弁理士の日々

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弁理士制度見なおしについてのパブコメ結果

2014-04-15 22:45:51 | 弁理士
今年1月に、このブログで「弁理士制度見直しについての意見募集」として記事にしたように、『産業構造審議会 知的財産分科会 弁理士制度小委員会 報告書「弁理士制度の見直しの方向性について」(案)に対する意見募集』というのがありました。

パブコメの対象となった報告書の中に、「(2)論文式筆記試験必須科目について」として、現行の試験制度において、条約が論文式筆記試験では単独の必須科目とされていないことの根拠として、
「条約に規定された事項のうち弁理士が業務として行う事項については、対応する国内法で担保されている(注37)」
「注37 例えば、出題数の多いパリ条約の優先権については特許法第43条に、PCTの国内段階については特許法第184条の3以降に、国際段階については特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律にそれぞれ規定されている。」
のように記述されていました。

しかし、弁理士有資格者は、パリ条約の条文とその解釈を十分に理解していない限り、パリ優先権を伴う特許出願の代理をすることは困難です。決して、日本国特許法第43条を知っていれば済むという問題ではありません。上記報告書の「注37」は、その点を誤解しているような印象を与えます。

一方、過去の論文試験における特実の問題の中で、条約の条文知識を問う問題が出題されているかどうか、平成14~25年度の論文・特実での条約関連問題出題状況の論点を当たってみました。この10年間の過去問の中で、論点として条約の知識が記述されているのは以下の問題でした。

平成19年度論文・特実・論点
『【問題Ⅰ】
時期を前後して出願された、パリ条約による優先権主張を伴う国際特許出願及び累積的な優先権主張を伴う特許出願の特許性についての理解を問う。』
平成16年度論文・特実・論点
『問 題Ⅰ
国際出願に関する特例についての理解を問う。』

即ち、10年間の過去問において、パリ条約の優先権の知識が問われる問題が1題、PCTの知識が問われる問題が1題、それぞれ出題されています。
従って、「特実の論文試験を通じて、受験生に条約の勉強をきちんとしてもらおう」という姿勢はあるようです。ただし、10年間でパリ条約とPCTが各1題ずつ、というのはいかにも少ない印象です。

そこで、上記疑問点について、パブコメに応じて私の意見を特許庁に送付していました。
さて、パブコメの結果が、今年2月に
産業構造審議会 知的財産分科会 弁理士制度小委員会 報告書「弁理士制度の見直しの方向性について」(案)に対する意見募集の結果について
平成26年2月 特許庁
として発表されました。
『業構造審議会 知的財産分科会 弁理士制度小委員会 報告書案について、パブリックコメント手続を通じて、各方面から御意見を募集いたしました。
募集期間中に報告書案の内容について寄せられた御意見の概要と御意見に対する考え方は以下のとおりです。なお、取りまとめの都合上、寄せられた御意見は適宜集約しております。』
産業構造審議会 知的財産分科会 弁理士制度小委員会 「弁理士制度の見直しの方向性について」(案)に寄せられた御意見の概要と御意見に対する考え方(PDF:215KB)

この中で、私の意見はどのように扱われているのでしょうか。

第3章 グローバルな強さに貢献するための資質の向上
Ⅰ.弁理士試験の充実
<論文式筆記試験必須科目(条約)>
《寄せられた御意見の概要》
[36]『パリ条約の条文、PCTの条文は日本国特許法の一部を構成していると言っても過言ではない。現行の試験制度でも、弁理士試験の論文必須科目試験において、特許法・実用新案法の問題において条約の内容を問う問題を出題すれば、受験生は必然的に条約について勉強することになるので、敢えて条約という試験科目を設ける必要はないと考える。
 他方、例えば特許法第43条は、単に優先権主張手続きについてパリ条約を補足するものでしかないため、現行制度において、パリ条約の条文の理解を、現行論文式筆記試験の特許法で出題することはできないのであれば、論文式筆記試験の科目として条約を復活させるべきである。』   1個人
[37]『報告書(案)では、論文式筆記試験必須科目について、条約を論文式筆記試験の単独科目とするのではなく、現在の出題の枠組みを維持することが適切であるとしている。「現在の枠組み」では、数年に一度しか、条約関連は出題されず、少なくとも単独科目とすることが不可欠である。
 報告書(案)で述べられている「条約に関する問題の内容や出題頻度」等を勘案すれば、基本法である特許法、実用新案法、意匠法、商標法の論理的思考能力の考査が十分になされるのかという疑問も生じる。
 報告書(案)において論文式筆記試験必須科目に関して、「工業所有権審議会において検討する」と述べられていることを評価するが、条約に関する出題の仕方や試験時間等についても併せて検討されることをお願いしたい。』   1団体

《御意見に対する考え方》
『試験の問題数その他試験運用の詳細については、御意見を踏まえ、今後、試験実施主体である工業所有権審議会で検討してまいります。
 また、平成19年に弁理士法施行規則を改正し、工業所有権に関する法令の論文式筆記試験において、同法令の範囲内で条約についての解釈・判断を問うという趣旨を明確化しております。』

上記「1個人」は私のようです。「1団体」の意見の中に、私の意見も集約されているようです。

それでは、上記パブコメを受けた結果として、報告書はどのように修正されたのでしょうか。報告書の該当箇所について、「案」と「報告書」を比較してみます。最終報告書は、「弁理士制度の見直しの方向性について-産業構造審議会知的財産分科会-」に「「弁理士制度の見直しの方向性について」(PDF:833KB) 」として収録されています。


『第3章 グローバルな強さに貢献するための資質の向上
Ⅰ.弁理士試験の充実
1.検討の背景
2.問題の所在
(2)論文式筆記試験必須科目について
報告書49~50ページ
(2)論文式筆記試験必須科目について
『現行の試験制度において、条約は、短答式筆記試験では必須科目とされているが、論文式筆記試験では単独の必須科目とされておらず、特許法等、工業所有権法令の範囲内で出題することとされている。条約に規定された事項のうち弁理士が業務として行う事項については、対応する国内法で担保されている(注37)ことから、この整理には合理性があると考えられるが、他方、経済のグローバル化を受け、弁理士には、より一層、条約に関する知識が求められているとの意見がある。また、PCT に基づく国際出願やマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願が増えていることから、論文式試験については条約を単独の試験科目とする必要があるという意見もある。』
『注37 例えば、出題数の多いパリ条約の優先権については特許法第43 条に、PCT の国内段階については特許法第184 条の3 以降に、国際段階については特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律にそれぞれ規定されている。』

残念ながら、この文章は「案」のままです。私の指摘は報告書に反映されなかったようです。

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