真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ズーム・アップ 暴行白書」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:藤井克彦/脚本:いどあきお/原作:飯干晃一《徳間書店刊》/プロデューサー:結城良煕《NCP》/企画:進藤貴美男/撮影:安藤庄平/照明:野口素胖/録音:小野寺修/美術:川船夏夫/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:那須博之/色彩計測:高瀬比呂志/現像:東洋現像所/製作進行:鶴英次/出演:風祭ゆき・平瀬りえ《新人》・河西健司・伊吹礼一・麻生みちこ・関悦子・桐山栄寿・日高雄二・仁科潮・平良政幸・沢村真美子・川辺直子・増尾久子・川村真樹・江角英)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 パパラパパパラパ、爆音鳴らして十台弱の単車が暴走、速攻のタイトル・イン。一転時報とともにKBSラジオ―Kはもしかして風祭のK?―の深夜番組「ミッド・ナイト・ティー・タイム」の生放送開始、パーソナリティーの脇村塔子(風祭)が、梶芽衣子「恨み節」のリクエストをかける、番組頭でかける曲か。ここで枝葉ながら、結構目立つ疑問点、より直截にはミス。塔子のテンプレ前説は、“君と私だけのミッド・ナイト・ティー・タイムがこれから二時間”。ところが後(のち)に見切れる、塔子が持ち歩く台本の表紙には、放送時間が“毎土曜日深夜1時~2時”。更に、複義的にラストの放送開始時、スタジオの時計が指してゐるのは十二時、一体「ミッド・ナイト・ティー・タイム」は何時から何時までが正解なんだ。クレジット明けは天候にも恵まれた海、要は嫁に番組を持たせた格好の、「ミッド・ナイト・ティー・タイム」をスポンサードする脇村産業社長にして、結婚三年目の塔子夫・省吾(江角)所有のクルーザー「あすお七世」。船内での夫婦生活を経て港に寄るあすお七世に、波止場から川村真樹が双眼鏡を向ける。カフェテラスで台本に目を落とす塔子に、鳴かず飛ばずのタレント下積み時代に百合の花を咲かせ―られ―た因縁にある、ブティック「マリーネ」の女主人・鳥羽典子(川村)が接触。生放送に向け帰京を急ぐスポーツカーが暴走族に囲まれ、追ひ詰められた塔子は輪姦される。
 名前の通つた脇役部が、気を吐く余白の見当たらない配役残り。桐山栄寿は、瞬間的に見切れる程度のKBSスタッフ。平瀬りえは、平素は従順な脇村家家政婦―劇中ではお手伝ひ―の丸西伊佐子。河西健司は、伊佐子が大胆にも省吾は不在の脇村邸に連れ込む情夫、兼塔子を襲撃した族のリーダー・早川達夫。関悦子と麻生みちこは、伊佐子の過去を調べる塔子が話を聞く、緑荘の管理人とトルコ嬢、麻生みちこも脱ぎはしない。伊吹礼一と、日高雄二から増尾久子までの六人は族要員。乱交する形で女優部は全員裸を見せる一方、伊吹礼一のビリングが一人飛び抜ける、実質的な意味合ひは特段見当たらない。
 藤井克彦昭和56年第三作は、昭和54年から58年にかけて、全五作が製作された「ズームアップ」シリーズの第三作。日活がズームアップを手放したのち、大蔵が「ズームアップ 秘唇」(昭和60/監督:市村譲)を捻り出してゐるのが感興深い。しかも市村譲だぜ、超絶観てえ。ついでにロマポの「ズームアップ」シリーズと、PGの母体の前身の元祖「ズームアップ」誌(廃刊は56年)との、相関なり前後は今となつてはよく判らん。
 姦計を割るのが早過ぎやしまいかと軽く首を傾げてゐると、典子が無作為に搔き回した挙句、単純に手際なり語り口の拙(まづ)さゆゑ判りにくい因縁に帰結。屋敷自体の魔性だとか木に藪蛇な竹を接ぎ損なつた末に、弾着も排莢もへべれけな凶行が暴発。藤井克彦×いどあきおの組み合わはせで、どうして斯くもグダるのか。相性の悪ささへ勘繰れなくもない中、特筆すべきは初陣でしかも大看板たる風祭ゆきを向かうに回した上で、平瀬りえが確かに光らせる芯の強さを感じさせる決定力。


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