真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「こくまろオッパイ かきまぜられた私」(2016/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:泉正太郎/撮影助手:宮原かおり・井野雅貴/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎・だいさく/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:高円寺 馬力/出演:佐山愛・児玉るみ・真島かおる・津田篤・えみりい・なかみつせいじ・竹本泰志・山ノ手ぐり子・太三・泉正太郎・松井理子・西入美咲)。出演者中、山ノ手ぐり子以降は本篇クレジットのみ。
 仏頂面でカレーを作る佐山愛が、カレーの匂ひではない臭ひに軽く眉をひそめる。一旦出来上がつたカレーを何を思ふたか押入れに運び、臭ひでも消したいかのやうに団扇でパタパタ扇ぐと暗転して、コッテコテの公開題にも関らず、何の酔狂かピンク映画らしからぬキッチュなフォントでタイトル・イン。ミステリアスで不穏な開巻は、決してどころでなく悪くなかつたのだが、ちぐはぐなタイトル画面で早々に躓いた感もなくはない。
 明けて池島ゆたかが多用する、何時もの何処ぞのシティホテル。弟妹から押しつけられた痴呆症の母・サイ子(えみりい/凄く正体不明)を、さりとて施設に入れる金もなく何と捨てることにした村岡恵子(児玉)は、母との最後の夜だといふのに夫・浩二(竹本)と藪から棒に催した夫婦生活。佐山愛の陰に隠れてなかなかどうして、児玉るみも結構な破壊力を誇る爆乳の持ち主で、姥捨てだなどと今時大概な飛躍を、些末と捻じ伏せ得る見事な濡れ場を披露する。所再び変つて、一時期旦々舎がよく使つてゐた印象のある新宿中央公園。ホケーッと黄昏れてゐたベンチで、笑つてはゐるけれどもキレた形相で迫る、勤務してゐたクリーニング店の社長・五十嵐孝(なかみつ)の幻覚に慄く清水修介(津田)は、恵子と浩二がサイ子を保護責任者遺棄する現場を目撃する。何事か脛に傷のあるらしく、事態を認識しつつ等閑視を決め込む修介を、サイ子は長男・カズヒコ―恵子の弟―だと捕獲。長い回想と疑心が暗鬼を生じさせるパートを経て、結局修介がサイ子を振り切れないまゝ帰宅すると、妻のマキ(佐山)は当然脊髄で折り返して臍を曲げる。
 配役残り西入美咲は、修介と五十嵐が飲む居酒屋「馬力」の店員。松井理子の一役目は、実は借金に塗れてゐた五十嵐が逃げた旨を青天の霹靂極まりなく修介に伝へる、電話越しの五十嵐妻の声。山ノ手ぐり子(=五代暁子)は、諸々の傷口に塩を塗つてマキに前倒しての立ち退きを一方的に強ひる大家。借金は踏み倒し周囲には迷惑をかけ倒しておきながら、五十嵐はギャンブルでそれなりにゴキゲンな日々を送る。純ッ然たる濡れ場三番手の真島かおるは、五十嵐がお馬さんで儲けたあぶく銭で呼ぶデリ嬢・ユメ。杉並から新宿に転勤になつた太三と関根組から初の外征となるのと同時に演出部にも進出した泉正太郎は、清水家を訪れる刑事・佐々木と岡部、太三が岡部から佐々木にスライドしてゐる点に関してはあまり気にするな。そして松井理子の二役目が、幸運なのか悲運なのかよく判らないラストに花を添へる公園の女。
 第二作の話がてんで聞こえて来ない一般映画は一旦一段落したのか、完全にローテーションに復帰した趣の池島ゆたか2016年第三作。2017年も今のところ、同じペースで走つてゐる。捨てられた老婆を拾ふ格好となつた男が抱へる、押入れの物騒な秘密。二つの厄災が巧みに、あるいは豪快に交錯するブラックかスクリューボールなコメディかと思ひきや、清水家が事ここに至る顛末に尺の大半を消費する展開には逆の意味で驚いた。佐山愛のこくまろオッパイはお腹一杯に堪能させ、なかみつせいじは観客の琴線を逆向きに激弾きするウェーイ混じりのガッハッハ調を綺麗に形作り、思ひも寄らぬ方向に転ぶラストは確かに予想外とはいへ、流石に十分延びた時間を丁寧に丁寧に使つて何をやつてゐるのかと激しく唖然とした。ダラついた二時間半の映画の、前半だけ観たかの如き一作。真島かおるは持ち場を欲張らない員数合はせでいいにせよ、素の芝居含め児玉るみが何時でもビリング頭を狙ひ得よう逸材だけに、序盤でサイ子をデタッチするや、村岡夫妻が完全に退場したきりの構成が重ね重ね惜しいか厳しい。


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