閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

みどりのバス

2016-10-02 18:58:24 | 絵本のつくりかた

5歳の男の子くんから、可愛いおてがみいただきました。

 

 

「ぴんぽんばす おもしろかったです
みどりのぴんぽんばす かいてください」

この字がいいですねえ。「ん」の形が素敵だ。
はるきくん、どうもありがとう。

さて、「みどりのピンポンバス」というのは…

『うみへいくピン・ポン・バス』の冒頭、駅前のバスターミナルに
色違いのバスがずらっと並んでいるシーン。
このうち、中央のオレンジの「花見山入口」行きと、右端のブルーの
「岬灯台」行きは、それぞれ絵本に出てくるのですが、あとの3台は、
(「美香温泉」「小玉城跡」「スミレ植物園」と行き先表示はあるものの)
ここの「後ろ姿」しか出てきません。

しかし、これが、男の子の「コレクター心」をくすぐるらしく、
以前から「他のバスの絵本も欲しい!」というリクエストを
ときどきいただいております。
はるきくんは、右から2番目の緑のバスが気になるのね。 

絵を描いた人は、少なくともこの時点では、特に何も考えず
描いてたと思うのですが、
(駅とバスターミナルには実在のモデルがあり、行き先は
担当編集者さんの名前と、当時うちにいた猫の名前と、
『みけねこレストラン』の主人公の名前を適当に並べてある!)
いったん絵に描いてしまうと、それが「設定」になるわけですから、
「みどりのバス」は、この駅(特急の終点で、海に近い町)から
出発して「スミレ植物園」まで行かなければならない…
そして、「植物園」って書いてあれば、植物園に行くものと
誰もが思う。途中で終わったりしたら大ブーイング。 

この場合、問題は、「バスは植物園の中には入れない」ということ。
お客さんは門の前でバス降りて…あとどうする?
作者が読者だとしたら、植物園にはぜひ入りたいと思うんだけど、
そこから先は「バスの絵本」じゃなくなってしまうんですよね。

という問題をクリアする必要があるため、「みどりのバス」の話は
なかなか実現できないのでした。
はるきくん、ごめんねー。
でも、きみはきみで、これから大きくなって、いろんなバスに乗って、
バスだけじゃなく、電車にも船にも飛行機にもどんどん乗って、
いろんなところへ行って、楽しい経験をいっぱいしてきてください。

 

 

ピン・ポン・バス
竹下文子・文
鈴木まもる・絵
偕成社 1996年

 

 

うみへいくピン・ポン・バス
竹下文子・文
鈴木まもる・絵
偕成社 2004年

 

 

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スープのつくりかた

2013-02-07 15:57:15 | 絵本のつくりかた


閑猫堂って「水玉屋さん」だったのね、と言われそうな今日このごろ。
たまには本業(←ほんとか?)の話もしてみましょう。


3冊の絵本が、少しずつずれて進行中です。
おしごとの流れは、だいたいいつもと同じ。
場面割りをして文章を書きます。
文章をもとに、画家さんにラフ(下絵)を描いていただきます。
それを見て、思ったことをお話しして、問題点があれば、
編集者さんと画家さんと相談して、他の人たちの意見もききながら、
絵を修正していただくこともあり、文章を変更することもあり。

そうしていくうちに、ちょっとだけあいていた隙間がきちっと詰まり、
ちょっとだけゆるんでいたねじもしっかり締まって、
全体の姿がくっきりあらわれてきます。
絵がついて、色がついていくうちに、それまで気づかなかった
「この本の重要テーマ」がふっと浮かびあがってきたり、
思いがけない名案がひょっこり生まれたりするので、
この過程はものすごーく楽しいのです。

わたしは協調性が不足気味の人間なので、
基本的に何でもひとりでするほうが得意なのですが、
ヒトひとりぶんの頭の容量なんてたかが知れており、
小さい鍋は早く煮詰まる。
そして、ひとりではできないこともいっぱいある。
ことわざに、船頭多くして舟山にのぼる・・とか、
コックが多すぎればスープが不味くなる・・とかいいますが、
必ずしもそうとは限りませんでしょう。
それぞれが厳選した材料を持ち寄り、それぞれの特技を生かして、
おいしいスープができないわけがない!というのがわたしの考え。

口で言うのは簡単だけど絵に描くのはむずかしい、というものが
この世にはたくさんあります。
絵も文もひとりでかかれる方なら、「描きたいものを書く」
(≒「描きにくいもの、描きたくないものは書かない」)
という選択も可能かもしれませんが、そうでない場合、
とんでもなく変な注文をするヒトがときどきいますので、ね。
(前に翻訳した話で、ハリネズミがシャツを着ている設定があり、
これ、どうやって絵に描くんだろ?と心配したことがあります。
さいわいにして、それは絵本にはなりませんでしたが・・笑)
今回も、空飛ぶぺらぺら猫だとか、象さんの「観音隠れの術」だとか、
ぺらぺら猫プラス四つ葉のクローバーだとか・・
勝手なことを言ってあちこちご迷惑をおかけしております。

いや、言ってる本人だって実物は見たことがないわけで、
絵を目にして初めて「わ! ほんとにいたんだ!」と驚いたり、
「なぁるほど、こういうのだったのね」と深く納得したり。
無からナニカをつくりだすのが言葉。
そのナニカにカタチをあたえてくれるのが絵。
わたしは自分では絵はぜんぜん描けないんですが、もしかしたら、
描けないからこそ言葉を自由に使えるのかもしれません。

3冊のうちの1冊は、電車が出てくる絵本です。
この中に、色の違う電車が立体交差ですれ違うシーンが
あったらいいなあと思って、それを書きました。
わたしの頭の中にあったイメージはJR秋葉原駅・・
首都圏の方はおわかりと思いますが、ホームが2層になっていて、
山手線、京浜東北線が並走する上を総武線が横切っている。
だから黄色と緑の電車の立体すれ違いは日常的に見られる・・
と思っていたら、取材に行ってきたM(この人が絵を描くのです)が、
「ホームから両方見える場所は、ない!」と。

ええー、そうなの?
おっかしいなあ、ぜったい見た気がするんだけど。
と言ってもはじまらない。
ヒトの記憶なんていい加減なものです。
どうする?
秋葉原駅をちょっと改造させてもらって、見える「こと」にする。
本当に見える別のモデル駅をさがす。
どこでもない架空の駅と電車をつくっちゃう。
それとも・・あきらめて他のシーンに変更する?

フィクションで子供向きの絵本なので、どの手も「あり」だと思いますが、
さて、どうなりますでしょうか。

そういう感じで、この春には相次いで「美味しいスープ」が完成しそうです。
おたのしみに。

 

本日の「いいね!」

ドミノキャット (動画)


茶々さんも、やってみよっか?

「・・やだ」 

 

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絵本のつくりかた・もったいない篇

2010-04-10 08:29:24 | 絵本のつくりかた

いつもは自分のかかわった絵本のことを書いていますが、
前回の「目のつけどころ云々」に関連して、
ちょっとだけ、他の人の作品について。

「えええ、もったいな~い!」
そう思ってしまう絵本が、ときどきあります。
たとえば、先日手にした、ある絵本。

主役は、小鳥の巣箱、です。
なかなか借り手のつかない「貸家」の巣箱に、
やってくるのは蜂とかリスとか、招かれざるお客ばかり。
冬が過ぎ、ようやく小鳥のペアがきて、卵を産む。
途中で悪い猫(すごく悪そう…笑)も登場したりするけれど、
最後には無事に育ったひなたちが巣立っていく。
そういうお話。

ぱっと見て、いいな、と思いました。
大胆な色づかいの絵が、とてもきれいです。
写実的なこまかい描写ではないのですが、
親しみやすいし、画家のセンスの良さが感じられます。
文章は別の人が書いていますが、擬人化しすぎず、
科学的にもなりすぎず、さらさらと気持ちよく読めます。
ところが。

楽しくめくっていくうち、はたと手が止まりました。
「あ、これ、違う?」
描かれている小鳥はChickadee(コガラの一種)。
日本のシジュウカラによく似た鳥です。
たまたま、鳥に詳しい人がうちにいるので(笑)
わたしもちょっとは知っているのだけれど、この鳥は、
巣箱の中にコケなどを詰め込み、真ん中をくぼませ、
そこに動物の毛など柔らかいものを敷いて卵を産むのです。
こういうワラみたいなものでおわん型の巣は作らないはず。
(巣箱から巣をすっぽり取り出すと、カステラみたいな立方体で、
上面が半球形にへこんだ形になっていると思う)

鳥や卵の色は、わりと正確に(たぶん調べて)描かれているのに、
どうして巣の材料は調べなかったんでしょう。
庭の巣箱に入るくらいだから、チカディーはアメリカでは
(あ、これはアメリカで出版された絵本です)
わりあいポピュラーな小鳥だと思うんだけど。
画家さんだけじゃなく、文章を書いた人も、出版社の人も、
どうして誰も気づかなかったのかなあ?
何場面もあるので、本が出てからでは直せないでしょう。
ううん、もったいないっ。


こういうことは、ときどきあります。
たとえば、表紙の黒猫くん(さんちゃんそっくり!)に
一目惚れして購入してしまった、ある絵本。
卵から出てきたアヒルの子に「ママ」と勘違いされ、
つきまとわれて困惑する主人公の猫が、すごく可愛い。
ところが。

このアヒルの子が変。
いま孵化したばかりというのに、ほわほわしたヒヨコじゃなく、
しっかり「小型の黄色いアヒル」の姿をしている。
人間でいえば、生まれてすぐに小学生という感じ。
しかも、お母さんがヒヨコとおんなじ色形で、それも変。
この画家さん、猫はとてもよく知ってるけど、
アヒルのことはあんまり知らなかったのですね。
ちょっと調べたりすれば、よかったのにね。

絵本の世界に「ワンピースを着たウサギ」や
「レンガで家を作る子豚」がいるのはOK。
だけど、「ワラで丸い巣を作るチカディー」とか、
「うまれたときから大きいアヒルの子」はNG。
もちろんこれは、わたしが個人的にそう感じる、
というだけのことなんですが。

どちらの絵本も、そこ以外はすごく魅力的なので、
わたしがここで言ってもしょうがないんだけれど、
「もったいないよぉ~」と、
どうしても誰かに言いたいのでした。

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絵本のつくりかた・工事篇

2010-01-19 09:31:00 | 絵本のつくりかた
大河ドラマ「龍馬伝」について、出久根達郎氏が、
「本の扱いがぞんざいすぎる」と書いておられた。
たまたまわたしもTVを見たので、なるほど!と思う。
出久根氏は小説家だが、古書店主でもある。
さすが専門家、目のつけどころが違う。
その時代、書物は今よりずっと貴重で高価だったはず。
弥太郎は貧しく粗野だが学問好き、という設定だからなおのこと、
汚ない手でめくったり、床に置いたりはしなかっただろう。

歴史ドラマには、当然、時代考証が欠かせないけれど、
歴史である以前に「お芝居」なのだから、
多少の違いは暗黙の了解で許されることになっている。
福山さんが実物の龍馬に似てなくたっていいのである。
女優さんは現代ふうのメイクで出てくるし、
昔の言葉や方言も、意味が通じる程に加減してある。
問題は、作る側が、どこにこだわるか。
そして、見る側は、どこが気になるか。


Mが絵を描いて、これから出る予定の絵本があります。
乗り物シリーズの1冊で、こんどは道路工事の絵本です。
舗装工事の現場に、いろんな工事車両がつぎつぎやってくる。
それを、最初から最後まで「カメラ据えっぱなし」で、
時間を追って見ていただく、という趣向。

道路工事というのは年中どこかで必ずやっているので、
取材をするには好都合です。
工事を請け負う地元の会社に知り合いがいるので、
Mは、途中で何度も行って観察したり教えてもらったり。
これで万全、のつもりで、15場面の絵が仕上がりました。

さて、レイアウト校正(原画をスキャンして、文字も入れて、
絵本の大きさにプリントアウトしたもの)が出まして、
念のため、工事会社に持ってって「考証」をしてもらったところ、
あらあら、あっちこっちに、思わぬ間違いが指摘され…。
(鉛筆描きのダミー段階でも見てもらっていたのですが、
やっぱりカラーの絵にならないとピンとこない部分って
けっこう多いのですよね)

この場面でこの道具は使わない、とか。
現場監督はこういう行動はしない、とか。
これは現場でやることもあるが本当はいけない、とか。
うーむ、さすが専門家、目のつけどころが。

さいわいアクリル絵の具を濃いめに使ってあるため、
人ひとりまるごと消すなどの修正もどうにか可能。
ですが…

「この段階で一晩おくことはありえません、ってさ」
「ええーっ?」

そう、工事の途中で「よるになりました」っていう場面が
ひとつあるんですが、そこで中断しちゃだめなんだそうで。
せめて、次の工程まで終えてからでないと、って。

子どもの読む絵本だから、それくらい、いいんじゃないか…
という考え方も、あります。
たぶん、99パーセントの読者さんには、
何が間違ってるか絶対わからないはず。
タイヤローラーとマカダムローラーの違いだって
知ってる人は少ないんだから。
だけど、読んでくれるお父さんが工事関係の人で、
「これ変だよな」って思われたら?
(これまでも、お父さんがバスの運転手だったり、
宅配便のドライバーだったりするお子さんが
わたしたちの絵本を読んでくれているのです…)

リアリズムでなくてもいい。
工事をするのがクマさんでもウサギさんでもいい。
でも、というか、だからこそ、リアリティは重要。
どうせわかんないからって手抜きせず、
しっかりつくっておかないとね。
(これまでの反省も含め、今後のために書いておこう!)

急遽、場面を入れ替え、あれやこれや、しまして、
なんとかなりそうです。
刊行は春の予定です。
どうぞおたのしみに。
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絵本のつくりかた・まつりのみこし篇

2009-08-07 15:44:40 | 絵本のつくりかた
えーと、おみこしの絵本をつくっているわけではありません。
(タイトルの意味は最後に説明します)

昨年から、Mとつくっている絵本がありました。
「こういう内容で」と某社から依頼を受けたものです。

昨夏に、文章の第1稿ができました。
年明けて2月には、Mの絵も全部仕上がりました。
あとは印刷を待つばかり、だったのですが…

そこで思わぬ食い違いがいろいろと生じまして、
先方の要求に応じることが困難な状況となり、
まず、わたしが降板を宣言。

(「そして あるまじろは おうちにかえり
  まるくなって ねたふりをしました」)

そのあと、しばらくねばって交渉を試みてくれたMも
あきらめて原画をひきあげ、白紙状態に…。

こういうことは珍しいです。
(「いや、よくあるよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、
少なくとも、わたしには珍しい)
問題があれば、企画段階とか、原稿段階とか、
遅くともダミー(下描き)の段階でストップするはず。
ダミーが通ったのに、本絵で合意が得られないというのは、
ちょっと想定外だったわけです。

本が出て2年で版元が倒産…とか、
倉庫の火災で在庫が焼失してそのまま絶版…とか、
過去にはいろんな出来事がありましたが、
出版前にこちらから「やめた」と言うのは初めてのこと。

で、しばらくは「もういいや~」と放り投げていたのですが、
始めた仕事が終わらないというのは、なんとも中途半端で。
着物の袖つけをするのに、片袖だけつけて放置していると、
もう片袖が化けて出る、なんて言ったもんですが(いつの時代だ?笑)
なんかそんな感じ。

さくさく削除しちゃった文章データはいいとしても、
Mががんばって描いた15枚をこえる原画がもったいない。
これが作品庫に置いてあるかぎり、トラブルの記憶も一生消えない。

そう思って、よっこらしょっ、と再起動をかけまして、
主張する件は主張する。妥協できる件は妥協する。
慎重に協議と確認を繰り返しながら、構成を組み立てなおし、
ネームは6稿まで書き直し、絵も5~6枚をあらたに描く、ということで、
ふたたび出版に向けて動きだしました。

たぶん、冬には、お目にかけられるのではないかと思います。
もうすこしだから、がんばろう。


さて、タイトルの「まつりのみこし」。
神社によって、おみこしにもいろんなタイプがありますが、
これは、威勢のいい宮みこしを思い浮かべてください。

わっしょいわっしょいと町内を練り歩いたおみこしが、
最終的に元の神社に戻ってくる、いわゆる「宮入り」ですね。
これは、ふつう、すんなりとは入らないことになっている。
途中で止められたり、押し戻されたり、もめたり、荒れたりするわけです。
参道を行きつ戻りつ、行きつ戻りつしながら、じりじり前進していって、
担ぎ手も見物も、一番盛り上がった頂点で、ゴールイン。

つまり、なんだかんだあっても、結局はおさまるべきところにおさまる…
ということを、昔の人は「まつりのみこし」と言ったのだとか。

だから、停滞したり、もめたり、苦労すればするほど、
良い本ができるんだ。

…とは、ぜんぜん思ってませんから。
仕事はすんなり気持ちよくできるほうが好き。わたくしは。
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絵本のつくりかた・つづく篇

2009-06-21 11:35:38 | 絵本のつくりかた
このカテゴリの更新、1年以上あいてしまいました。
Mとの共作の絵本は『りんごのおじさん』以来になります。
今回は2003年に出た『せんろはつづく』(金の星社)の続編!

前作の評判が良いので、ぜひ続編を…と言っていただけるのは
作者にとってはたいへんありがたくうれしいことです。
しかし、またこれほど難しいものはなく…
一昨年くらいから話は出ていたのですが、
なかなかとりかかることができませんでした。

続編だと、世界はそのまま、キャラクターもそのまま使えます。
画材や画法もあらたに考える必要がありません。
では、何が難しいか、というと、

第一に、いわゆるプレッシャー。
前作を継承しつつ、前作より面白くなくてはいけない。
二番煎じとか、二匹目のドジョウとか言われたくない。
そういう事前のプレッシャーが、わたしはすごく苦手。

それと、考えることも苦手。
何かの拍子にヒラヒラと空から舞い降りてくる、
いわば天啓のようなものを頼りにいつも仕事をしており、
意図とかテーマとか先に考えると、ろくなものはできない。

第二に、前作とのつなげ方。
『せんろはつづく』はタイトルどおり鉄道工事の絵本で、
子どもたちが野原に線路を敷き、鉄橋とかトンネルとか踏切とか
ひたすらどんどんつくっていく、という内容です。
「まだつづく」風なラストシーンにしてはありますが、
実際の「つづき」は想定してありませんでした。

つまり、前作でやれることは全部やってしまったので、
もうやることが残っていない!

それなら、2冊目は応用編ということで、
汽車が海へ行ったり、町の中を走ったりしてはどうでしょう…
という提案が出版社のほうからありました。
が、いくら背景が変わっても、やることが同じでは、ね。
どう工夫して新鮮味をプラスするか。
それが、二番煎じと紙一重。

第三に…
前作が出てからすでに6年たっています。
大人の本ならともかく、子どもは数年で絵本年齢を過ぎ、
興味もどんどん他に移っていきます。
だから、前作を読んだ同じ子が「あ、つづきだ」といって
2冊目を読む、とは限りません。

しかも、子どもの本の売り場はたいてい狭いので、
2冊並べて置いてもらえるとは限りません。
2巻ものの本があって、たまたま書棚に「2」しかない場合、
「1」を読んでいない人はまず手を出さない。
だから、営業的に理想的な「続編」とは、
「前作を知っている人にはつづきだとわかり、
前作を知らない人にはふつうの新刊に見える本」
そして、
「1冊目から読んでも、2冊目から読んでも、
片方だけ読んでも、両方読んでも楽しめる本」。

それって、座って立ってろってくらい難しいじゃないの。

というようなわけで、出足がもたもたして、
昨年10月に最初のラフをつくりましたが、会議にて却下。
それから二転三転七転八倒あれやこれやしまして、
(ラクダとか、ゾウとか、スイカとか、アヒルとか!
電車の中でも、ファミレスでも、居酒屋でも、ナミビアでも!)
今年4月にやっと最終ラフが通過。
このとき文章も「第7稿」になっていました。
わたしはわりとよく書き直すほうですが、
それにしても7稿までというのは初めてかもしれない。

と、さも大変だったように書いているわたくしは、
1場面に
「ああして こうして こうやって」
とたった3語しか書いてないような原稿を、画家に丸投げ!して、
いつものことながら、大変だったのはその絵を描いた人なのでした。

順調に進めば、今秋には本になると思います。
どうぞおたのしみに。

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絵本のつくりかた・りんご篇

2008-04-03 21:45:43 | 絵本のつくりかた

昨秋にMが青森県まで取材に行った絵本の
原画が仕上がりました。

りんごの絵本です。
表紙に大きな大きなりんごが半分。
残りの半分は、裏表紙に。
真っ赤なぴかぴかの美味しそうなりんごです。

紙はいつもと同じだそうですが、今回Mは、
りんごの花を描くために色鉛筆を使いました。
さらさら明るい色鉛筆と、コクのあるアクリル絵の具を、
重ねたり、使い分けたり、しています。

ラフでしっかり打ち合わせをした上で描いているので、
原画ができた段階では、もう言うことはほとんどありません。
でも今回は1枚だけ「ダメ出し」をしてしまいました。

主人公のおじさんが人生を変えるきっかけとなる
1冊の本に出会う、という場面です。
本屋の店先で本を手にした姿が描かれていました。
それはたしかに「出会った場面」に違いないし、
わたしもその絵でいいと思っていたのですが…

おじさんは、きっと急いでその本を買って帰り、
家でじっくり読むでしょう。
寝るのも忘れて夢中でページをめくるうちに、
「そうだ、これだ!」という気持ちが確かなものになっていく。
それが本当の「出会い」なのでは、と。

絵を描き直してほしいとお願いするのは、
身内であっても、なかなか難しいものですが、
これが本になってしまえばもう直せません。
何年もあとになってから「ああ、ここがねえ」と
見るたび悔やむようでは良くない。
だから思ったことを伝えました。
伝わったみたい。
よかった。

絵本の文章を書く者としては、
説明がないと通じない文章では駄目だと思っています。
「ここはこういう気持ちで、こういうシーンを想定しました」
なんて、いちいち解説が必要なようでは駄目。
3行なら3行、10行なら10行、短くても、短いなりに、
その中にすべてが入っていないといけない。
おじさんと本の場面も、そういうシーンが浮かぶように、
もっと言葉を選んで書いておかなければいけなかった。
難しいなあ。
難しいです。

 

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絵本のつくりかた・お寿司篇その3

2008-01-26 21:44:03 | 絵本のつくりかた

お寿司の絵本の「Aカラーもどき」が出てきました。

「Aカラー」と「Aカラーもどき」ってどう違うのか、
わたしはあんまりよくわからないんですけど、
つまり実物の絵本と同じサイズのカラープリントですね。
紙はまだ本物ではありませんが、
本文、カバー、見返し、帯と一通りそろっています。
この段階で文字とレイアウトをチェックします。

表紙は絵だけ描いてあって、
タイトル文字はあとから検討しました。
絵がカラフルなので、合わせる文字の色が難しい。
色見本の紙を細く切ってのせてみるのですが、
赤も青も緑もいまいちな感じ。
「うーん、どうしようか」とMが言いました。
わたしは絵をじいっとにらんで、
「海苔!」
「海苔? あ、黒?」
「うん、海苔」

お寿司の絵本なので、表紙にもお寿司が描いてある。
その真ん中にのせる文字ですから、
これは海苔しかないだろうと思ったわけです。

Aカラーもどきの表紙を見たら、ほんとに海苔みたいな
タイトル文字になっていたので笑いました。

ついでに帯は「豆絞り」にしてみたくなったけれど、
そこまでやると、やり過ぎだな、きっと。

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絵本のつくりかた・ショベルカー篇

2008-01-19 13:33:57 | 絵本のつくりかた

このブログのずうっと前のほうを見たら、
ちょうど昨年の今ごろ、
Mはサンドイッチの絵を描いていました。
今年は、ショベルカーの絵を描いております。
明るい緑色のショベルカー。
なかなか可愛い。そしてとっても働き者。

パトカーの絵本のところでも書きましたが、
こういう建設重機、いわゆる「はたらく車」というのも、
本来わたしの興味のまったく外にあったモノで、
かつてはブルドーザーとショベルカーと
ホイールローダーの区別もつきませんでした。
絵本の題材にとりあげるようになったのは、
わが家に「小さい男の子」がいたおかげです。
ぶあつい自動車図鑑に連日つきあわされ、
こっちのほうがすっかり詳しくなっちゃったのよ。
(ご当人はいまや文系で、ユンボやラフターに
狂喜していたのが嘘のようだ…)

「子どもの気持ちになって」「子どもの目の高さで」って
よく言われますが、それとはちょっと違うのかもしれない。
わたしは、わたしの気持ちで、自分の興味本位でしか
ものを考えることができないからです。

電車や車。怪獣。戦闘ロボットの類。
多くの男の子がそういうものに夢中になる。
わたしは「女の子」だったので、その気持ちがわかりません。
だからよけいに面白い。
なぜだろうと思う。
わたしの興味はそういう方向に動きます。
興味を持つと、凝り性でもあるので、いろいろ調べる。
そしていつのまにかハマる。
もうキャタピラの前後の見分けもつくし、
ドリルとブレーカーが違うってこともわかりますよ。

Mは自分でショベルカーの運転ができます。
中古の黄色い3トンショベルを安く手にいれて、
つい昨年まで所有していました。
(工事関係者でもなく、個人で持っているのって、
わりと珍しいのかな?)
見ていると象使いが象に乗っている感じに近い。
それでアトリエの基礎工事も自分でやったし、
畑をつくったり、池を掘ったりするのにも便利でした。
畑の横にとめてあるショベルカーの
シートをかけた座席は猫たちのお気に入り場所で、
よく誰かこっそりお昼寝していたものです。

Mのショベルカーの「師匠」でもあるカズミさんに
今回の絵本の監修をしてもらっています。
ダミーを一読して、
「始業の前に、まず点検!」と一言。
なるほど。さすがプロだ。


一方、11月末に絵のできた「お寿司の絵本」は、
表紙のタイトル文字を決めたり、
帯やカバーのキャッチコピーを決めたり、
奥付のプロフィールを書いたり、という
最終段階に入っています。
こちらもおたのしみに。

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絵本のつくりかた・お寿司篇その2

2007-11-23 10:19:31 | 絵本のつくりかた

Mの描いていた「お寿司の絵本」の原画が
ほぼできあがりました。

いやあ、これは…ふふふ、すごく面白いぞー。

ふたりしてそう言っております。
自画自賛です。
でも今までの経験からいうと、
「自分ですごく面白いものは、他の人にもけっこう面白い」
という法則が成り立つのですよ。

いっぱい出てくるにぎり寿司が、
生っぽいリアルさじゃなくて、
「グリコのおまけ」みたいに可愛らしく、
でもおいしそうなのでした。

来週、出版社にお渡しします。
順調にいけば春には本になって見ていただけるでしょう。

 

復刊ドットコムに「おてつだいねこのホットケーキ」を
リクエストくださった方へ。
あれはかつて小学館から出た板紙の絵本
(書店の入り口で回転式ラックに入ってるような)で、
16ページしかなくて、なんと絵がアニメなのです。
3冊セットでおつかい篇と洗濯篇もありました。
「おつかい」は後に「おてつだいねこのこもりうた」(金の星社)に
そっくり取り入れてしまいました。
まあ珍しいといえば珍しい絵本でしたが、
そんな絵本が出るに至った経緯がどうも思い出せず…。

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