真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和風旅館のロシア女将 女体盛り」(2004/製作・企画:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳士/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:野田友行/助監督:伊藤一平/監督助手:清水雅美/撮影助手:溝口伊久江/照明助手:吉田雄三/衣装:小川真実/主演:グロリア/出演:小川真実・瀬戸恵子・山本東・成田渡・野上正義)。出演者中、しかも主演のグロリアが、ポスターには何故かカレン・ユルサコフ。グロリアだかカレン・ユルサコフは、“主演”と別枠でクレジットされる。脚本の国見岳士は、勝利一の変名。
 サラリーマンの谷崎信一(山本)は男に金を持ち逃げされ途方に暮れてゐた、ロシア人のエカテリーナ(グロリアあるいはカレン・ユルサコフ)と出会ふ。忽ちエカテリーナと恋に落ちた信一は、結婚を決意し故郷の父親に紹介しようとするが、伊豆伊藤で温泉旅館「谷崎旅館」を経営する父・茂雄(野上)と、旅館を継ぐ意思のない信一とは絶縁状態にあつた。因みに谷崎旅館の表のガラス戸には、山喜とあるのだが。
 今作のエクストリームな決戦兵器は、何はともあれ主演のグロリア。何はなくとももしくはカレン・ユルサコフ。この辺りの名義の混乱が、どういふ事情に起因するものなのかは潔く知らぬ。エクセスの連れて来るロシア人女といふと、佐々木乃武良の放つたテンプルを砕く危険なロシアン・フックが個人的には印象に強い、といふか心に深い傷を残してもゐるのだが。今作のグロリアは、もういい意味で一体何処から連れて来たのか、あるいはもつといつてしまふと随分な言ひ草ではあるが、何でこの娘がこんなところに居るのかが判らないほど、もう、メッチャクチャに可愛い。正しくお人形さんのやうな、正調―北半球―高緯度地帯産美人のど真ん中をズバ抜く別嬪さんである。大雑把に譬へるならば、エマニュエル・ベアールの民生モデル、彼女はフランス人ではあるが。グロリアに話を戻すと、片言の日本語なんてどうでもいい。勿論存分にこなしては呉れるが、最早濡れ場すら別になくともいい。そこで小首を傾げて微笑んで呉れてゐるだけで、お腹一杯に大満足だ。映画の出来不出来も、この際さて措いたとて構はない。妙に執拗にフィーチャーされる、タトゥーは少々邪魔でもあるが。
 衣装にもクレジットされる小川真実は、谷崎旅館の仲居頭・山村真佐子。妻と既に死別した茂雄とは、男女の仲にもある。瀬戸恵子と成田渡は、エカテリーナに連れられ不意に谷崎旅館に逗留することとなる、如何にも訳アリな風情の原田あさ美と坂上佳宏。
 信一とエカテリーナ、あさ美と坂上のそれぞれの結婚問題を重ね合はせつつ、死すら決意の上で温泉町を訪れたあさ美と坂上が、心機一転明るく前を向いて宿を後にするまでは、お気楽ながらにそれはそれとして手堅くもある旅情譚として仕上がつてゐる。日本旅館にロシア人女将などと初めは否定してゐた茂雄が、その人とは知らぬ間にエカテリーナと懇意になつてゐたりするラックも鉄板。とはいへ強ひて挙げるならば残らなくもない問題は、棹尾を飾るエカテリーナの女体盛りの呼び水となるべく、谷崎旅館を訪れる四人組の予約客。高橋教授(勝利一)をリーダーとする、戸籍の発掘調査隊(残り三人は不明)である。物語の進行上然程有効に機能してはゐないのだが、谷崎旅館は、一帯の温泉の枯渇により休業の憂き目に遭つてゐた。従つて予約客は全て断つておいた筈が、一組だけ断り損ねてゐたのが、高橋調査隊である。繰り返すが、温泉の枯渇により休業してゐる筈の旅館を訪れた、予約を断り損なつた一行は戸籍の発掘調査隊。と、なると。ここは当然に、戸籍発掘中の調査隊が、偶然新たな湯脈を掘り当て温泉街は活況を取り戻しました、目出度し目出度し。と、来るのが娯楽映画的な展開の常道ではなからうか。陰鬱な客がエカテリーナの女体盛りで朗らかになる、などといふのは、斬つて捨ててしまへば蛇足に過ぎないやうにも思へる。あさ美と坂上が退場するまでが綺麗に纏まつてゐただけに尚更、締めでの詰めの甘さが、不自然にすら見えなくもない。
 
 国見岳士(=勝利一)も仕出かすぞ珍台詞、エカテリーナの女体盛りを盛り上げるべく信一のMC。「当旅館名物、若女将の女体盛り。今夜限りの、特別企画でございます!」。名物なのか一夜限りなのかどつちなんだよ、グロリアは兎も角、誰もおかしいとは思はなかつたのか。
 ポスターには、“好評<ロシアの女>シリーズ第2弾!”と晴れ晴れしく謳はれる。第一弾といふのは、「白い肌の誘惑 ロシア未亡人」(五月公開/監督:坂本太/主演:ナターシャ・タギロワ)のことか。観てはゐるやうな気もしつつ、内容は俄かには思ひ出せない。
 どうでもいいことと言つてしまへばそれまででもあるが、今作が、今年百本目のピンクである。序に先に触れた佐々木乃武良のロシアン・フックは、昨年の一般映画まで含めてトータルでの百本目でもある。どういふ訳でだか、百本目はロシア女と縁があるのであらうか。

 以下は再見時の付記(H21/5/10)< 上記の“今年百本目”といふのは二年前、第二十一次「前田有楽旅情篇」の折のこと。因みに今回第四十一次「小倉名画座急襲篇」に際しては、残念ながらピンクとしても全体としても、未だ百本目には至らず。


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 「義母同窓会 -息子を食べないで!-」(2004/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:城定秀夫/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:水沢ゆりか・林由美香・葉月螢・松浦祐也・丘尚輝・なかみつせいじ)。
 静流(しずる/水沢ゆりか)は尾崎(全く出て来ない)の後妻として結婚するが、尾崎は海外に単身赴任で出てしまつてゐる為、今は義息の啓(松浦)との二人暮らし。義母とはいへ、歳もさほど離れない女盛りの静流に啓は秘かに肉欲の伴つた激しい恋情を抱き、静流も静流で、若い啓のことを意識せぬではなかつた。ある日静流は、高校の同窓会に出席する。円城寺薫(林)・三枝孝子(葉月)と女三人だけの二次会が、孝子の夫の馴染みの高級料亭で開かれる。矢張りどちらも後妻の薫と孝子は、静流を自分達のクラブ“セカンド・ワイフ・クラブ”に誘ふ。学生時代華やかな二人に憧れを抱いてゐた静流は喜ぶが、セカンド・ワイフ・クラブに入る為には、秘密を共有する条件が。その秘密とは、義息との不貞であつた。
 物語以上に豪快な配役が、映画を根こそぎ引つこ抜く一作。無茶もここまで来ると、いつそのこと清々しい。何が無茶かといふと、三組の、義母と義息との不義の物語。それで林由美香と葉月螢の相手を務める男優部残り二人が、たとへば柳之内たくまと白土勝功だといふのならばスンナリ肯けもするが。今作の場合は薫の義息が同い年の丘尚輝、孝子の義息は年上のなかみつせいじ、幾ら何でも豪快過ぎるだろ。孝子は義息と関係を持つに至つた理由として夫のEDを挙げるが、なかみつせいじの親爺となると、それは単なる耐用年数なのでは?
 破天荒はひとまづ黙殺することにして、今作が狂ほしい絶頂を迎へるのは、続く薫の啓攻略戦。後日、孝子が静流を誘ひ出し、その隙に薫が偵察がてら家に一人の啓を急襲する。啓が静流に劣情を抱きつつも、同時に未だ童貞であることを看て取つた薫は、俄かに綺麗―で淫ら―なお姉さんに変身。「啓君経験ないんだあ・・・。いいは、私が練習台になつてあげる」。「いいは、私が練習台になつてあげる」、林由美香のこの台詞を聞くだけでも、本作は絶対に観る価値がある。晩年即ち絶頂期と個人的には見るものである林由美香の、一撃必殺が火を噴く名シークエンス。常々の繰り返しにもなるが、ピンク映画を監督の名前で選り好みする悪癖に対しては、頑強に再考を促すものである。少なくとも、お目当ての一本は一本として、木戸銭も三本分払つてゐるのだ。残り二本もキチンと観て来るくらゐいいではないか、そこに何が出て来るか判らないのが量産型娯楽映画である。
 林由美香と松浦祐也の濡れ場に続いて、そのまま起承転結でいふと承部で静流と啓が結ばれてしまふ為、これは展開が些か性急過ぎはしないか。あるいは全体の構成のバランスのことを全く考へてゐないのではないか、と思ひながら観てゐたところ、更に悪ノリに拍車のかかる転部を経て、滅茶苦茶ながらに最終的には地味に映画をキッチリ纏め上げる。羽目を外すところでは外しながらも、全体的には案外さりげない水準作。転部の締めでタイトルを有効に活かす辺りは、ぞんざいな公開題の付けられ方がされることの多いピンクにあつては、なかなかないことでもある、さういふ辺りも踏まへて佳篇といへよう。

 これを恒例とするのも我ながら如何なものかとも思ふが、今作の岡輝男。薫は啓にスキンを被せるに際して、「薄皮一枚のモラル・・・・」。この“薄皮一枚のモラル”といふのはセカンド・ワイフ・クラブの合言葉なのか、それとも岡輝男が自分で余程気の利いた文句を思ひ付いたつもりにでもなつたのか、孝子も静流も用ゐるのだが、何が道徳か。本来の生殖機能を等閑視して、徒な悦楽を恣に貪る為の便宜だろがよ。ともあれ、肯定的に捉へるならば、今作はスキン着用を奨励したピンクではある。
 同窓会要員に、何れも男の他三名見切れる。啓の妄想中、静流に「ア~ン」して貰ふのは城定秀夫、残りの二人は知らん。

 以下は再見に際しての付記< 同窓会要員、城定秀夫の画面向かつて左に正面から抜かれるのは加藤義一。もう一人、加藤義一と歓談する男は背中しか見えないので本当に判らない。多分新田栄ではあるまいかとも思ふが、それならばいつそのこと三本柱の恩師・北村先生役で堂々と出撃すればよかつたのに。


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