弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

山下進著「アルツハイマー征服」から

2023-01-10 08:02:25 | 歴史・社会
先日、鈴木蘭美さん~エーザイ~バイオジェン 2023-01-09で記事にしたように、アルツハイマー病治療薬で大きな発表がありました。
米当局、アルツハイマー薬を承認 エーザイとバイオジェンが開発
2023年1月7日5:52 ロイター
『米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を承認した。早期アルツハイマー病の患者が使用対象となる。
エーザイによると、1月23日の週までに発売する。価格は年間2万6500ドルに設定される見通し。
レカネマブは脳にたまった「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれる異常なたんぱく質を減らし、病気の進行を遅らせる。
今回は「迅速承認」と呼ばれる特例で、レカネマブを使った療法をより早く提供するための措置。
・・・
米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」の適用制限などから、当初はレカネマブを使用できる患者は限られる見通し。
FDAの完全な承認が下りれば保険適用を拡大するとした。
エーザイとバイオジェンは7日、エーザイがFDAの完全承認を申請したと発表した。』

その後、エーザイ、バイオジェンとアルツハイマー病治療薬について、以下の本を購入して読んでみました。
下山 進 (著)アルツハイマー征服
 山下進
本の中では、以下の状況が書かれていました。
イギリスの医薬ベンチャーキャピタルからエーザイに2004年4月に入社した鈴木蘭美さんは、事業開発部で仕事を始めていました。その鈴木さんが2013年から取り組んだのが認知症分野での導入でした。エーザイはその時点で、E2609、のちにエレンベセスタットという名前がつけられる低分子のベース阻害剤を持っていました。もうひとつ、BAN2401というスウェーデンの医療ベンチャーから導入した抗体薬を持っていました。しかし、当時エーザイはアリセプトの特許が切れたあとで経営が厳しく、この2薬を単独で治験を行うことは不可能でした。当時、アルツハイマー病新薬の治験には、1薬あたり2千億円~3千億円が必要となっていました。
鈴木さんは提携先を3社に絞り、交渉を行っていました。その中にバイオジェンがありました。バイオジェンは、フェーズ2に進んでいる「自然抗体」のBIIB037、後のアデュカヌマブがありました。
2014年3月5日、エーザイとバイオジェンは契約の締結にいたりました。エーザイ側からは、ベース阻害剤のE2609(エレンベセスタット)とBAN2401、バイオジェン側からは抗体薬BIIB037(アデュカヌマブ)とタウ抗体薬を出します。
アデュカヌマブのフェーズ2の結果は、2016年8月のネイチャーに発表。バイオジェンとエーザイは、被験者総数3210人という空前の規模の治験を(エレンベセスタットとともに)2本同時進行で進めることになります。
2019年3月、アデュカヌマブのフェーズ3「中間解析」で、治験効果がない、という結果が出ました。治験は中止です。1万円を超えていたエーザイの株価は、5千円台まで下落しました。
しかし大逆転があります。「中間解析」は、2018年12月までの18ヶ月の治験を終えたデータを元に行われました。その後、治験が中止になる19年3月までの間にも治験が行われていました。そしてそのデータを追加したところ、治験の大きな二つのグループのうちの一つでは効果が認められたのです。2019年10月に、「新たな解析結果に基づき、新薬承認申請を予定」と発表しました。
2020年8月、米国のFDAはバイオジェンに対してアデュカヌマブに関して優先審査をとることを通知しました。薬が承認されるサインだと捉えて、バイオジェンとエーザイの株価は急騰しました。しかし、FDAは外部の委員による諮問委員会を設け、諮問委員会は否定的な結論を出しました。

以上が、「アルツハイマー征服」で述べられた経緯です。
その後の経緯は、・・・
2021年6月、FDAはアデュカヌマブをアルツハイマー病型認知症の新薬として条件付き承認したと発表しました。このニュースは、驚きと不安をもって迎えられ、先述の諮問委員会のメンバー数人は、FDAの決定に抗議する形で辞任を表明しました。
日本では、2021年12月に厚生労働省は、アルツハイマー病治療薬としてのアデュカヌマブの承認を見送り、継続審議する決定を下したと報じられました。

そして今回の、レカネマブについての報道です。
調べたところ、エーザイがバイオジェンと提携する前から研究していたBAN2401こそ、今回のレカネマブだったのです。

エーザイとバイオジェンは、提携することでいずれも保険をかけていました。エーザイは、バイオジェンのアデュカヌマブを保険とし、バイオジェンはエーザイのレカネマブを保険としました。結局この提携で、利益を得たのはエーザイではなくバイオジェンだったようです。しかし、エーザイはどこかと提携していなければ今回の成功まで至っていなかった可能性もあるので、エーザイにとって損ではなかったことでしょう。

ネットで検索すると、2021年7月にエーザイとバイオジェンが発表した以下の記事が見つかりました。
Lecanemab(BAN2401)の臨床効果についてアルツハイマー病協会国際会議2021のLate Breakingとして発表
2021年7月30日
エーザイ株式会社
バイオジェン・インク
『Lecanemabについては、現在、臨床第Ⅲ相試験が進行中であり、2021年3月に1,795人の早期アルツハイマー病の被験者登録を完了し、2022年9月末までにPrimary endpointの取得をめざしています。また、プレクリニカルAD当事者様における効果を検証する臨床第Ⅲ相試験AHEAD 3-45試験が進行中です。』
『1. Lecanemab(開発コード: BAN2401)について
 Lecanemabは、BioArctic AB(本社:スウェーデン)とエーザイの共同研究から得られた、可溶性のAβ凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体です。・・・
2014年3月に、エーザイとバイオジェンはlecanemabに関する共同開発・共同販促に関する契約を締結し、2017年10月に内容の一部変更契約を締結しています。

2. エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について
 エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売にする提携を行っています。lecanemabについては、エーザイ主導のもとで共同開発を行い、抗Aβ抗体であるアデュカヌマブについては、バイオジェン主導のもとで共同開発を行います。

3. エーザイとバイオアークティックによるアルツハイマー病領域の提携について
 2005年以来、バイオアークティックはAD治療薬の開発と商品化に関してエーザイと長期的な協力関係を築いてきました。2007年12月にlecanemabの商品化契約を締結し、2015年5月にAD用抗体lecanemabバックアップの開発・商品化契約を締結しました。エーザイは、AD向け製品の臨床開発、市場承認申請、商品化を担当しています。 』
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 鈴木蘭美さん~エーザイ~バ... | トップ | 米軍海兵隊の海兵沿岸連隊(ML... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

歴史・社会」カテゴリの最新記事