真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「初恋不倫 乳首から愛して」(2001/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:吉行由実/撮影:清水正二・岡部雄二/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄・下垣外純/制作:小林徹哉/ポスター:縄文人/タイトル パンフ:堀内満里子/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:長野ニュー商工会館/出演:里見瑤子・佐倉萌・山咲小春・西川方啓・中沢真美・太田始・内藤忠司・田中さん・井上さん・大町孝三・吉田康史・野上正義・長野市のみなさま)。出演者中中沢真美から吉田康史までと、長野市のみなさまは本篇クレジットのみ。なのはいいにせよ、絡みも介錯するそれなりに大きな役でポスターには―当然―名前が載るにも関らず、丘尚輝(a.k.a.岡輝男)が本クレに忘れ去られるよもやまさかの大惨事。
 長野の善光寺周りを流す車載カメラで開巻、修理屋の吉田公男(荒木)が、恋人で参道の喫茶店「夢屋」で働く苗字不詳の―早川?―小百合(里見)に車から声をかける。小百合の仕事終りを待ち二人で寿司を食つたのち、常用するラブホテル「プレジデント」に。婚前交渉の事後、一人勝手に満ち足りる吉田を余所に小百合が目を泳がせてゐると、8ミリ起動。善光寺近辺と2011年三月末に閉館した長野ニュー商工を暫し見せた上で、二人とも浴衣の、小百合と中学時代の同級生・野村健太(西川)が仲良く花火。のちに語られる撮影者は、小百合亡父。綺麗な女優さんになる夢と、小百合主役の映画を作る監督になる夢とを語り合つてタイトル・イン。明けて一転、再び35による東京の下町ショット。目下映画配給会社「東西映画」の営業として働く野村に、長野出張が決まる。一方、小百合の実家は、妹の香織(佐倉)と入婿かも知れない純一(丘)が継いだ長野ニュー商工。ところで小屋自体に話を逸らすと、スクリーンの横幅は本格的に狭く、無理からシネスコで上映すると派手に上下が空くにさうゐない。四席づつの客席が左右二列並ぶのが、妙に斬新に映る。ハッテンするには、何気に窮屈な気がする。閑話休題、長野入りした野村は、小百合と再会。楽日早めの終映後、老映写技師・山田(野上)の計らひで小百合が野村と“二人のための特別興業”を楽しんでゐると、吉田が迎へに来る。
 配役残り中沢真美から吉田康史までは、オフィスを手狭に見せるトゥー・マッチの東西映画要員か。太田始も内藤忠司もその人と知れる形では抜かれないが、頭数は合ふ。山咲小春は、既に一緒に生活する野村の婚約者・美香。長野隊は小百合と吉田の結婚に興味津々な夢屋常連客に、潤沢なニュー商工要員。
 大絶賛今をときめかない、どころか、抹殺された風情すら漂ふ荒木太郎2001年薔薇族込みで最終第五作。「キャラバン野郎」と双璧を成す多呂プロ二枚看板、「映画館シリーズ」の第一作である。荒木太郎推しの故福岡オークラで幾度と上映されてゐた筈にしては、この期に改めて見てみると何故だかワン・カットたりとて観た記憶が蘇らない。またこの男が頑なに臍を曲げ、忌避する勢ひで回避してたのかな?再度閑話休題、よくて藪蛇、しばしば積極的に邪魔な意匠で映画の素直な成就を妨げる、基本荒木調と持て囃されるところの荒木臭は、恐らくラブホ実景ではない、プレジデントの安普請サイバーパンクな美術を除けば今回鳴りを潜める。順に主演女優と、形式上のビリングに実質的な差異は特に見当たらない三番手と二番手の濡れ場を何れも入念に大完遂。先に見せるものを見せておいて、前半は小百合と野村のリユニオンを辛抱強く我慢、後半に勝負を賭ける戦法は裸映画的に極めて順当な構成に思へる。さうはいへ純真な輝きを放ち続ける里見瑤子は兎も角、面も口跡も間の抜けた西川方啓は決定力に激しく欠く。となると、極めて即物的に解するならば、要するに互ひに結婚を見据ゑた女と男が、双方後腐れない安全圏にて焼きぼつくひに火を点けるに過ぎなくもない、始終にワーキャー騒ぐほどの感興は別に感じなかつた。感じなかつた、ものの。野村の宿での、最初で最後の情交。静かながらハイキーに照明がスパークする一回戦も美しいが、二回戦に突入8ミリの映写機が二人の体に照射するや、ニュー商工の舞台にワープする大胆な映画の嘘は、一点突破で一撃必殺のエモーションを煌めかせる。

 昭和天皇を―モックンよりも数百倍素で寄つてゐる―荒木太郎が模した、2018年第一作が土壇場中の土壇場で公開中止の大憂き目を喰らつた事件に関しては、大蔵が完全に出来上がつた新作を蔵入れし、生え抜きのレギュラー監督である荒木太郎が、以来代りの一本も撮らせて貰へずにゐる事実ないしは現状以外に、表に出て来る情報が兎にも角にも乏しく、白黒のつけやうもない。尤も、普通に考へればオーピーが脚本なり初号に目を通してゐない訳がなく、直截にいふと、荒木太郎は梯子を外された印象を持つものである。


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