真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熱い吐息 股間のよだれ」(2001『痴漢電車 さはつてビックリ!』の2014年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:河本晃/企画:福俵満/撮影:中尾正人・田宮健彦/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/応援:堀禎一/助監督:菅沼隆・永井卓爾/協力:藤田功一・朝生賀子・大西裕・小泉剛・上野勉・田尻裕司・杉浦昭嘉・増田正吾・松江哲明・海野敦・藤江啓子/出演:麻田真夕・葉月螢・鈴木敦子・川瀬陽太・佐野和宏・十日市秀悦・あ子・小林節彦・いぐち武志・羅門ナカ・秦国雄・伊藤一平・藤川佳三)。出演者中、秦国雄以外のいぐち武志以降は本篇クレジットのみ。応援の前にポスター・スチールの元永斉。
 開け放たれた窓越しに―劇中七月五日となると、虫が入るぞ―目覚まし時計に起こされる足下を抜いて、若いのにくたびれ気味のサラリーマン・斎藤祐二(川瀬)が通勤電車に飛び込む。ドアの窓ガラスに川瀬陽太がペチャーとなつてタイトル・イン。因みに瑣末を突つ込んでおくと、ホームへと駆け上がる階段で祐二が擦れ違ふ降車客は、朝のラッシュ時の人間には見えない。
 一見ハイソな職業婦人・吉本明日香(麻田)に密着された祐二は、据膳的な風情についつい電車痴漢。男の夢中を看て取つた明日香は、祐二の財布を掏る。要は明日香はさういふ手口の、女スリだつた。一方熟練のスリ師・梅田昌義(佐野)はそんな仕事中の同業者から掏るも、追つて来た刑事・滝(小林)の気配を感じ、仕方なく明日香の財布は祐二のポケットに放り込む。その日の夜、祐二が帰宅すると、部屋には明日香が上がり込んでゐた。鮮やかなスリのクロスカウンターを誤解した明日香は、混乱と困惑し固辞する祐二を、仕事仲間として組まうとする。そこに祐二の同僚兼婚約者・松田由実子(葉月)から来宅する旨の電話が入り、明日香は本棚のハーモニカをくすね一旦退出する。
 若干前後するその他出演者、十日市秀悦は明日香がバイトするコンビニの脱サラ店長・谷岡信雄で、鈴木敦子がその浮気相手のギャル・山本ミキ。いぐち武志と伊藤一平は、川瀬マシーンの二仕事目、カチ込んだ街金の若い衆。あ子は明日香のヨイヨイの祖母・弥生、この人もスリ。悪いイケメンの秦国雄は、誰かさんの二股氏・三浦健太。ともに演出部の藤川佳三と羅門ナカ(=今岡信治)は、祐二以外に明日香に釣られる痴漢リーマン。あと冒頭の祐二が明日香とミーツする痴漢電車の車中に、よく判る形で杉浦昭嘉が見切れてゐる。
 キュートグレた珠玉の造形と、肩の薄さと腰の細さが堪らない麻田真夕に初見で心を射抜かれつつ長く再会を望んでゐた2001年榎本敏郎ピンク映画唯一作(薔薇族が一本先行)を、へべれけに改題された新版で再見。幾らピンク映画会社のすることとはいへ、台無し感は迸る。それは兎も角、大胆な映画的虚構の数々で展開を巧みに繋ぐと、正しく曇り時々雨のち晴れ。万事が然るべき納まり処に納まる、磐石にして爽やかなラスト・シーンに一時間強の尺を一直線。意外な女の裸比率の低さにも些かたりとて躓かせない、色褪せぬ恋愛映画の逸品。拗ねて毛布をヒッ被り、時にいふ“髪の毛まで芝居する”麻田真夕。エルボー気味に、佐野和宏が川瀬陽太の胸内ポケットにハーモニカを捻じ込むカットの超絶。久ッし振りに観たけど凄え、ザクッとフレーム・インする佐野の背中が凄え!量産型娯楽映画が数打つラックの中から叩き出した、度肝を抜かれるレベルの名場面の数々。十日市秀悦の「励まさないで呉れよう」、あ子の「あ・そ・こ」―断じてセクシャルな意味合ではない―と、脇を飾るキャラクターに至るまでハマッた名台詞を乱打する奇跡の配役。完璧なタイミングで投入される秦国雄の起用法も、濡れ場込みで地味に捨て難い。長い歴史を通して辿り着いた、キラキラと輝く名作痴漢電車。今作のプリントが薄くでもなく汚れたこのクソ世界に残された、僅少な宝石のひとつであることを俺は信じて疑はない。


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