真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「フェチな女たち ‐恥づかしい下着‐」(1999/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:岩崎智之・藤井昌之/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:《有》フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・田中康文/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:河野綾子・篠原さゆり・柳東史・熊谷孝文・やまきよ・村上ゆう)。
 ズンチャカ劇伴起動、落ち葉鮮やかな雑木林の中を河野綾子が歩いて来る。女性下着訪問販売員・デコラ(河野)は付き合ひ始めた彼氏との原因を自覚する別れを嘆きながらも、仕事に生きる旨を一旦誓つて街に。ワインレッド地にエレガントなフォントのタイトル・イン、この頃の大蔵にしては、どうかしたのかと不安にさせられるほどの小洒落さではある。
 旧旦々舎和室、デコラが正宗(やまきよ)に顧客が試着した―試着させるのか―パンティを提供すると、正宗は付着した陰毛を舐り、女の年齢から体型、性格やセックスの傾向まで言ひ当てる。ソムリエか、といふか『俗物図鑑』にかういふキャラクターゐたね、向かうは嘔吐物だけど。デコラと正宗はそれなりに親しき仲らしく、彼氏と別れたことを見破られたデコラが、褌愛好家であることがここで明らかとなる。因みに、といつてデコラが愛用する褌はレース生地の褌として締めなければスカーフにでもしか見えないやうな代物で、同じ褌なら褌でも、山邦紀の褌女偏愛が浜野佐知に清々しくスッ飛ばされた、「和服姉妹 愛液かきまはす」(2011/主演:浅井千尋)の方が余程ストレートに褌褌してゐる。ともあれ、正宗と褌が然程機能しない普通の一戦を交へつつ、褌趣味を受け容れ得るのが陰毛フェチの変態しかゐない男運のなさを自嘲するデコラに、正宗は変り者の親友を紹介することを約する。
 そんなこんなで熊谷孝文が、一見普通の好青年風に見えデコラがサクサク自宅に連れ込む才蔵、この人の正体は尻毛フェチ。篠原さゆりは、「軽蔑はしないけど度肝抜かれた」デコラに才蔵がもつと凄い女の人と逸話を紹介する、真純か真澄か真須美か以下省略。入れられる方のスカルファックを切望する、苛烈な頭蓋骨フェチ、死ぬぞ。スカルファックの話を向けられ、ううんと頭(かぶり)を振り知らない知らないする河野綾子が超絶可愛い。村上ゆうは、正しく類が友を呼ぶデコラの友人・桃園、コルセット愛好家。柳東史は桃園が痛い目に遭つた、黒革のジャケットと黒シャツをカッコよくキメたハンサム。普通に桃園が満足する一回戦を通過後、シミーズ着用後水に濡れさせた桃園を暴力的に犯す。
 薔薇族が一本先行する、山邦紀1999年ピンク映画第一作。村上ゆうや篠原さゆりや山本清彦がゐて、柳東史はまだ若かりし時代。正宗から才蔵でドッチラケる流れが、真純で最大加速。桃園と柳東史で綺麗に尻すぼむとはいへ、友達の友達は皆友達だとでもいはんばかりに、世界に変態の輪が広がる様は世間一般的には屈曲してゐるやうに見えて、この上なく山邦紀らしい安定飛行。尤も、アクロバットに拡げた風呂敷を、満足に畳む段には決して成功を果たしてゐるとはいへない。結局、理解ある男との出会ひを諦めたデコラと桃園が、百合の花を咲かせるに至るのはある意味定番展開。能動的に嗜好あるいは志向する性癖といふよりも、それ以前の性格乃至は要は幼少期のトラウマを拗らせた―だけの―柳東史は顧みられるに値しないとしても、正宗と才蔵、劇中最強のアブである真純の去就も放置―正宗が真純に接近を図る、イメージは挿入されるものの―した上で、デコラと桃園が褌とコルセットで大儲け。札片を浴び大喜びした末に、オーラスのデコラの台詞が「私達変態でよかつた」だなどといふのは随分とらしからぬ怠惰なオプティミズム。そもそも、自らを紛れもないこの世界の正統派と自任する陰毛フェチの正宗が、孤独な異端の人と半ば見下す才蔵が尻毛フェチといふのは如何なる他愛ない冗談か。但し、物足りない幹に対し枝葉は豊かに生ひ茂る。一本の陰毛から女の諸々を看破する特殊能力をデコラに呆れられた正宗曰く、「神は細部に宿り賜ふ」。わはははは、斯くも本質的な言ひ得て妙見たことがない。尻毛を偏愛する才蔵に対し、デコラが「マニアにどうしては禁句ね」と疑問を呑み込むのも冷静にして的確な態度。最も凄まじいのは、唐突に挿入される正宗ことやまきよがふりかけ感覚で陰毛を御飯にパラパラと塗(まぶ)し、美味しさうに平らげる陰毛飯のイメージ・ショット!何だこの奇跡的なイマジネーション、知らない訳ではなかつたが、改めて山邦紀天才過ぎるだろ。何はともあれ、強力な三本柱が硬質の撮影に映える濡れ場の威力は絶大。腰から下で見るなり観る分には、文句なく満足出来る。物語が覚束ないならば女の裸にエモーションを賭せばよい、それがピンク映画の強みでなくして一体何であらう。


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