真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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尼寺 姦淫姉妹
友松直之
/
2014年08月20日
「
尼寺 姦淫姉妹
」(2013/製作:オールインエンタテインメント・新東宝映画/配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之/企画:福俵満/プロデューサー:西健二郎・衣川仲人・石川二郎/キャスティング:久保和明/撮影・照明:田宮健彦/録音:千阪哲也/助監督:高野平/編集:石井塁/監督助手:島崎真人・福田竜馬/撮影・照明助手:川口諒太郎/ヘア・メイク:化粧師AYUMO/スチール:中居挙子/メイキング:奥渉/ロケコーディネイト:田中尚仁/協力:土井光・ファンデッド・Mスタジオ/制作協力:アウトサイド/出演:緒川凛・あん・若林美保・福天・森羅万像・浅野潤一郎・金子弘幸・稲葉凌一)。久し振りなので改めておさえへておくと、共同製作のオールインエンタテインメントはex.GPミュージアムソフト。
憐れ暴虐に曝された姉妹が横たはる、姉がことそこに至る顛末を語る旨を告げタイトル・イン。
深い森の中、女郎に売られた佳代(緒川)と美代(あん)の姉妹が女衒・留五郎(浅野)に追はれ逃げる。ピンク映画前作「
猥褻事件簿 舌ざはりの女
」(1995/脚本・監督:出馬康成)では物静かなイケメンを演じた浅野潤一郎が、昨今ではそれが十八番らしく大衆演劇ばりの戯画的な悪党面でポップに怪演、所属事務所公認のファンサイトの好評も博してゐる。旦々舎作にて間男だけでなく色んなものに女房を寝取られた栗原良(a.k.a.リョウ・ジョージ川崎・相原涼二)が、眉間にギリギリと皺といふより最早溝を刻み込み、「どうしてかうなつたんだ」と闇雲に難渋に苦悩する様にやんややんやの喝采を送る当サイトとしては、非常にシンパシーを覚えるものでもある。閑話休題、三人の前に現れた恩福寺の庵主(若林)は、留五郎が支払つた二人?の代金の肩代りを宣言、姉妹を保護する。喜ぶ佳代と美代ではあつたが、二人に恩福寺を教へ先に逃げ込んでゐる筈の、ヨネ(簀巻から落ちる簪しか登場せず)を庵主は知らなかつた。とまれ、仏道の修行に入るや庵主は華麗に豹変、姉妹が親に売られた不遇の源を仏教の縁起思想を大胆不敵に正しく換骨奪胎、もとい援用しヤラせない女の業に直結。寺男・三吉(福天)と、懇ろな仲にもある代官(森羅)も交へ佳代と美代を陵辱する。
配役残り、歴戦に培はれた渋味と絶妙な投入のタイミングとで起承転結の転部を綺麗に担ふ稲葉凌一は、入る者はゐても出て来る者が見当たらない、恩福寺に猜疑の目を向ける同心・杉蔵。正直時代劇には些かならず苦しい金子弘幸は、隠し金を貯め込んでゐるのではと噂される庄屋・畑中与兵衛。
レイプゾンビ完結編がタイムラインを席巻する友松直之2013年第二作のお盆映画が、一年遅れで地元駅前ロマンに着弾。因みに藤原健一も愛染塾長も袖に、封切られたばかりの今年の新東宝新作は「
セイレーンX
」以来六年ぶり二度目となる城定秀夫ならぬ城定夫。オーピーと決裂した浜野佐知が古巣のエクセスに戻り、逆に山内大輔が大蔵電撃参戦となると、なかなかどうして。刻一刻と激動する情勢が、映画以前に面白い。再度閑話休題、不幸な女達の駆け込み寺は、檀家その他へのまぐはひ修行と称して要は性奴隷を養成する魔窟であつた。腰から下―のみ―を直撃する人を喰つた類型的な通俗ポルノグラフィーに、時代劇である以上当然でしかないのだが時代がかつた口跡がかつて観た覚えがないくらゐハマる、若林美保がキャリアハイを思はせる超絶のジャスト・フィット。女子力を“をなごぢから”と効果的に近古語訳した上で、ヤラせない女の、罪ではなくこゝでは業を、庵主が自己啓発セミナーよろしく絨毯爆撃するのは信頼するしないは兎も角安定の友松節。佳代に無理から尺八を吹かせながら、代官もエモーショナルに叫ぶ。「中年は、キモいか!」、「臭いか!」、「ウザいかーッ!」。ほかならぬ森羅万像が定立する、キモい臭いウザい
中年三原則
も出色。さうはいへ、一体何度目の同工異曲かといふ話ではある。修辞法に若干のマイナー・チェンジがありこそすれで完全に定型は出来上がつてゐるだけに、ライフ・テーマ乃至お家芸と捉へるのか、あるいは手癖と同義のマンネリズムと看做すのか、議論は大いに分かれるところなのでもあるまいか。ところが、杉蔵の登場に恩福寺の邪にせよ何にせよな安定感は揺らぎ始め、不審火の下手人に関して庵主と代官が食ひ違ふさりげなくも重要なツイストを経て、高を括つた油断は否めないともいへ予想外の方向から飛んで来た重たいストレートに、まんまとバットはヘシ折られた。エキセントリックな相貌にロジカルな本格を隠す友松直之にとつては造作ない作劇に過ぎないのかも知れないが、意外といつては失礼だが演者自身の熱量も相俟て、ヒロインの底深い、そして文字通りの愛憎あるいはこゝでこそ業が劇中世界を畳み込む、否呑み込んでしまふラストには強い衝撃を受けた。単なる持論の器に止(とど)まらず、純然たる一個の物語であることに潔くシャッポを脱いだ。断じて忘れてならないのは、お芝居だけでなくクッソエロい体の主演女優を擁し裸映画的にも充実。森羅万象と福天の、巨大な腹で結合部を自然に隠した緒川凛・あんそれぞれの騎乗位ショット二連撃はエクストリームに素晴らしい。よくよく考へてみると、最終的に実は代官の去就が宙ぶらりんのやうな気もするが、神も宿さぬ些末は気にするな。
二度目のさうはいへ、それでも友松直之にはそろそろこゝいらで、平素のトモマツイズム縮めてマチズムを一切廃し、脚本を川村真一に渡すつもりで書いたガッチガチの正攻法を披露して貰ひたいところではある。何が望みなのかといふと、一遍城定秀夫との真正面からの撃ち合ひが観てみたいんだよね。
一点苦言を呈しておかざるを得ないのが、美代が三吉に帯を引かれ、クルクル独楽のやうに回りながら身包み剥がれる大定番御馴染みのシークエンス。そこで美代が上げる悲鳴が、「いや~ん」といふのは激しく頂けない、そこは是が非とも「あ~れ~」であるべきではなからうか。それは単なる量産型娯楽映画のクリシェなどではない、営々と積もつた塵、もとい積み重ねられた伝統に対する敬意である。
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