大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

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2021年09月27日 | 植物

<3541> 余聞 余話 「ヤマトウバナの変種コケトウバナに寄せて」

      生き延びるためには変異も試みる弱きは弱きなりの懸命

 山地の木陰に生える草花にコケトウバナ(苔塔花)というシソ科トウバナ属の多年草がある。ヤマトウバナ(山塔花)の変種とされ、奈良県の春日山周辺と鹿児島県の屋久島に分布を限る日本の固有変種として知られて来た。草丈が5センチ前後と低く、葉も長さが4ミリから7ミリの卵形乃至は長卵形で、ヤマトウバナに比べ、全体に小さいので、これをコケ(苔)に見立てることによってこの名がついたという。

 なぜ、遠く離れた春日山周辺と屋久島のみに自生分布するのか、この二箇所はかなり地勢的乃至は気候的に差があり、その点、植物の生育環境がかなり異なると思われる。なのに、この二箇所に限って分布するのはなぜか。それはコケトウバナにとってこの二箇所が生育環境的に一致を見る条件にあるからではないかということが考えられる。

                                          

 私は以前、コケトウバナを求めて春日山の一帯を何回か歩いたことがあるが、出会うことが出来ず、歩いている間に若草山の山頂付近で、葉が小さく、形状がコケトウバナによく似た白い花の個体に遭遇した。花も葉も長さが1センチ弱と小さいので、コケトウバナだと思い写真に撮った。

   九月初めの撮影で、その写真と図鑑を照らしてみると、草丈が低く、葉が花と同長で小さく、明らかにヤマトウバナではなく、仲間のイヌトウバナでもない。しかし、ほとんどの葉は小さいものの一部に二倍ほどの大きさのものも見られるのでコケトウバナでもない感がある。それに若草山は日当たりのよい草地で、コケトウバナの生育条件に合致しない。

   そこで思われたのがシカの存在で、ヤマトウバナ或いはイヌトウバナがシカの食害を逃れるため、自らを矮小化して生き延びようとしている姿と見た。言わば、葉の形状から見て、若草山の個体の姿は、シカの食害を自ら小さくなることによって免れたものということが思い浮かんだ。

   で、葉の大きいものが混じるその個体は、ヤマトウバナやイヌトウバナとヤマトウバナの変種であるコケトウバナの中間タイプではないかということが推察される。で、小さいコケトウバナの由来は主にシカの食害に起因するという仮説に行き着いた。屋久島も野生のシカが多いところである。変種が母種から変異したものと考えるならば、春日山周辺にも屋久島にもヤマトウバナやイヌトウバナが分布していなければならないが、ともに分布している。

   ということで、コケトウバナの自生場所の生育環境にシカの食害が影響し、ヤマトウバナやイヌトウバナの類は、種を永らえるために、シカに食べられないように自らを矮小化して変異したと考える。所謂、変種コケトウバナの由来は主にシカの食害に対することによるというのが私の考えるところである。

   そして、若草山の葉の形状に大小が見られる個体群はその中間タイプではないかと考えが進むわけで、シカの影響があるのではないかというのが私の仮説である。なお、コケトウバナについては、最近、兵庫県など他の地方でも発見の報告があるようであるが、これについてもヤマトウバナやイヌトウバナの矮小化ということが大いに考えられる。それがシカによるものかどうかについてはいま少し掘り下げた調査が必要という気がする。

 何にしても、コケトウバナには厳しい生育環境に違いなく、環境省は準絶滅危惧に、奈良県は絶滅寸前種にあげて、保護が呼びかけられている存在である。 写真はヤマトウバナやイヌトウバナとコケトウバナの中間タイプのように思われる若草山の花期の個体群(左)と花のアップ(右)。

 


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