弁理士の日々

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佐藤優氏の有罪が確定

2009-07-02 21:48:33 | 歴史・社会
外務省関連背任 佐藤優被告の有罪確定へ 最高裁上告棄却
7月1日18時40分配信 毎日新聞
「外務省関連の国際機関を巡る背任罪と北方領土・国後(くなしり)島の発電施設を巡る偽計業務妨害罪に問われた外務省元国際情報局主任分析官、佐藤優(まさる)被告(49)=休職中=の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は6月30日付で被告側の上告を棄却する決定を出した。懲役2年6月、執行猶予4年とした1、2審判決が確定する。
一貫して無罪を主張したが、小法廷は「(憲法違反や判例違反などの)上告理由に当たらない」とだけ述べた。有罪が確定すれば、佐藤被告は失職する。」

起訴休職外務事務官である佐藤優氏は、背任と偽計業務妨害の罪に問われ、一審有罪(執行猶予)、二審も有罪となり、上告していましたが、今回の決定で有罪が確定しました。
このうち背任については、中央公論 佐藤優・手嶋龍一対談 で話題にしましたが、以下に繰り返します。

背任罪は何かというと、イスラエルの学者を日本に招いたり、イスラエルで開かれる学会に日本人を派遣するのに際し、その費用3300万円として、対ロ支援委員会予算を充てたことが、支援委員会の協定違反だということです。
しかし、佐藤氏が外務省に黙って予算を充てたわけではありません。外務省条約局が決済して予算が充当されました。

このイスラエルの学者招聘や学会出席、日本の対ロシア外交の上で有益な行為だったようです。参加した山内昌之教授、袴田茂樹教授はいずれも、とても有意義だったとふり返っています。イスラエルの学会というのは、ロシアと非常に繋がりの深いグループであるようです。
日本外交にとって有意義である行事に国の金を使う際、たまたま本来の趣旨とは異なるけれども出しやすい予算を使う、ということは実世界ではよくあることでしょう。

もし佐藤氏の上記行為が違法であるとしたら、罪に問われるのは、起案者である佐藤氏ではなく、決済した条約局の責任者であるはずです。ところが、裁判では条約局責任者の罪は一切問われず、佐藤氏のみが背任で有罪判決を受けています。

一審では東郷和彦元欧亜局長の証言はありませんでしたが、二審では証言し、「支出は外務省が組織として認めたことで、佐藤君の責任ではない」と証言しました。しかし判決は、東郷証言は証拠で裏付けられていないとして採用されませんでした。

佐藤氏の「国家の罠」によると、佐藤氏が支援委員会予算を充てようと図ったとき、条約局のノンキャリ官僚のひとりがこれに反対しました。それを聞いた鈴木宗男議員が、佐藤氏から頼まれもしないのに、条約局を怒鳴り上げたのです。その後、決済はおりました。そして条約局の上司は、催促されてもいないのに鈴木議員に詫び状を提出します。
この詫び状が、佐藤裁判では佐藤氏に不利な証拠として外務省から提出されました。
鈴木氏がこのとき怒鳴り上げなければ、佐藤氏は有罪にならなかったかも知れません。余計なことをしたものです。

しかし、たとえ怒鳴り上げられたとしても、それに怖じ気づいて意に反する決済をしたのだとしたら、やはり決裁者が処罰されるべきです。議員に怒鳴り上げられて高級官僚が違法行為をすることが無罪だなんて、信じられません。

この点は、2つの重要な問題を含んでいるようです。
第1に、外務省の局長といえば高級官僚の最上位に属しますが、そのような人が一国会議員の恫喝を恐れて公務をねじ曲げた場合、“局長が恫喝に屈するのはおかしくない”と司法に判定されたことになります。外務省の局長はここまで司法からバカにされているということです。
第2に、外国と結んだ条約の解釈については、外務省条約局が国としての解釈権限を有していると理解されています。裁判所ではありません。例えば、日本とアメリカが結んだ条約について、日本は日本の裁判所が解釈し、アメリカはアメリカの裁判所が解釈するとしたら、条約の解釈はちぐはぐとなり、破綻します。条約局のこの権限を「有権解釈権」というそうですが、佐藤裁判の高裁判決はその権限を否定しているというのです。


偽計業務妨害の方はもっとわかりにくいです。
国後島に日本の援助でディーゼル発電機を設置する際、最終的に三井物産が落札したのですが、外務省のキャリア官僚である前島陽氏が三井物産に落札価格を漏らしたりの違法行為を行いました。このとき、佐藤氏がこの違法行為に関わったということのようです。
佐藤氏はディーゼル発電機に関しては全く関わっていませんでした。しかし前島氏は、「佐藤氏の指示で違法行為に手を染めた」趣旨の供述をしていました。
実際にあったこととして、鈴木宗男氏の「三井に任せたらいいんじゃないか」との発言を前島氏同席のときに佐藤氏が伝えたり、丸紅の資格審査を巡って佐藤氏が鈴木氏に電話をかけた点などが佐藤氏の調書に取られました。これら行為が、佐藤氏の偽計業務妨害の罪につながっていったようです。


以上、もちろん佐藤優氏の発言をもとに解釈していますから、佐藤氏有利の解釈になっている可能性は捨てきれません。しかし大筋では間違っていないでしょう。
外交の世界にしろ実業の世界にしろ、第一線で精いっぱい働いていたら、本来の趣旨からは外れるが便宜的にいろんなことをする可能性は誰にでもあるでしょう。
何事かを大成したような人物が、検察に一度睨まれたら、この程度の微罪でも有罪に持ち込まれてしまうわけです。検察の手から逃れうる人はごく少数でしょう。
「誰をターゲットにするか」という点については検察の裁量にすべて任されるわけで、実に恐ろしいことではあります。

最高裁の決定については次回に回します。
コメント (4)
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