大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年08月10日 | 植物

<2050> 大和の花 (289) オモダカ (沢瀉・面高)                                   オモダカ科 オモダカ属

       

 全国各地の湿地や水田の周りなどに生える多年草で、大和(奈良県)でもよく見られる。地中に匐枝を伸ばし先端に小さな塊茎をつくり群生することが多い。葉は根生し、成長すると長い柄を有して葉身の基部が2つに裂ける矢じり形になり、先端が鋭く尖る。この葉の形が人の顔(人面)に見えることからこの名がつけられた言われる。

 花期は8月から10月ごろで、花茎は20センチから80センチほどになり、花茎上部の節ごとに白い3弁の花を普通3個ずつ輪生する。花は単性花で、花序の上部に雄花、下部に雌花がつき、球形の花床に雄花では黄色の雄しべが多数つき、雌花では緑色の雌しべが多数球形につく。雄花も雌花も朝開いて夕方に萎む1日花で、花弁は早くに散るが、3個の萼片はいつまでも残り、花序上部の雄花がよく目につく。

 正月のおせち料理でお馴染みのクワイ(慈胡)はオモダカの変種で、中国原産。平安時代のころから栽培され、オモダカよりも全体に大きく、料理に用いられる塊茎も大きい。因みに名高いスイタグワイ(吹田慈胡)はオモダカの改良品である。なお、オモダカの葉や花はよく家紋に用いられ、有名紋のベスト20に入り、殊に武家に愛好され、毛利元就が戦勝したとき、オモダカの花に蜻蛉がとまっていたことから縁起がよいとしてオモダカを家紋に用いた話は知られるところである。 

  写真はオモダカ。一面に生えるオモダカ。白い花はほとんどが雄花(左)、稲が穂を垂れるころ咲くオモダカの花(中)、花序のアップ。雄花では黄色い雄しべがよく目につく(右)。写真はいずれも大和高原。 戦争の悪はしたたかその悪は人の底意を常としてゐる

<2051> 大和の花 (290 ) ウリカワ (瓜皮)                                     オモダカ科 オモダカ属

                            

  水田や浅い沼などに生え、地中に匍匐枝を伸ばし、先端に小さな塊茎をつくって群生する多年草で、長さが10センチから20センチの線形の葉を根生する。この葉が剥いたマクワウリの皮に似ていることによりウリカワ(瓜皮)の名がつけられた。

  花期は7月から10月ごろで、高さが10センチから30センチの花茎にオモダカの花にそっくりな白い3弁花を輪生する。花茎の上部には雄花が花柄をともない2個から6個つき、下部には無柄の雌花が1、2個つく。実は扁平な広倒卵形の痩果で、多数が集まりつく。

  本州の福島県以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも水田の傍らなどでときおり出会う。 写真は花を咲かせるウリカワ。花はオモダカに似るが、矢じり形でない細長い葉を有する。写真の花は雄花。 権力といふ魔的なる存在は巧言にして裏面を見せぬ

<2052> 大和の花 (291) ヘラオモダカ (箆面高)                            オモダカ科 サジオモダカ属

              

  浅い池沼や湿地に生える多年草で、披針形または狭長楕円形の根生葉がへらのような形に見えるのでこの名がある。葉身の基部は次第に細くなって葉柄に続く。同じオモダカ(面高)の名を持つが、オモダカとはかなり姿を異にする。

  花期は7月から10月ごろで、枝を分ける花茎は高さが50センチ前後、枝の花序にオモダカより小さい直径1センチほどの花弁の基部が黄色く、淡紅色を帯びる白色の3弁花を開く。花は1日花で次々に咲き散ってゆき、枝ごとに点々と見えるので、注意しないでは他の草に紛れて見過してしまうところがある。

  花はオモダカと異なり両性で、雄しべは6個が輪になってつき、雌しべは雄しべの内側の平らな花床に多数が一列に連なり、輪になってつく。実は痩果で、多数つき、背に深い溝が1つ入る。全国各地に分布し、大和(奈良県)でも散見されるが、圃場整備などによって減少が見られるとして絶滅危惧種にあげられている。

 写真は休耕田の湿地で群生し花を咲かせるヘラオモダカ(左)、山足の湿地で、ほかの草に紛れて花を咲かせるヘラオモダカ(中)、花のアップ(右)。いずれも奈良市東部の大和高原。 戦争もテロも等しく我々のエゴに発するものにあらずや

<2053> 大和の花 (292) ヒシ(菱) と ヒメビシ (姫菱)                             ヒシ科 ヒシ属

     

  ヒシ科はヒシ属1属で知られ、日本にはヒシ(菱)のほかにヒシより大きいオニビシ(鬼菱)とヒシより小さいヒメビシ(姫菱)とが見られる。3種とも池や沼などに生える浮葉植物の1年草で、株ごとに多数の葉が放射状につき、葉柄の中央部が紡錘状に膨らむので、これが浮き袋の役目を果たし水面に浮く。株からは茎が水底に伸び、水面を被い尽すほど群生することが多い。葉身は三角状菱形で、縁には鋭い鋸歯があり、ひしげたこの葉の形からこの名が生まれたと1説には言われる。

 花期は7月から10月ごろで、株元の葉腋に直径1センチほどのかわいらしい白い4弁の両性花を開く。萼片も雄しべも4個で、花弁はときに淡紅色を帯びるものもある。花は1日花で、萎むと水没し、結実する。実は核果で、4個の萼片のうち2個は脱落するが、残った2個が刺状に変形して核果の両端につく。

 実がひしげた形になるので、1説にはこの実の形によりこの名はあるという。菱形という形を表す言葉はこのヒシから来ているが、葉の形か、実の形かは定かでない。分布は全国に及び、国外では朝鮮半島から中国にかけて見られるという。大和(奈良県)ではそこここの溜池や濠などで水面を被い尽すほど群生するのに出会うことがある。

 ヒシは古くから実を食用薬用にし、記紀万葉の時代には歌にヒシを採る様子が詠われている。例えば、『万葉集』巻7の1249番に柿本人麻呂歌集の「君がため浮沼(うきぬ)の池の菱つむとわが染めし袖濡れにけるかも」というヒシの実を摘む歌が見える。所謂、ヒシは万葉植物で、この歌はヒシが当時から知られていたことを示している。薬用としては、本草書に詳しく、滋養、強壮、消化促進などに効くとされている。

 なお、ヒシの近縁種ヒメビシ(姫菱)は、大和(奈良県)においては自生地も個体数も極めて少なく、絶滅寸前種にあげられている。ヒメビシはヒシやオニビシより全体に小さく、葉の鋸歯が一段と大きく見え、葉柄や葉裏にほとんど毛がない特徴がある。また、萼片の棘はオニビシと同じく、4個とも残り、石果につくので、実の刺でも判別出来る写真はヒシの花が見える濠(左)とヒシの花(中)、葉の鋸歯が大きいヒメビシの花(右)。いずれも奈良盆地の平野部。 大戦の戒め負ひて来し日本平和憲法よりどころにし

<2054> 大和の花 (293) ミズオオバコ (水大葉子)                          トチカガミ科 ミズオオバコ属

             

  水田や浅い池沼、溝などに生える沈水植物の1年草で、水中に沈む柄のある葉の形が広披針形から広卵形になり、オオバコ(大葉子)の葉に似るのでこの名がある。緑色の幼葉は成長するとくすんだ紫褐色から赤褐色になって枯葉のように見えるところがある。深いところに生える個体ほど葉が大きくなる傾向が見られるという。

  花期は8月から10月ごろで、葉の間から花茎を伸ばし、水面に白色もしくは淡紅紫色を帯びた1花を開く。花は両性の3弁花で、萼片は3個。雄しべは3個から6個、雌しべは6個で両方とも黄色なのでわかりづらいところがある。実は核果で、種子は果肉の粘液によって暫く浮遊するが、粘液が劣化して来ると、種子は沈水し、実を結ぶ。

  本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも見受けられるが、自生地の消失など生育環境の激しい変化によって減少傾向が見られ、希少種にあげられている。 写真はヒシ(菱)と混生し花を咲かせるミズオオバコ(左)と水底にくすんだ紫褐色の葉を広げ、水面に1日花の1花を開くミズオオバコ(右)。 平和への願ひ切なる憲法を掲げて今日に至れる日本

<2055> 大和の花 (294) オオカナダモ (大カナダ藻)                    トチカガミ科 オオカナダモ属

     

  南米原産の沈水植物の多年草で、水底が見えるような透明感のあるきれいな淡水に群生することが多く、北米から欧州、アジア、オセアニアの温帯に広く分布し、日本には大正年間に帰化して本州、四国、九州の水路、池、湖沼などに見られるようになった。

  雌雄異株で、日本には雄株のみが帰化しているので結実による繁殖はないとされ、切れ藻(植物体の断片)によって増えているという。これは貨物船のバラスト水によって運ばれ、世界各国に広まって困りものになっている日本産のワカメ(若布)に似るところがある。オオカナダモはおそらく観賞用に持ち込まれたものと思われる。

  茎は1メートルを越えて叢生し、広線形の葉が密に輪生して水中を被い尽すこともある。花期は6月から10月ごろで、水中の葉腋から長い花柄を伸ばし、水面に直径1.5センチほどの白い3弁花を開く。日本各地で見られる花はみな雄花で、結実を見ないと言われる。写真は池一面に咲く花(左)と花のアップ(下北山村)。 どれほどの犠牲を強ひて終戦はなされしものか今も問はるる

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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