弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

弁理士制度見直しについての意見募集

2014-01-06 20:30:01 | 弁理士
特許庁のホームページに
産業構造審議会 知的財産分科会 弁理士制度小委員会 報告書
「弁理士制度の見直しの方向性について」(案)に対する意見募集

が掲載されています。

産業構造審議会知的財産分科会 弁理士制度小委員会報告書
「弁理士制度の見直しの方向性について」(案)

平成25年12月

この中で、「弁理士試験の論文必須科目において、条約に関する問題を出題する必要があるのではないか」との論点に関し、以下のように報告されています。

『第3章 グローバルな強さに貢献するための資質の向上
Ⅰ.弁理士試験の充実
1.検討の背景
2.問題の所在
(2)論文式筆記試験必須科目について
現行の試験制度において、条約は、短答式筆記試験では必須科目とされているが、論文式筆記試験では単独の必須科目とされておらず、特許法等、工業所有権法令の範囲内で出題することとされている。条約に規定された事項のうち弁理士が業務として行う事項については、対応する国内法で担保されている37ことから、この整理には合理性があると考えられるが、他方、経済のグローバル化を受け、弁理士には、より一層、条約に関する知識が求められているとの意見がある。また、PCT に基づく国際出願やマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願が増えていることから、論文式試験については条約を単独の試験科目とする必要があるという意見もある。
37 例えば、出題数の多いパリ条約の優先権については特許法第43条に、PCTの国内段階については特許法第184条の3以降に、国際段階については特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律にそれぞれ規定されている。』

《パリ条約》
弁理士は、パリ優先権を伴う特許出願の代理(日本特許庁への)を受任することが予定されています。
パリ優先権を伴う特許出願において、パリ優先権の成立要件、優先権の効果などに関する根拠条文はどこにあるでしょうか。日本国特許法には規定されていません。パリ条約の条文そのものです。
パリ優先権の基本的な性格についてはパリ条約4条A項で規定しています。
具体的なパリ優先権の成立要件はパリ4条C項です。4条C(4)のややこしい条文をきちんと理解しておく必要があります。また、優先権の効果はパリ4条B項に規定されています。部分優先権がどのような効果を有するのかについては、パリ4条F項、H項を解釈しなければなりません。
優先権主張の手続きに関し、日本国特許法43条が規定されており、これはパリ4条D(1)項を補足する内容となっています。

以上のとおりですから、弁理士有資格者は、パリ条約の条文とその解釈を十分に理解していない限り、パリ優先権を伴う特許出願の代理をすることは困難です。決して、日本国特許法第43条を知っていれば済むという問題ではありません。

パリ条約の条文が日本国特許法の一部を形成しているといっても良いわけですが、その根拠条文は、
『特許法26条 特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。』
であるということができるでしょう。

《PCT》
PCT(特許協力条約)はどうでしょうか。
PCT出願の日本国内段階を受任する弁理士は、日本国特許法第184条の3以降を知っていれば十分でしょうか。特許法第184条の3以降の条文を確認すると、PCTの条文がいやというほど参照されています。これらPCTの条文を理解していることを前提に、日本国特許法が形成されているのです。
従って、弁理士有資格者は、PCTの条文とその解釈を十分に理解していない限り、PCT出願の日本国内段階の出願を代理することは困難です。

以上のとおり、パリ条約の条文、PCTの条文は日本国特許法の一部を構成していると言っても過言ではありません。従って、弁理士試験の論文必須科目試験において、特実の問題において条約の内容を問う問題を出題すれば、受験生は必然的に条約について勉強することになるので、敢えて条約という試験科目を設けることなく弁理士の資質を担保することが可能になるでしょう。
それでは、現在の弁理士試験制度において、論文必須科目で条約の条文理解を問う問題を出題することは許されるでしょうか。
特許庁ホームページで「弁理士試験の案内」で調べてみると、試験科目については以下のように記されています。

(1)短答式筆記試験
試験科目
○ 工業所有権(特許、実用新案、意匠、商標)に関する法令
○ 工業所有権に関する条約
○ 著作権法
○ 不正競争防止法

(2)論文式筆記試験
【必須科目】
○ 工業所有権に関する法令
(1) 特許・実用新案に関する法令
(2) 意匠に関する法令
(3) 商標に関する法令

即ち、短答式では、特許・実用新案に関する法令と条約とは、別の科目として認識されています。ということは、論文必須科目の科目(特許・実用新案に関する法令)には、条約は含まれていないと理解することが自然でしょう。
このような試験制度の中で、果たして条約の条文理解を問う問題を出題できるかどうか、やや疑問に思います。

一方、過去の論文試験における特実の問題の中で、条約の条文知識を問う問題が出題されているかどうか、平成14~25年度の論文・特実での条約関連問題出題状況の論点を当たってみました。この10年間の過去問の中で、論点として条約の知識が記述されているのは以下の問題でした。

平成19年度論文・特実・論点
『【問題Ⅰ】
時期を前後して出願された、パリ条約による優先権主張を伴う国際特許出願及び累積的な優先権主張を伴う特許出願の特許性についての理解を問う。』

平成16年度論文・特実・論点
『問 題Ⅰ
国際出願に関する特例についての理解を問う。』

即ち、10年間の過去問において、パリ条約の優先権の知識が問われる問題が1題、PCTの知識が問われる問題が1題、それぞれ出題されています。
従って、「特実の論文試験を通じて、受験生に条約の勉強をきちんとしてもらおう」という姿勢はあるようです。ただし、10年間でパリ条約とPCTが各1題ずつ、というのはいかにも少ない印象です。
もしも、「特実の論文試験勉強を通じて十分に条約の知識を担保している」と称するのであれば、条約関連問題の出題頻度をもっと多くすべきでしょう。ただし、条約関連問題の頻度を上げるとしたら、論文必須科目の試験科目として、「工業所有権に関する法令(関連する条約を含む)」と明記しない限り、「出題内容が試験案内の問題範囲を超えている」との疑義が生じるであろうと思われます。

なお、条約のなかにはトリップス協定が含まれています。協定の内容を読むと、パリ条約よりも具体的でかつ多岐にわたっています。しかし、弁理士にとっての重要性はパリ条約の方が上です。なぜなら、トリップス協定の具体的な内容は、そのすべてが日本国特許法でより具体的に規定しており、パリ条約の条文と相違し、わざわざトリップス協定の条文を適用する必要がないからです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« iPhone5s逝く | トップ | 小澤征爾氏の父、小澤開作 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

弁理士」カテゴリの最新記事