真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「道具責め ONANIEナース」(1994/製作:旦々舎?/配給:大蔵映画/監督:水元はじめ/脚本:秋津瑛/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/効果:時田滋/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:森山美麗・哀川うらら・璃緒奈・太田始・樹かず・荒木太郎)。
 ドギツい大書が扇情的なタイトル開巻、新宿の人混みの中一人場違ひな看護婦・秋島鳥湖(森山)がポケベルを被弾、電話ボックスに入る。小刻みな暗転で繋ぐ、この時期既に一流のイントロダクション。ガスか電気か水道かまでは判らない検針員の桑原(荒木)が、女のワレメに似た木の幹の割れ目に吸ひ寄せられる。女子高に勤務する国語教師(太田)は八百屋の店先で立ち尽くすと、大根×胡瓜×茄子、ガチョーンガチョーンガチョーンとカメラが寄るトリプルズームで心を奪はれる、実にプリミティブなカメラワークではある。井伊(哀川)はテレクラに狂ひ、ナツミ(璃緒奈)はモテモテのカラオケ店長の彼氏(樹)の勃ちの悪さに無造作な難色を示す。鳥湖の実家に残した家族との電話と、公開題の後段を忠実に実行する―前段を担当するのは桑原―ONANIEを噛ませて、一体何を仕出かしたのか公衆電話で女に平謝りする桑原は、後述する突飛な方法で連絡先を入手。自宅に呼んだ、某財団から派遣される訪問ナースである鳥湖に、観音様の拡張マニアであるがなかなか受け容れられないといふ悩みを打ち明ける。
 前作「獣欲魔 ちぎれた報酬」から年を跨いで、水元はじめ名義による山邦紀ピンク映画大蔵第三作。山邦紀は本名に戻す―それでも当初は山崎邦紀名義―まで水元はじめ名義で四作を発表してゐるとのことだが、残念ながらDMMの中には第二・第三二作しか入つてゐない。太田先生宅では“ストリップ紛ひのことはしたくない”といつておいて、桑原から即金で受け取る謝礼の三万円といふ絶妙な額まで含め灰色ですらなく出張風俗嬢と変りない訪問ナースが、各種の特殊性癖者を癒し渡り歩く。旦々舎作に特徴的なヒロインの漂泊性も踏まへた上で、奇怪にして愉快な変態がワラワラ湧く博覧は、山邦紀真骨頂の感にひとまづ堪へない。訪問ナースのチラシ付きバイブレーターが、空から降つて来るはジュースの代りに自販機が吐き出すは運転の止まつたコインランドリーの中から出て来るはと、想像力溢れるファンタスティックも楽しい。尤も、しつかりとした骨組みと豊かな枝葉には反し、全体的な構成は然程でもなく堅牢ではない。拡張させた女陰の内部を覗き込み自慰をオッ始めた桑原を、鳥湖は「拡張の趣味が悪いんぢやないの、オナニーしか出来ないのが問題なのよ」と叱責する、いや拡張自体にも問題がなくはないだろ。同好の女を探すとか素直に憑き物を落とす桑原の姿には、馬鹿正直にポジティブ過ぎる印象も禁じ得ない。容易く矯正されなどしない強固な屈折が俳優部としての荒木太郎の持ち味で、そもそも、曲がつたものは曲がつたままで生きる。それもひとつの“真直ぐな生き方”とはいへまいか、俺はさう思ふ。拍子の外れる桑原戦を経て、太田先生パートが唯一始終を十全に振り抜く最高潮。この御仁はこの御仁で、野菜を挿入した女性性器を前にせんずりで自己完結する太田先生に対し、鳥湖が野菜コンプレックスを看破するのは異才山邦紀流石の奇想。促され通常の性行為に漕ぎつけた太田先生が、“僕はこれで野菜達と兄弟に”と感激するのも振るつてゐる。野菜と兄弟!野菜の性別なんて考へたこともない。昨今の、たとへば文房具同士のセックスを描くカッ飛んだ同人誌の、完全に先を行つてゐる。そこまでは、いいとして。太田始がビリングに疑問を呈する大活躍を見せた後(のち)に、劇中トリで鳥湖のお世話になる樹かずが、ナツキ経由で治療するといふ変則的なアプローチは出色といへるものの、要は底の抜けたナツキを持て余しての単なる一時的な不能に過ぎないといふのは逆の意味で感動的な失速。再起動した断続暗転で、ONANIE中の鳥湖に銘々が礼を述べるラストに際しても、結局最後まで正方向に転んでみせないどころか寧ろ拗らせた、太田先生が一人気を吐く。
 と、消化不良気味に本篇を満了したところで、実はなほも五分尺を余す。残りを延々鳥湖のONANIE・トリコナニーで突つ切るのは大胆といふか大概な力技ともいへ、これが濡れ場として十二分以上に充実してゐるだけに、不発の劇映画を裸映画がすんでで救済した風情は感興深い。

 最後に、クレジットの中に薮中博章の名前がないことに軽く驚きかけつつ、よくよく思ひ返してみると、今作画の背景に流れるのは汽笛を筆頭に効果音のみで、いはゆる劇伴を使用してゐない。


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