弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

稻わら放射能と農水省

2011-08-03 23:34:21 | 歴史・社会
現代ビジネス「経済ニュースの裏側」の記事「牛肉の失敗をコメで繰り返すな。徹底的な検査と流通監視でデータを示し消費者を守ることこそ、生産者の利益につながる。」において、磯山友幸さんは、稻わらへの対応が遅れ、汚染された牛肉が全国へ出荷され消費されるという事態に発展した事件に関し、気になる記述をしています。

『原発事故後にお茶の葉から放射能が検出され、乾燥させた荒茶からはさらに高濃度のものが検出された。屋外にあった稲ワラの放射能汚染が問題になることは十分に想定できることだった。だが、誰もそれを公に口にできなかった。なぜか。
■「風評被害打破」というムードが実態把握を遅らせた
「風評被害を恐れる余り、予見的なことは一切言えなくなってしまった」と農水省の官僚は言う。
農水省は戸外の稲ワラを食べさせないように通達を出したが、メディアなどに大きく取り上げられるのを避けたため、結果的に畜産農家に周知徹底できなかったという。
「牛肉からも放射性物質が検出される恐れがある」と言えば「風評被害だ」となり、生産者から大きな批判を浴びることを恐れた、という。農水省という役所が消費者ではなく、農協や農家を向いて仕事をしているのは今に始まったことではない。多分に言い訳の面もあるが、風評被害打破という一時のムードが冷静な実態把握を遅らせた事は否定できないだろう。』

そんなばかな!
にわかには信じられません。

7月24日に当ブログ稻わら管理はどうなっていた?で書いたように、
①放射能汚染地域において3月11~16日に屋外にあった飼料を牛に与えるべきでないと農水省は理解していた。
②遅くとも5月6日には、文科省報告として、福島市から白河市に至る放射能汚染ベルト地帯が存在することが知られていた。
③4月の段階で、飼料について放射能レベルの基準が発表され、牧草については農水省と県が検査を行っていた。
のですから、もし
④3月11日の時点で屋外に保管された稻わらが存在することを農水省が知っていた。
のであれば、当然のことながらその稻わらについて放射能レベルを管理すべきです。まずは放射能ベルト地帯の郡山市周辺のどこかで抜き取り検査を行えばいいのです。

『農水省と県が福島県内で最初に牧草の検査をしたのは4月下旬だったが、稲わらは検査対象にしなかった。』
と報じられていますが、これは農水省の役人がうかつにも気づいていなかったからではなく、風評被害を恐れて知っていながら黙っていた、ということなのでしょうか。

この4月下旬の段階で稻わらが検査対象になっていさえすれば、検査によって直ちに稻わらの問題が顕在化し、牛肉に対する被害は格段に少なくて済んだはずです。
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2 コメント

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「被害が確定すれば、賠償させればいい」 (xls-hashimoto)
2011-08-04 09:56:40
農家が、耕作して農作物を生産しないと、その前後(前は肥料などの販売、後は農作物の買い取りと消費者への販売)で生計を成り立たせている団体(農協や県経済連等)は、食っていけなくなります。

20km圏内の農家が生産を止めると、農家には保証が出そうな気がします。
しかし、20km圏外では、生産を止めると保証が出るか今でも不明です。

生産を止めて、あとで「ここは線量が低いから保証は出ない」と言われてしまうと収入が無くなり食っていけなくなってしまいます。
したがって、まずは例年通り生産物を作り、その結果、汚染牛とか汚染米が出来て出荷出来なくなったら損害賠償させて食っていけます。


私の実家は原発から20.3km離れた緊急時避難準備区域にあります。3月時点では屋内退避区域と呼ばれていました。
国の作付け上限値(セシウム)は、5,000Bq/kgなので、耕作してもよかったんですが、今年、私の実家は「耕作中止」しました。

理由は、
1.表土に積もった放射性物質が、耕作によって下層に移行してしまう。
2.原発からの放出が、まだ止まっていないし、止まるあてがない。
3.積もった放射性物質を長梅雨と台風によって洗い流し、レベルが下がり涼しくなった秋になったら表土を除去しよう。
と決めたからです。

あとになって、
「週刊 新大土壌研」
「新潟大学農学部応用生物化学科 土壌学研究室の活動日記」
を見つけ、そのブログに下記のように掲載されていることがわかりました。。

新潟大学農学部土壌学研究室の放射性降下物の土壌・作物への影響研究紹介
http://blog.goo.ne.jp/soil_niigata/e/2b952cc980938cb4993d42d948011dda

土壌5cm汚染の記事について
http://blog.goo.ne.jp/soil_niigata/e/26561aab3fd5185c92face560819bed6


暫定基準を超えた米が収穫された田は、今年の耕作で放射性物質が上から下まで混ざり合いました。
今後収穫される米のレベルは、田の中のセシウムの半減期によってしか下がりません。
天地替えするにしても、深さを深くしなければなりません。
暫定基準値をクリアーした米が穫れる様にような田にするためには、膨大なコストがかかるようになりました。

私の実家は、こうしないために「耕作中止」です。
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福島県での稲作付け許可 (snaito)
2011-08-04 11:44:42
xls-hashimotoさん、コメントありがとうございます。
ご実家では、将来を見通しての苦渋の選択をされたのですね。

以前の週刊誌の報道では、福島県で稲の作付けを許可するに際し、県内の1箇所における放射能レベルのみを根拠にしたとのことです。許可する方向であれば、放射能レベルが低い地点の実測値を用いればいいのですから簡単です。
これも、「放射能レベルが高い地域については、稲を刈り取った時点で補償すればいい」というスタンスでしょうね。

しかし、補償は東電管内の電気料金値上げあるいは国民の税金で賄うわけで、国民の負担であることにかわりはありません。
風評被害まで考えたら、本当に放射能レベルが高かった米のみならず、福島県産のすべての米が補償対象になるかもしれません。

そして、土を耕すことによって放射性物質が上から下まで混ざってしまい、除染もままならないこととなったわけですね。

ところで、牛の飼料としての稻わらについては、稲の作付けとは異なります。
「放射能が高い稻わらを牛に与えてはならない」ということで済む話であり、牛の飼育を止める話ではないからです。
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