真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「通勤電車 快感フルコース」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:ジミー宮本/編集:酒井正次/助監督:日垣一博/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:銀座サウンド/効果:中村半次郎/フィルム:AGFA/現像:東映化学/出演:松岡利江子・西野奈々美・伊藤舞・杉原みさお・板垣有美・坂入正三・芳田正浩・白都翔一)。
 電車の画から、松岡利江子が芳田正浩の電車痴漢を被弾。のを―セット―車輌の外側から抜くショットに、今回初めて気づいたが、何気に実景の電車の色も合はせてある、さういふ心も配るんだ。パンティを突破された良子(松岡)が落としたバッグの下には、佐川ジュンジ(芳田)がそれ以前に落としてゐた財布が、カット跨いで電車が通過する鉄橋にタイトル・イン。駅から漸く出て来た良子は結構入つてゐる財布をチェックすると、名刺を頼りに佐川に連絡、ワインの御礼に与る。何処まで本気なのか泥酔した良子は、自宅まで佐川に送らせる迎へ狼。苦しいだ何だと膳を据ゑ絡み初戦を大完遂、ピンコ勃ちの乳首が直線的にエロい。味を占めた良子は今度は太田(白都)の電車痴漢を被弾するや、「あらここにも落ちてるは、届けなくつちや」と太田の上着から落ちてもゐない財布を掏る。とんでもない女だ、この天衣無縫なシークエンスこそが御大仕事の醍醐味。あるいは、直截にいふと度を越したやつゝけ仕事にして初めて到達し得る、グルッと何かを一周した破壊力。ところが翌朝、一部始終を見てゐたとかいふ声だけでその人と知れる板垣有美から脅迫電話がかゝつて来つつ、十万といふ要求金額で急に話は萎む。
 配役残り、後に披露する、気取つて天パをペッタペタに撫でつけた髪型が捧腹絶倒な坂入正三は、良子と寝た太田の武勇伝に、「まるで快感フルコースぢやねえかチッキショー」と喰ひつく、健康機器KK営業部のカワムラヒロシ、太田とは同僚の関係か。“快感フルコース”とは何ぞやといふと、痴漢からベッドまででフルコースとするこゝろ、その発想。とまれ太田とカワムラは、良子の更に先を行き、痴漢した女の懐に自ら財布を忍び込ませ、連絡を待つナンパ術を考案。全体どうすれば、そんなメソッドが上手く運ぶと思へるのか。そしてa.k.a.草原すみれの西野奈々美が、太田とカワムラで挟撃する格好のマユミ。マユミもマユミで板垣有美の横槍を受けながらも、財布に先に気づいて連絡した太田と快感フルコース。ここで初めて見切れる、アクティブに不愛想なバーテンは小林悟。伊藤舞と杉原みさおは、カワムラ×伊藤舞、太田×杉原みさおの形でタッグマッチを敢行する二人連れ。伊藤舞に至つては手コキで抜く痴女暴れを敢行するものの、杉原みさおにいはせると男運が悪い。結局板垣有美の正体は、スリを働いたと因縁をつける謎の因業ババア、木に竹も接がねえ。
 大御大・小林悟、1992年怒涛の全十八作中第十五作、ピンク限定だと十三作中の十二作目。ホゲホゲしてるサカショーを見てゐるだけで、何だか心が安らぐのは疲れてゐるからにさうゐない。大概な良子、何しに出て来たのか判らない板垣有美、正体不明のセカンド泥鰌に鼻の下を伸ばす男達。ネジの緩んだ有象無象が織り成す掴み処のない展開で、既に十分お腹一杯といふか胸やけしさうなのだが。最も大御大が大御大たる所以は、西野奈々美・伊藤舞・杉原みさおが続々と投入される後半、前半をほぼ一人で戦ひ抜いた主演女優が暫し完全に姿を消す豪快作劇。物語といふほどの物語でも全くないにせよ、腐つてもヒロインの筈なのに。お芝居の硬さをさて措けば、首から上も下も実はかなりの美人である松岡利江子が、恐らく間違ひなく小林悟の映画にしか出演してゐないのは、歴史の軽い悲劇といふべきか。他の組に出てゐたら出てゐたで、結局三番手が関の山であつたのかも知れないけれど。徒に豪華な二三四番手の濡れ場を消化したところで、残り尺はあと僅か。会社も休んでゐたらしく友人からの電話で再起動した良子が、相変らずな手口で財布を拝借したカワムラに連絡を入れるラストは、よくいへばいはゆる“変らないか終らない日常”とでもいふ奴なのか、何ひとつ完結してゐないにも関らずな結末が清々しいほどに大御大映画。尤も―地味に予想外な―伊藤舞をもが飛び込んで来る面子の粒は揃つてゐるだけに、深く考へずに女優部フルコースを楽しむ分には裸映画として普通に安定する。


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