真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫乱民宿 おかみさんがイク!」(1994/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:荻野真也/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:小林一三/音楽:東京BGM/効果:中村半次郎/メイク:ソレイル/タイトル:ハセガワプロ/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/フィルム:AGFA/現像:東映化学《株》/出演:章文栄・冴木直・白都翔一・坂入正三・樹かず・門倉達哉・港雄一・残間ゆう子)。助監督の小林一三は、樹かずの本名。
 波打ち際の画から入つて、夫婦で旅館を営むあき子(章)と茂一(港)が、買物帰りに林の中の祠にて一休み。神が祀られてゐるといふのに、催した茂一は一週間ぶりの夫婦生活をその場でオッ始める。祟つたものか、木に手をつかせたあき子を後ろからガンッガン突く茂一は卒倒、改めて波打ち際の画にタイトル・イン。タイトル明けも砂浜のロング、歩き始めた人影にカメラがグーッと寄ると、和装の喪服のトメ。何となく海に近づく亡夫(欠片たりとて登場せず)の三回忌を終へたばかりの残間ゆう子に、すは入水かとハルオ(白都)が飛びつく。誤解を侘びついでに、茂一の甥であるハルオは残間ゆう子をミネラルイオン泉を謳ふ温泉民宿「長磯荘」に招く。話の途中で寝たきりになつた茂一の世話に中座したあき子の、満足に喋れもしないにしては無闇に盛んな茂一にホジられる裸の尻を目撃したハルオは、そのまゝ二階の残間ゆう子の部屋に。残間ゆう子の寝込みを「男が欲しかつたんだろ」と欠片の脈略もなくポップに襲ふハルオに対し、クンニを要求した残間ゆう子はサクサク後背位に移行。何もかも顛末はスッ飛ばした夜の長磯荘、謎の長期客・サイトウ(坂入)と磯貝(門倉)が、残間ゆう子があげた嬌声に凄いアベック―劇中用語ママ―がゐると咲かせる下卑た噂に、あき子は残間ゆう子は一人客の筈だと首を傾げる。
 デビュー二十余年の章文栄(a.k.a.章文英)を主演に据ゑた、小林悟1994年最終第九作、薔薇族入れると第十二作。因みに章文栄のキャリアがjmdbでは今作まで八年空いてゐるが、章文英名義なりビリング下位のロマポなり、脱けは大いに予想される。重ねて因みに章文英に関しては、jmdbは項目ごと素通りしてゐる。
 ファースト・カットから章文栄が加齢を隠せない中、物語らしい物語も終ぞ起動しないまゝに、漫然と過ぎて行く尺は案外心地よくなくもない。大概終盤に差しかゝつて漸く、長磯荘でセックスするためだけにサラとトオルの正真正銘アベック(冴木直と樹かず)が登場するに及んである意味完成する、中途で放棄される起承転結すら存在しない鮮やかなほどの、あるいは白夜の如き裸映画。正直おかみさんのトウのたちぶりに、予定されてゐた女優がトンだ類の、ありがちな曰くも想像に難くはない一作。明後日だか一昨日から飛び込んで来るチャーミングな見所は、夜の物置にハルオを呼び出したあき子の、出し抜けに「今日から自分のしたいやうに生きようと決めたの」と、豪快かつ最短距離の内側をも抉る据膳で火蓋を切る一戦。左に喜悦する章文栄の表情を定置した、しかも三分弱長々続く謎の二画面演出は、ピンクでは滅多どころでなく見ない手間を費やして、全体何がしたかつたのか。


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