閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

トルツメ

2006-12-23 13:48:27 | 日々

…というのは、印刷の校正用語です。
余分な文字を取り去って、あとを詰める、という指示。
たとえば「うさぎ」が間違って「うささぎ」になってたら、
片方の「さ」に赤鉛筆でピッとチェックをして、
余白に、トルツメ、って書きます。

今年5月に実家の父が82歳で他界しました。

遺品のほとんどが、大量の「紙」でした。
小学校の作文からはじまって、若い頃の山日記。
読んだ本の抜き書き。哲学を独習したらしいノート。
どれもみんな几帳面なこまかい字でびっしり。

独身時代から書きためた200篇をこえる詩。
小説やラジオドラマの脚本の習作。
子どもを持ってから書くようになった童話や少年詩。
活字になったもの。ならなかったもの。
何冊ものスクラップ帳。推敲の途中の草稿や創作メモ。
かかわっていた読書サークルのための資料や記録。

それから、未使用の原稿用紙、ノート、罫紙、白紙、封筒。
職場で余った書類も、白い裏を上にしてきちんと重ねて。
使わないまま黄ばんでしまった、たくさんのたくさんの紙。

定年まで勤めていたのは、地味な広報誌の編集室でした。
だから印刷や校正の勉強をしたノートもありました。
晩年は読むことも書くことも不自由になっていたのに、
1月に出た『波のパラダイス』は真っ先に手に取ってくれました。
あとで母が見たら、著者も出版社も見落とした誤植に
父の鉛筆でチェックが入っていたそうです。
寝たきりになったのは、それからまもなくで。

うすく震える鉛筆で書かれた「トルツメ」の4文字。
最後のおしごと、でしたね。

コメント
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