真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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2007年九月で消滅した旧本館より継続して使用中の掲示板です
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駄楽ひまなときブログ
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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黒い過去帳 私を責めないで
浜野佐知(的場ちせ)
/
2017年08月10日
「
黒い過去帳 私を責めないで
」(2017/制作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/原案:山﨑邦紀/脚本:浜野佐知/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり・岡崎孝行/照明:宮坂斉志/録音:山口勉/助監督:小関裕次郎/応援:江尻大・武子正信/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/グレーディング:東映ラボ・テック/出演:卯水咲流・佐々木麻由子・西内るな・ダーリン石川・竹本泰志・津田篤・橘秀樹・可児正光・牧村耕次)。出演者中、竹本泰志と牧村耕次が何故かポスターでは竹本泰史と牧村耕治の旧名義。となるといつそ、ダーリンも石川雄也にしておけば男優部三本柱でフルハウスなのに。改めて出演者、ポスターにのみ武子政信と佐藤陽一郎が追加で名前を連ねる。
処女作『壊滅の愛』で文芸界新人賞を受賞した黒瀬波美(卯水)のTVインタビューを、当の波美がホニャラほ銀行員の恋人・橋川フミヤ(竹本)と見る。チュッチュチュッチュからじつくり時間をかけて攻める挨拶代りにしてはフィニッシュ・ホールドばりの一戦を経て、翌日か次回作に取りかゝるかとした波美は、
ミサト
のプールをブーメランで泳ぐ可児正光を、何者か男の眼が凝視する。鮮明に見える割に、そこから先ストーリーには膨らんで行かないイメージに囚はれる。担当編集の市子(佐々木)に、打ち合はせの席その旨打ち明け出版社を辞する波美を、WEBライターの堤耕一(ダーリン)が待ち伏せする。素知らぬフリして堤をやり過ごした波美ではあつたが、波美には違ふ自分になれるやうな気がしただの凡庸な理由で、花野香織の名で十年前に一度だけアダルトビデオに出た過去があつた。堤が市子と橋川にもたて続けに接触し事態が膠着する中、市子は気晴らしとミサトニックイメージの取材がてら、波美を谷シュンゾー(牧村)がマスターのゲイバーに連れて行く。その癖市子はバタバタ中座、取り残された波美は、可児正光を凝視するのが実は谷の眼である訳の判らない事実に気づく。心配するな、最後まで観ても判らん。
配役残り、いはゆるお人形みたいなルックスが低劣な嗜虐心に触れる西内るなは、肉弾殺法で堤にネット流出した花野香織の映像を削除させた市子の功を頼り、二人の前に現れるこの人もex.AV嬢のゆかり。津田篤と橘秀樹が、アイドルになれるとか騙されてAVに出演させられたゆかりを二穴責めする、男優其の壱と其の弐。実際の製品版といふ寸法なのか、この巴戦限定でモザイクを使用する。津田篤は開巻とラストの二度、デビュー作と第二作『黒い過去帳 私を責めないで』のそれぞれ出版直後に波美の話を聞くインタビュアーの声も兼務。西内るなに話を戻すと、一幕限りで潔く駆け抜けて行く純然たる三番手裸要員ながら、全ての過去を決して消えないものとして引き受けようとする波美と、消せるものならばなかつたことにしたいゆかりの相克は一応描かれる。ゆかりが完全に退場してしまふ以上、その場で風呂敷を拡げるばかりで、後々回収されるなり深化されはしないものの。その他登場するのは花野香織の撮影隊、孤高のラッパーEJDが監督で、ポスターのみ俳優部の武子政信がガンマイクを構へ、ハットで顔を隠した撮影部が消去法で佐藤陽一郎。もう一人見切れる推定助監督は、憚りながら山﨑邦紀監督御本人様から御指摘頂戴したところにより、
暴走女子
Aこと武子愛。
2016年は素通りしたデジエク第八弾は、第四弾「
僕のオッパイが発情した理由
」(2014/主演:愛田奈々)・第六弾「
性の逃避行 夜につがふ人妻
」(2015/主演:竹内ゆきの)・第七弾「
女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどつち?
」(2015/主演:真梨邑ケイ)を積み重ね浜野佐知的にはデジエク史上最多登板を誇る四作目。以下には
第一弾
・
第二弾
の清水大敬と、第五弾「
女と女のラブゲーム 男達を犯せ!
」(2014/脚本:今西守=黒川幸則/主演:
水希杏
)に、未だ関門海峡には遥か遠い第九弾「おばちやんの姫事 巨乳妻と変態妻なら?」(脚本:金田敬/主演:
桐島美奈子
)の松岡邦彦が続く、第三弾は
工藤雅典
。デジエクが今年は正月、黄金週間までは順調に来た反面、盆は素通りする。
閑話休題、山﨑邦紀が原案に退き、全体何時以来なのか浜野佐知が脚本にもクレジットされる何気に話題作。尤もその辺りは、旦々舎が最たる量産態勢を採つてゐた90年代前半前後は、多用する変名を挙句に重用してゐたりもする収拾のつかなさで、本当の本当に正確なところは、タイムマシンでも実用化されない分には明らかになりさうもない。新進女流作家をハイエナが襲ふ生臭い醜聞に関しては、肉を抱かせて骨を断つ市子の活躍で案外アッサリ収束する。拍子も抜けかけつつ、堤を籠絡といふよりは轟沈させた市子こと佐々木麻由子が吐く、「悪ぶつてても、こつちの方は大したことないはね」なるハクい決め台詞のソリッドな決定力と、佐々木麻由子の絡みを消化した上でなほかつそれ自体が三番手の呼び水たる、ピンク映画的にはなほさら看過能はざる構成的な妙、乃至は要に免じて通り過ぎる、にしても。今は滅多に客も来ない店で殆ど隠棲生活を送る谷の正体は、花野香織の介錯も務めた、カメラの前で幾多の女を抱いた伝説のAV男優。花野香織としての体験を今も覚えてゐる波美に対し、二桁どころか三桁も然程珍しくはない監督本数で戦ふ量産型娯楽映画作家が、自作に出演した累々たる女優部を恐らく全員は覚えてゐられまいといふのと同様、谷に香織の記憶はない。忘れられないのに、忘れられてる。藪の中の蛇を突く被害者意識を、最終的にはマッチポンプ式に粉砕してのける豪快な能動性は、浜野佐知映画一流のアグレッシブな女性像の常とはいへ、過去を清算するとか称したヒロインが、一線を退き静かに暮らす初老の男を巻き添へ気味に引き摺り出し膳を据ゑる。傍迷惑なのか棚牡丹なのか判断に苦しむ物語は、一見歴戦の馬力で押し込み得てゐなくもないかに見せて、実際案外か結構首を傾げるなり煙に巻かれるそこそこの頓珍漢。これでは折角市子が文字通り一肌脱いだ甲斐がないといふ以前に、火蓋を切つた際は山﨑邦紀の十八番を薔薇族展開したものかと括目させられた、ガイ・
イン・ザ・ウォーター
の殊に可児正光にまるで意味がない。すは次回作は今でいふBLものかと色めきたつた市子が、波美を谷の店に連れて行く神秘的なまでに都合のいい方便以外には。短い挿入を除けば全てミッチリコッテリ入念に完遂しておいて、選りにも選つて締めの濡れ場が中途で済まされるのも地味にでなく居心地が悪い。どうも、山﨑邦紀がここに来て御当人も出来上がつた映画もノリッノリの一方、浜野佐知はといふと今ひとつ本調子でない様子が窺へる。思ふに、一作一作の間隔が空き過ぎてゐるのではなからうか。酔へば酔ふほど強くなる酔拳ではないが、浜野佐知のやうな筋金入りのパルチザンもといアルチザンは、撮れば撮るほど力と輝きとを恒星の如く増して来る気がする。
以下は再見に際しての付記< 中途で済まされる締めの濡れ場に関して、谷の射精が描かれないだけで、波美は勝手に達してゐるやうにも見えた。となるとそれはそれで、正直理解なり共感には遠い、一方的な行動原理に親和してゐなくもない
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