弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

藤原てい「流れる星は生きている」

2009-07-12 21:26:48 | 歴史・社会
流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀)
藤原 てい
中央公論新社

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このような壮絶なドキュメントを読むのは久方ぶりです。
「昭和20年8月9日、ソ連参戦の夜、満州新京の観象台(気象台)官舎--。夫と引き裂かれた妻と愛児3人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた一人の女性の、苦難と愛情の厳粛な記録。戦後空前の大ベストセラーとなり、夫・新田次郎氏に作家として立つことを決心させた、壮絶なノンフィクション。(文庫カバーより)」

昭和20年8月、藤原ていさんは、満州新京の観象台(気象台)に勤務する夫(後の新田次郎氏)とともに、官舎に住んでいました。6歳の正広ちゃん、3歳の正彦ちゃん、生後1ヶ月の咲子ちゃんと一緒です。

ソ連軍が突如日本に宣戦を布告し、ソ満国境から満州になだれ込んだのが8月8日です。

8月9日の夜10時半頃、緊急の知らせが官舎に入ります。その知らせで役所にでかけた夫が帰ってきます。
1時半までに新京駅に集合し、新京から逃げるというのです。汽車の割り当てが決まっているので、あと30分で出発しなければならない。
関東軍の家族がすでに移動を始めています。政府の家族もこれについで同じ行動を取るように上部からの命令です。
大急ぎで準備をして出発します。新京駅まで4キロありますが、正彦ちゃんを背負ったていさんは1キロも歩かないうちにへばってしまいます。咲子ちゃんを産んで1ヶ月経つか経たないていさんには無理だったのです。
やっとの思いで新京駅に着くと、ていさんは土の上にぐったりくずれます。

翌日の朝、藤原さん達は無蓋貨車に乗せられ、汽車は出発します。汽車は鴨緑江の鉄橋を渡り、北朝鮮に入ります。ここで、この列車の最終点は、北朝鮮内の宣川であることを知らされます。

宣川で滞在中、藤原さん達観象台の団体は、このまま宣川に留まるか、南下して仁川に行くか、紛糾します。ていさんは南下を強く希望していました。そして8月24日頃、皆が南下しようと決めて切符を手配に行くと、「きょうから汽車は平壌以南へは行かない」ことを知らされました。38度線を境として交通が遮断されたのです。

団体は、宣川の町外れにある一軒家で生活するように命令されます。
10月25日、突然、18歳以上40歳以下(さらに45歳以下)の日本人男性が、収容所へ送られることになります。藤原さんの夫も含まれます。
こうして団体は、女性、老人、子どものみ残され、この後、厳寒の北朝鮮のあばら屋で冬を越すことになるのです。

12月の寒い夜
「私は持っているすべての衣類を子供に着せて、1枚の布団の上に3人並べて寝かせ、その上に1枚の毛布を掛けた。それでも子供たちは足が冷えるので寝られないらしく、咲子と正彦はかわるがわる泣くのであった。私は6本の足を全身で温めてやった。足を私の胸やお腹に抱いてじっと身体を丸くしていると少しずつ子供の足が温まってくる。子供たちがやがて静かな寝息をたてる。しかし私の背中は氷のように冷え切って背骨が寒さにいたい。子供が眠ると私は眠れない。温まった足をそのまま動かさないようにじっとして朝の来るのを待っていた。こんな夜が続いた。私は昼間ガラス戸を通して太陽が暖かく差し込む頃を見計らって、1時間か2時間縁側に出て仮眠した。」

春になります。
食事は僅かな配給に頼っており、家族4人とも飢えています。
ある日、おやつに芋を茹で、3人で分配して食べます。正彦ちゃんは餓鬼のように食べてしまって、いつものように母親の分をねだって困らせます。ついに負けてていさんの残っている分を正彦ちゃんに与えてしまいます。
「『お母さん、僕のをお母さんにあげるよ、お母さんお腹がすいておっぱいが出ないでしょう』
今までじっと見ていた正広が突然こういって、まだ半分食べ残して歯の跡が付いているお芋を私に差し出した。私は正広が本気で私にそういってくれるのをその目ではっきりと受け取ると、胸をついて出る悲しさにわっと声をあげて泣き伏してしまった。
7歳になったばかりのこの子が自分が飢えていながらも母の身を案じてくれるせつなさとうれしさに私は声を立てて泣いた。」

5月、その正広ちゃんが熱を出します。のどの奥からぜいぜいという音が聞こえ、鼻から血が出ました。「ジフテリアに違いない」
日本人の医師に連絡しますが、行ってもどうしようもないと来てくれません。ジフテリアなら血清に千円かかりますが、そんなお金はありません。
ていさんは、金策を仲間の東田さん(女性)に任せ、正広ちゃんを背負って町で一番大きな病院へ急ぎました。ジフテリアと診断されましたが血清がありません。「救世病院へ行けばあるでしょう。」
救世病院は教会がやっている病院でした。すぐ血清を打とうとする医師に、お金を持っていないことを告げますが、医師はすべてを了解して血清を打ってくれます。
東田さんが遅れて顔を出しました。千円は集まりませんでしたが、それでも仲間から300円を集めてきました。それと、藤原さんの懐中時計(ロンジン)があります。ロンジンは、町の時計屋に売ろうとしたら250円といわれたのでした。
藤原さんがその全てを正直に話すと、医師はロンジンを手にとって「私がこの時計を千円で戴きます」
こうして正広ちゃんは助かったのです。

以下次号
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小林篤「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」(2)

2009-07-10 21:38:44 | 歴史・社会
前々回に引き続き、小林篤著「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」を追います。

《菅家さんの供述の不思議》
公判廷における質問者と菅家さんの問答を解析すると、「○○について教えてくれ」との質問にはほとんど答えられません。一方、「□□ですか(y/n)」と質問するとたいてい「はい」と答えます。「いいえ」とは答えません。結局、質問者が「□□」と言った方向で、菅家さんの答えができてしまうのです。質問者が誘導尋問しようと意図しなくてもです。
後で触れる精神鑑定書では、菅家さんは知能指数が77で、普通域と精神薄弱の中間に当たる「精神薄弱境界域」と判定されます。そして菅家さんの小中学校時代の内申書では、意志薄弱、迎合的、服従的などと評価されています。
このような知能と性格が重なったとき、その人が少年時代から大人になるまでの生活の中で、常に目の前の相手に迎合することによって何とか生き、そのような処世術を身につけたとしても不思議ではないそうです。
このように考えると、取り調べ開始後、警察官や検察官に迎合し、裁判長に迎合し、さらにちょっと恐ろしく感じた自分の弁護士にも迎合して、「自分がやりました」と供述したとしても不思議には感じません。
一審の公判の途中で、菅家さんは家族への手紙で「自分はやっていない」と主張し始めます。一審の弁護士はこのような被告人の態度変化に内心でカチンと来ました。それを敏感に察した菅家さんは、弁護士に怒られるのが怖くて、「やはり自分がやりました」と言ってしまうのです。

《小児性愛者であるとの精神鑑定》
本件では、上智大学の福島章教授が精神鑑定人として鑑定を行っています。
鑑定人は、菅家さんを小児性愛者であると結論づけます。
ところがその根拠というのが、菅家さんがマミちゃんを殺害してイタズラしたという趣旨の供述の内容を元にしているのです。供述が嘘であれば鑑定の根拠が崩壊すると言うことです。
また、菅家さんが尾行されていた当時に勤務していた幼稚園の園長が「菅家さんはすごくねちっこい印象で、童話『赤頭巾』の狼を連想した。子供たちも『変なおじさん』と騒いだ」と証言した内容をそのまま鑑定で採用しています。しかし、以前長期間勤務していた幼稚園の関係者を含め、菅家さんについてそのような印象を持った人は他にはいません。菅家さんをこのように評価したのはこの園長とその息子だけだったのです。「変なおじさん」も志村けんになぞらえたからかいに過ぎませんでした。

《DNA型鑑定》
栃木県警の科捜研から、警察庁科警研の小沢技官へは、その当時開発されたDNA型鑑定をやってもらうよう、再三の依頼をしますが、小沢技官は頑強に拒否していました。最終的には依頼を受けるのですが、なぜこのように頑強に拒否したかは不明です。著者は、「検査資料が少なすぎて鑑定結果に自信がなかったからだろう」と推察しています。そして最後に(しぶしぶ)受けたのは、本庁(警察庁)から何らかの圧力がかかったからだろうと。
そのようにして得られた鑑定結果は信用おけない、と著者は結論づけます。今般の再鑑定の結果、まさにその結論が裏付けられました。
しかしまさか、決して資料が少ないとはいえない菅家さんのDNA型まで誤って鑑定していたとは・・・、そこまでは予測できませんでしたが。


以上のように矛盾だらけの起訴事実であり、控訴審の弁護団はそれを詳細にわたって明らかにしました。弁護団は「裁判所は有罪判決を書けないだろう」と予測します。弁護団からのいくつもの証拠申請を却下した上での審理終結だったので、弁護団はてっきり無罪判決だと予想したようです。しかし、結果は逆でした。控訴審判決では、捜査段階での菅家さんの自白を真実であると断定し、控訴を棄却しました。
法廷で傍聴する著者の小林氏は、判決を朗読する裁判長の言葉を聞いています。
「なぜ3人の裁判官たちは、弁護側の2320枚を費やして踏み込んだ反証に対して、正面から検討した判決内容を提示しないのか。そんな疑念を脹らませながら、毛髪鑑定、精神鑑定・・・と朗読が進むのを聞いていると、高木裁判長の声が途切れた。彼は、判決文からふっと目を離し、菅家被告が被害者の死体を陰部までも舐め回したと供述したことに触れ、こんな感想を漏らした。
『だって、自分から舐めたなんて、ふつうなら言えないですからねえ・・・』
(中略)
高木裁判長が法廷には似つかわしくないくだけた調子でふと漏らした言葉は彼の人間洞察によるもので、本音だったのではないだろうか。ひとことで言えば、これの根っこにある人間観が『犯人以外の者は、幼女の陰部を舐めたとは言わない』と、判断したように思う。それが、菅家被告を有罪とする4つの証拠の信用性を認め、証拠能力や証明力に過大な評価を与えたと考える。」

上告審において、弁護団は菅家さんの毛髪を用いたDNA型鑑定結果を提出します。科警研の判定結果と相違していました。
上告理由の中心は、刑事訴訟法の下記条文のようです。
「第411条  上告裁判所は、・・・・・左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一  判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
三  判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。」
しかし、最高裁は丸4年の歳月を費やした後、「原判決に、事実誤認、法令違反があるとは認められない。」として上告を棄却しました。

なぜこのような審理結果になってしまったのか、今後の犯罪捜査や裁判においてどのような点を注意すべきなのか、といった反省が必須です。
しかしこれからはじまる再審では、そのような点は審理されないでしょう。再審の場は、菅家さんの有罪無罪を決定する場であって、捜査や審理の反省をする場ではないからです。
むしろ、菅家さんが国家賠償のような訴訟を起こし、その中で争っていくことの方が有効であろうと思われます。


それからもう1点。
著者の小林氏が最初に評論を公表した雑誌「現代」は、先日休刊になりました。また、この著書を発行した草思社も、何年か前に消滅しました
小林氏が生み出したこのような労作は、雑誌「現代」や草思社によってサポートされていたわけです。これから先、秀逸なノンフィクションレポートを生み出していく土壌はますます涸れていくことになるでしょう。
何とかならないものでしょうか。
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クローズアップ現代・アフガニスタンでの日本の復興戦略

2009-07-08 21:54:41 | 歴史・社会
NHKクローズアップ現代、7月8日(水)の放送は「混迷のアフガニスタン(2)日本の復興戦略」でした。
「外務省は、今年5月、外国の軍隊主体の地方復興チームに文民を派遣した。場所はアフガニスタン中部のチャグチャラン。軍隊に守られながら、学校や病院建設などの復興支援を行う初めての取り組みである。一方、これまで活動してきたJICAやNGOからは、軍民が一体となる支援は地元の感情悪化を招くという懸念の声もあがっている。」(番組紹介から)
上記「外国の軍隊主体の地方復興チーム」とはPRTのことです。

日本の文民が外国の軍隊に守られながらアフガニスタンで活動を開始したことについて、このブログでは今井千尋さんがアフガニスタンへアフガンを支援する日本人女性たちで取り上げてきました。しかし通常の新聞やテレビニュースではほとんど見るチャンスがありません。まとまった映像としては今回のクローズアップ現代がはじめてでした。

アフガン中西部チャグチャランで活動を開始した石崎妃早子さんの様子をカメラは捉えていました。地域で何に援助を向けるべきか、リトアニアの軍隊に守られながら、現地に出かけて調査を進めていました。どうかくれぐれも安全と健康に留意してください。

アフガニスタンでの文民による援助活動は、今回のPRT以前からJICAが推進してきました。番組では、JICAのカブール事務所の様子も取材しています。事務所内での会議の様子が映されました。左端にちょっと写った女性、野村留美子さんのような気がしました。カブールの治安悪化に伴い、JICA事務所の日本人スタッフはほとんど敷地内に缶詰状態です。アフガニスタンの大統領選挙前の治安悪化を予想し、日本人スタッフを一時的にしろ減らすことを計画しているようです。

スタジオには緒方貞子JICA理事長が登場しました。この10年近く、アフガニスタンにおいてJICAが推進してきた日本の援助の実績を強調していました。このブログでも1年半前に「緒方貞子氏が見たアフガニスタン」として紹介しました。

番組キャスターの国谷裕子さんは、「アフガニスタンにおける日本の活動が、軍隊とともに行動する今回のPRTのような形態で本当にいいのだろうか」という観点で話を進めます。
私もその点は疑問に感じます。

去年11月に参議院外交防衛委員会で中村哲氏が主張した点()もそこにあります。
また、伊勢崎賢治氏も同様の意見です(1年前国会での参考人発言「自衛隊の国際貢献は憲法九条で」 )。
中村医師のペシャワール会における活動、伊勢崎氏の武装解除における活動で、日本が軍隊を派遣しないことが、アフガニスタン復興支援を行う上で大きなプラスになっていました。
オバマ大統領は、「アフガニスタンの治安を回復するために米軍の増派を行う」というスタンスです。しかし逆に、米軍をはじめとする外国軍がある地域に進出すると、その地域はそれまでよりも治安が悪化する、という現実があるようです。

このような中で、日本がPRTに文民を派遣すると決めた今回の決定が、はたして好ましいことだったのかどうか、そこは大いに議論すべきでしょう。
一方で、派遣する日本人文民4人のうち2名が女性であるということ、これは日本がPRTに参画することによるマイナスを打ち消すプラスの影響を及ぼすように思います。

今まで、アフガニスタンの人々が日本に対していだいていたイメージ「日本は軍隊を派遣せずにわれわれを助けてくれる」をできるだけ壊さないよう、日本が活動することを願っています。
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小林篤「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」

2009-07-07 21:37:18 | 歴史・社会
足利事件について、このブログで3回にわたって話題にしました(足利事件のDNA鑑定足利事件のDNA鑑定(2) 足利事件の裁判経緯 )。

この事件については以下の書物が出版されていることがわかりました。しかし上記記事を書いた頃には新刊では入手できず、古書も高額でした。
幼稚園バス運転手は幼女を殺したか
小林 篤
草思社

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そこで、近所の図書館から借りることにしました(その後増刷されたのか、現在は新刊が入手可能な状況のようです)。

著者の小林篤氏は、本件裁判の控訴審の最初、弁護団が提出した控訴趣意書を読んだときからこの事件に関心を寄せ、独自の取材を開始します。控訴趣意書には、一審で有罪とされた菅家さんを犯人とするにはどのような矛盾があるか、極めて克明に記載されていました。この記載に沿って取材を進めると、控訴趣意書に記載された趣旨が裏付けられる結果ばかりでした。

取材結果は、講談社「現代」に掲載されます。最初が1994年12月、控訴審が開始された年です。続いて1996年8月、9月、97年12月です。控訴棄却の判決が出た直後です。
そしてさらに2001年2月、この本が出版されます。最高裁が上告を棄却した半年後です。

最近になってDNA再鑑定で菅家さんと犯人のDNA型が相違することが判明し、釈放されたあとに次々に色んなことが明らかにされました。この本の内容を読むと、最近明らかにされた内容がそのまま記載されているといっていいでしょう。
真実を探求する目をもって事実に向き合えば、今から8年前であっても真実が見えていたということになります。
それではなぜ、控訴趣意書によってその真実に近い内容が弁護団から主張されていたにもかかわらず、控訴棄却判決、上告棄却判決がなされたのでしょうか。

400ページ近くにもなる分厚い著書の中で、著者は詳細に検討を加えています。分量が膨大すぎて、コンパクトにピックアップすることができません。何点かを挙げてみましょう。

《事件当日の目撃情報と菅家さんの自白との対比》
菅家さんが犯人だとすると、午後7時から7時半の間に、マミちゃんを誘い出してさらに殺害まで完了していないといけません。7時まではマミちゃんがパチンコ屋で目撃されていること、菅家さんの自供では犯行後にスーパーで買い物をしたことになっており、そのスーパーが8時で閉店だからです。
しかしこの時間帯、マミちゃんを自転車に乗せたパチンコ屋から、犯行現場の護岸までの経路において、目撃できる人が大勢いたのです。この経路近くで野球の練習をしていた人、ゴルフの練習をしていた人がいました。これらの人は、通行人にケガをさせてはいけないということで通行人に注意を払っていました。しかし、この時間帯に少女を自転車に乗せた人を全く目撃していないのです。
マミちゃん失踪で、その夜の午前零時過ぎには警察犬が出動します。マミちゃんの靴の臭いを嗅いだ警察犬は、失踪したパチンコ屋から出発し、空き地の砂山を経由し、堤防の公園内に進みます。そして遺体発見現場より上流側の砂場で犬は追跡を止めます。もう一度試みましたが同じでした。
この警察犬の行動から、犯人とマミちゃんは歩いて砂場まで到達し、その後マミちゃんは犯人に抱き上げられて遺体発見現場まで移動したものと推察されます。パチンコ屋から自転車に乗せたわけではありません。
以上の目撃情報や捜査情報は、菅家さんの自白が犯行と合致していないことを示していますが、菅家さん逮捕後、これらの情報は地裁公判まで忘れ去られました。控訴審で弁護団から提出されますが、裁判所はこの情報を無視しました。

長くなったので以下は次回に。
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佐藤優氏に対する最高裁決定

2009-07-05 13:18:20 | 歴史・社会
前報の佐藤優氏の有罪が確定において、「最高裁の決定については次回に回します。」と書いたものの、私が少しだけかじっているのは民事訴訟法であるのに対し、この裁判は刑事訴訟法が適用されることにあとから気付きました。その意味では私が書けることは何もないのですが、取り敢えずはコメントしておきます。

報道外務省関連背任 佐藤優被告の有罪確定へ 最高裁上告棄却
7月1日18時40分配信 毎日新聞
「外務省関連の国際機関を巡る背任罪と北方領土・国後(くなしり)島の発電施設を巡る偽計業務妨害罪に問われた外務省元国際情報局主任分析官、佐藤優(まさる)被告(49)=休職中=の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は6月30日付で被告側の上告を棄却する決定を出した。懲役2年6月、執行猶予4年とした1、2審判決が確定する。
一貫して無罪を主張したが、小法廷は「(憲法違反や判例違反などの)上告理由に当たらない」とだけ述べた。有罪が確定すれば、佐藤被告は失職する。
 鈴木議員に決定を報告したといい、最高裁の審理期間が2年半だったと伝えると、「それが紙1枚(の決定)か」と答えたという。」
によると、
上告理由は「憲法違反や判例違反など」であり、最高裁の判断は判決ではなく決定で出されたように思われます。

そこで、刑事訴訟法の該当する箇所を当たってみました。
《刑事訴訟法》
第三章 上告
第405条  高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一  憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二  最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三  最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
第406条  最高裁判所は、前条の規定により上告をすることができる場合以外の場合であつても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる。
第408条  上告裁判所は、上告趣意書その他の書類によつて、上告の申立の理由がないことが明らかであると認めるときは、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる。
第411条  上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一  判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二  刑の量定が甚しく不当であること。
三  判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四  再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五  判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
------------------------
上告理由は405条1~3号です。また、411条によれば、著しく正義に反すると認めるときは、411条1~5号の事由で原判決を破棄することもできます。

今回の佐藤氏の上告では、405条1号(憲法違反)、2号(判例違反)などはもちろん主張したのでしょう。さらに411条1~3号(法令違反、量刑不当、重大な事実の誤認)なども主張はしているのでしょうね。

ところで、民訴法の上告の規定では、「決定で、上告を棄却することができる」との規定があります(民訴法317条2項)が、刑訴法ではそのような規定を見つけることができませんでした。報道では決定で棄却されたように書かれていますが、その点がよく分かりませんでした。

私が被上告人側で関係した案件では、上告状提出から4ヶ月程度で紙1枚の上告棄却の決定がなされました。それに対し佐藤氏の上告では、今回の決定まで2年半が経過しています。同じ紙1枚の判断を下すのに、この所要期間の相違は何を意味するのでしょうか。

「上告棄却」という判断については、上記刑事訴訟法の規定、従来からの最高裁の態度に鑑みれば、「予想されたとおり」ということにはなるでしょう。
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佐藤優氏の有罪が確定

2009-07-02 21:48:33 | 歴史・社会
外務省関連背任 佐藤優被告の有罪確定へ 最高裁上告棄却
7月1日18時40分配信 毎日新聞
「外務省関連の国際機関を巡る背任罪と北方領土・国後(くなしり)島の発電施設を巡る偽計業務妨害罪に問われた外務省元国際情報局主任分析官、佐藤優(まさる)被告(49)=休職中=の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は6月30日付で被告側の上告を棄却する決定を出した。懲役2年6月、執行猶予4年とした1、2審判決が確定する。
一貫して無罪を主張したが、小法廷は「(憲法違反や判例違反などの)上告理由に当たらない」とだけ述べた。有罪が確定すれば、佐藤被告は失職する。」

起訴休職外務事務官である佐藤優氏は、背任と偽計業務妨害の罪に問われ、一審有罪(執行猶予)、二審も有罪となり、上告していましたが、今回の決定で有罪が確定しました。
このうち背任については、中央公論 佐藤優・手嶋龍一対談 で話題にしましたが、以下に繰り返します。

背任罪は何かというと、イスラエルの学者を日本に招いたり、イスラエルで開かれる学会に日本人を派遣するのに際し、その費用3300万円として、対ロ支援委員会予算を充てたことが、支援委員会の協定違反だということです。
しかし、佐藤氏が外務省に黙って予算を充てたわけではありません。外務省条約局が決済して予算が充当されました。

このイスラエルの学者招聘や学会出席、日本の対ロシア外交の上で有益な行為だったようです。参加した山内昌之教授、袴田茂樹教授はいずれも、とても有意義だったとふり返っています。イスラエルの学会というのは、ロシアと非常に繋がりの深いグループであるようです。
日本外交にとって有意義である行事に国の金を使う際、たまたま本来の趣旨とは異なるけれども出しやすい予算を使う、ということは実世界ではよくあることでしょう。

もし佐藤氏の上記行為が違法であるとしたら、罪に問われるのは、起案者である佐藤氏ではなく、決済した条約局の責任者であるはずです。ところが、裁判では条約局責任者の罪は一切問われず、佐藤氏のみが背任で有罪判決を受けています。

一審では東郷和彦元欧亜局長の証言はありませんでしたが、二審では証言し、「支出は外務省が組織として認めたことで、佐藤君の責任ではない」と証言しました。しかし判決は、東郷証言は証拠で裏付けられていないとして採用されませんでした。

佐藤氏の「国家の罠」によると、佐藤氏が支援委員会予算を充てようと図ったとき、条約局のノンキャリ官僚のひとりがこれに反対しました。それを聞いた鈴木宗男議員が、佐藤氏から頼まれもしないのに、条約局を怒鳴り上げたのです。その後、決済はおりました。そして条約局の上司は、催促されてもいないのに鈴木議員に詫び状を提出します。
この詫び状が、佐藤裁判では佐藤氏に不利な証拠として外務省から提出されました。
鈴木氏がこのとき怒鳴り上げなければ、佐藤氏は有罪にならなかったかも知れません。余計なことをしたものです。

しかし、たとえ怒鳴り上げられたとしても、それに怖じ気づいて意に反する決済をしたのだとしたら、やはり決裁者が処罰されるべきです。議員に怒鳴り上げられて高級官僚が違法行為をすることが無罪だなんて、信じられません。

この点は、2つの重要な問題を含んでいるようです。
第1に、外務省の局長といえば高級官僚の最上位に属しますが、そのような人が一国会議員の恫喝を恐れて公務をねじ曲げた場合、“局長が恫喝に屈するのはおかしくない”と司法に判定されたことになります。外務省の局長はここまで司法からバカにされているということです。
第2に、外国と結んだ条約の解釈については、外務省条約局が国としての解釈権限を有していると理解されています。裁判所ではありません。例えば、日本とアメリカが結んだ条約について、日本は日本の裁判所が解釈し、アメリカはアメリカの裁判所が解釈するとしたら、条約の解釈はちぐはぐとなり、破綻します。条約局のこの権限を「有権解釈権」というそうですが、佐藤裁判の高裁判決はその権限を否定しているというのです。


偽計業務妨害の方はもっとわかりにくいです。
国後島に日本の援助でディーゼル発電機を設置する際、最終的に三井物産が落札したのですが、外務省のキャリア官僚である前島陽氏が三井物産に落札価格を漏らしたりの違法行為を行いました。このとき、佐藤氏がこの違法行為に関わったということのようです。
佐藤氏はディーゼル発電機に関しては全く関わっていませんでした。しかし前島氏は、「佐藤氏の指示で違法行為に手を染めた」趣旨の供述をしていました。
実際にあったこととして、鈴木宗男氏の「三井に任せたらいいんじゃないか」との発言を前島氏同席のときに佐藤氏が伝えたり、丸紅の資格審査を巡って佐藤氏が鈴木氏に電話をかけた点などが佐藤氏の調書に取られました。これら行為が、佐藤氏の偽計業務妨害の罪につながっていったようです。


以上、もちろん佐藤優氏の発言をもとに解釈していますから、佐藤氏有利の解釈になっている可能性は捨てきれません。しかし大筋では間違っていないでしょう。
外交の世界にしろ実業の世界にしろ、第一線で精いっぱい働いていたら、本来の趣旨からは外れるが便宜的にいろんなことをする可能性は誰にでもあるでしょう。
何事かを大成したような人物が、検察に一度睨まれたら、この程度の微罪でも有罪に持ち込まれてしまうわけです。検察の手から逃れうる人はごく少数でしょう。
「誰をターゲットにするか」という点については検察の裁量にすべて任されるわけで、実に恐ろしいことではあります。

最高裁の決定については次回に回します。
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