真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ノーパン医院 お脱がし治療」(2002/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:樫原辰郎/撮影:長谷川卓也/照明:守利健一/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平・大滝由有子/撮影助手:小宮由紀夫/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:池谷紗恵・柏原恵理・桜沢夕海・寺西徹・銀治・かわさきひろゆき・いか八郎・石動三六・田中護・廣田正興・鈴木厚・末吉太平・三浦俊・枝吉一大・小村大介・生方哲・山本幹雄・吉永幸一郎・矢上克彦・植ムラ・瀬川ゆうじ・荻野晶張・伊藤信彦・河野博史・高橋和彦・土橋大輔・船本賢悟・加藤義一・小泉剛・下垣外純・FUTOSI.com・岡下以蔵・菅沼隆・青木勝紀・鈴木祐馬・岸栄太郎・西浦淳平)。
 朝倉(寺西)は杉並区の開業医、近隣の住民は病的に健康な者が多く、朝倉の医院は開店休業の状態がずつと続いてゐた。ノイローゼ気味の朝倉が精神科に看て貰ふのを思ひたつてゐると、医院に頭から血を流した看護婦・リリ(池谷)が飛び込んで来る。妙に丈の短いナース服のリリは、驚く勿れノーパンであつた。
 閑古鳥の鳴く医院に転がり込んだ風俗嬢が、ノーパン看護婦として奮闘、大騒動を巻き起こす。大雑把に掻い摘んでみれば、さういふプロットのコメディである。国沢実には後に触れる自身の登場シーンのやうに、箸にも棒にもかゝらない暗黒映画を好き勝手に撮らせておくくらゐならば、喜劇演出の才に全く欠けてゐるといふ訳では必ずしもないにせよ。今作に於いて致命的なのは、寺西“『びっちゅう』”徹の徹底的なコメディ・センスの欠如。長々と朝倉の独り言で片づける導入部から容赦なく吹き荒れる空々しさが、映画を完膚なきまでに打ちのめす。芸術的な首から上の造作の美しさを活かしてキラキラと弾ける池谷紗恵にも、終に映画は救へなかつた。これも後述するがそれ以前の問題といふのも、国沢実は抱へてゐるのだが。
 一昔前のHRギタリストのやうな破天荒な金髪の柏原恵理は、森の中でタカシ(銀治)と青姦に勤しむミミコ。二人を木陰から覗くのは、アーミールックに身を包んだ自衛隊出身の国沢☆実。タカシの下手糞な腰使ひに業を煮やした国沢☆実は、「とう!」とライダーばりのかけ声よろしく飛び込み前転で木陰から飛び出すと、匍匐前進で二人に接近。タカシの背後を取ると、有無をいはさぬスパルタ指導で二人を絶頂へと導く。果てた後我に返り国沢☆実の存在に気づいたミミコは、膣痙攣を起こしてしまふ。同じく自衛隊出身であつたといふ設定のタカシと国沢☆実との、アドリブ風の遣り取りが楽しい。自身が登場するこの件は、肩の力も抜けきれてゐるのか普通に面白可笑しく観てゐられる。それが高級か低級なのかは兎も角、決して全く国沢実には喜劇演出の才が欠けてゐる訳ではなからう。銀治も自衛隊出身といふのはネタ―ではなかつた、文末付記を参照されたし―にしても、国沢実の最終階級―これは用語として正確なのか―が一等陸士といふのは事実であらうか。ミミコとタカシは、朝倉医院に駆け込む。ギャグが酷い以前に寺西徹が間の取り方を全く弁へない手術場面の寒さも、筆舌に尽くし難い。術後、ミミコは二人目のノーパン看護婦として医院に居座る。
 起承転結でいふと転部の強引ぶりにも程がある、身の丈に合はない飛び道具に関してはこの際等閑視して済ますとして。世界を救ふべく医院を後にしたリリは、数年後朝倉の下に戻つて来る。ギアをトップに入れて紗をかけた締めのリリと朝倉の濡れ場、「私には、あなたがゐるから」、「私の居場所は、こゝにしかないから」、「これからも二人で、ずつと」。そんな糞みたいな、しかも二人のモノローグの合唱(!)で映画をズッタズタに締め括る。壊れ気味のルーズなコメディとの、空気の齟齬など最早どうでもいゝ。これは何も国沢実に限られた話でもないが、近年性懲りもなく怠惰に垂れ流され続ける、この手のさもしい悪弊はどうにも煮ても焼いても喰へない。さみしいさみしいさみしい、五月蠅えデスれ。そんな無様な醜態を曝すくらゐなら、初めから近代なんて幕を開けなければ良かつたんだ。

 無闇に膨大な俳優部のうち、いか八郎は開巻を飾るジョギング男。あんまりこの人は、健康で健康で仕方のないやうには見えないが、ジョギング男は計三名。かわさきひろゆきと石動三六、以下無量大数はノーパン看護婦の評判を聞きつけ朝倉医院に詰めかけるスケベ患者。かわさきひろゆきは三人目のノーパン看護婦・カヨコ(桜沢)登場の呼び水に、出番もタップリとある。リリがノーパン看護婦として最初に引いて来る車を運転中の男が、誰なのか判らない。

 付記< 有難い時代で、ツイッターを介して樫原辰郎御本人様より御教示頂いた。よく知られる国沢実だけでなく、銀治も自衛隊出身とのこと


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