コインを入れると、
「こんにちはっ!」
と若い女性の声で明るく挨拶された。
ちょっとたじろぎながら、選んでボタンを押すと、
ペットボトルが「どったん」と落ちてきたあとに、
「ありがとうございました! 午後もがんばってください!」
あ、はい、ドウモ、と口の中で呟きながら
ボトルを拾い上げ車に戻る。
音声を発する機械はすでに珍しくもないが、
(うちの電話機も「ファックスを送信するには…」とか
「用件を1件再生します…」などとよくしゃべります)
「がんばってください」と言われたのは初めてだ。
かつては抑揚のない、いかにも機械的な声だったのに、
ずいぶんと感情のこもったリアルな声を出すようになったものだ。
コンビニの店員さんだってこれほどは愛想良くない。
「午後も…」っていうことは(昼休みにあたる時間帯だった)
つまり時刻に合わせて違うせりふをしゃべるのだな。
朝だったら「おはようございます!」で、
深夜だったら「遅くまでお疲れさま」とか?
全部で何パターンくらいあって、いつ切り替わるんだろう。
たとえば午前3時だったら、深夜版なのか早朝版なのか…
そういうことまで気になり始める。
同時に、こういう道路わきに設置された自販機というのは、
「働く男性」にターゲットを絞っているのだ、と気づく。
よく見てこなかったが、入っている商品のラインナップにも、
おそらくそれなりの工夫がこらされているに違いない。
なんとも芸の細かいことである。
お客の「顔」を認識する自販機も開発されたそうだから、
そのうち相手を見て声を変えるようになるかもしれない。
わたしが買ったのは500ミリリットルの「水」なのだが、
それを売るために使われた知恵と技術、
かけられた手間ひまとエネルギーは、想像を絶する。