根和美に、変にニヤニヤしてゐるのが逆にリアルな小松公典。亜希いずみは、束の間唯と触れ合へてイヤッホーな吉川に、病院玄関でぶつかられる形で再登場。帰宅した吉川が、「元気出して」的に唯に握られた両手で勿論自慰をオッ始めると、全裸M字の唯の幻覚が大登場しそのまゝ濡れ場に至る流麗な導入には、関根和美の天才を確信せずにはをれない。そして尺の折り返し少し前、ストーカーの影に地味に消耗する唯の前に満を持して登場する沢口レナが、和也との結婚も噂される婦人科女医・児玉奈美。
 黒髪の正統美人・沢口レナの、jmdb通り恐らく全五作でなからうかと思はれる、ピンク戦歴を踏破すべくバラ売りDMMに手を出した関根和美1997年第二作。沿革を改めて整理すると、公開時期的にも初陣はまづ間違ひなく北沢幸雄1996年第二作「高校教師 私は、我慢できない」。半年強空けて関根和美1996年ピンク映画第五作「快楽セールスレディ ~カラダも買つて~」(脚本:関根和美・小松公典/主演:河名麻衣)三番手、続く第六作「隣の奥さん バイブでトロトロ」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)、更に続く1997年第一作「痴漢電車 くひこむ生下着」(脚本:関根和美・加藤義一・小松公典)と来て、関根組四作連続登板含め締めが今作。尤も、今作の沢口レナはビリングにおとなしく甘んじる。どころか、より直截にはヒロインの噛ませ犬。
 それをいつては始まらないのかも知れないが、電話口の声に何故気づかないのかは強力に疑問でもある吉川による大概本格的なストーカー被害と、和也を美奈から強奪するしないの三角関係。唯を巡る二つの物語を、如何に収束させるのかそもそもし得るのかとあんまり期待はしないで見てゐたところ、まさかの唯・テイクス・オールなラストには驚いた。正しく主演女優といふに相応しい青木こずえの貫禄すら漂ふ、支配力の名にさへ値しよう決定力も借り、観終つてスカッとする類の映画ではないにせよ、悪女ものとしては少々力技ともいへスマートに出来上がつてゐる。とぼとぼ共生病院を後にする下川おさむの消沈した背中から、カメラが結構箆棒に引くラスト・ショットは、琴線に触れはしないが骨身に染みる。


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