<1773> 大和の花 (77) ミズヒキ (水引) タデ科 イヌタデ属
この頁ではタデ科タデ属のほかの花、ミズヒキ(水引)から紹介してみたいと思う。水引は「細いこよりにのりをひいてかため、中央から染めわけたもの。進物の包み紙などにかけわたす」(『岩波国語辞典』)という飾り紐のことで、細い茎の上部から長い花穂を伸ばし、夏から秋にかけて上部が紅色、下部が白色の小花を多数まばらに連ね、この花穂の姿が慶事の進物に用いる紅白の水引を連想してこの名がつけられたという。
山野に生え、全国各地に分布し、中国、ヒマラヤに見られる多年草で、大和(奈良県)でも山際に出かければ見ることが出来る。タデの仲間と同じように、小さく一見すると花らしくない花であるが、レンズの目を通して見ると美しく、木漏れ日などを受けて咲くところはみごとである。しかし、半日陰に生えることが多く、写真には撮りづらいところがある。葉は倒卵形で、長さが15センチほど。互生する。なお、ミズヒキの中で白い花を咲かせるものをギンミズヒキ(銀水引)、小花と小花の間隔が狭く、花数の多いものをシンミズヒキ(新水引)と呼ぶ。 写真は花を咲かせるミズヒキ(左)と花の部分(中)。写真右はギンミズヒキ。
青春を水引花に連ねゐる
<1774> 大和の花 (78) ミゾソバ (溝蕎麦) タデ科 イヌタデ属
全国的に分布し、朝鮮から中国にも見られる高さが30センチから1メートルほどになる1年草で、田の畦や溝など湿気のあるところに群生する。葉は卵状鉾形で基部は耳状に張り出し、両面とも毛と棘があり、先端は鋭く尖る。花期は7月から10月ごろで、花は枝先に10数個かたまってつく。花被は5裂し、裂片の上部は紅紫色で、下部は白色であるが、全体に白い花もときおり見られる。
葉の形が牛の額を思わせるところからウシノヒタイ、かたまって咲く花がお菓子の金平糖に似ることからコンペイトウグサ、休耕した湿田などでは一面に生えることがあり、タソバの地方名もある。名にソバ(蕎麦)とあるのは3稜がある卵球形の実がソバの実に似ることによる。 写真は一面に咲くミゾソバの花。紅紫色の花と白色の花。今日は立冬。よく晴れた。 溝蕎麦の花一面の日和かな
<1775> 大和の花 (79) ママコノシリヌグイ (継子の尻拭) タデ科 イヌタデ属
植物の和名や地方名には奇妙な名がつけられているものがある。前回紹介したミゾソバのウシノヒタイもその一つであるが、今回のママコノシリヌグイ(継子の尻拭)はそれに輪をかけたような名である。最初、この名に触れたときは植物名とも思えないその名に驚いた。これは私だけの印象ではなかろう。だが、命名理由を聞くと、その命名には生活実感が背景にあったりして、その名に理解が及ぶという具合である。
ママコノシリヌグイはミゾソバの仲間の1年草で、茎は高さがミゾソバとほぼ同じ1メートルほどになる。葉は先端が尖る三角状で、茎や葉に棘があり、これに触れると痛いところから命名者はこれに継子いじめの道具を思いついたのだろう。実際に用いたとも思えないが、いじめは今も昔も変わらずあるところ、昨今のいじめや虐待による死亡例などを聞くにつけ、棘のあるママコノシリヌグイによる体罰はまだ可愛いものかも知れないと思えたりもする。どちらにしても、ユニークな名ではある。
日本全土に分布し、朝鮮、中国にも。道端や林縁などの少し湿気のあるところに群生し、夏から秋にかけて枝先に10数個の小花をかためてつける。小花の花被は5つに裂け、ミゾソバと同じく、裂片の上部は紅紫色、下部は白色のツートンカラーで、よく見ると可愛い花である。 写真はママコノシリヌグイ。茎に短い棘が見える。 今日もまた熊に襲はれたる人のニュース 因果かそれとも何か
<1776> 大和の花 (80) アキノウナギツカミ (秋の鰻攫) と ナガバノウナギツカミ (長葉の鰻攫) タデ科 イヌタデ属
ともに水辺などの湿気のあるところに生えるタデの仲間の1年草で、アキノウナギツカミがナガバノウナギツカミよりも少し大きく、高さが1メートルほどになる。ナガバノウナギツカミは大きいもので80センチほどになる。互生する卵状披針形から披針形の葉はアキノウナギツカミの基部が矢じり形で、茎を抱くように見えるのに対し、ナガバノウナギツカミは基部が鉾形の違いがある。
アキノウナギツカミは全国的に分布し、ナガバノウナギツカミは北海道を除き、本州、四国、九州に分布する。国外では朝鮮半島、中国、モンゴル、インドなどに広く見られるという。花期はアキノウナギツカミが6月から10月ごろ、ナガバノウナギツカミが9月から10月ごろで、ともにミゾソバと同じく枝先に花被が5つに裂ける小花を10数個かためてつける。花被は上部が紅紫色、下部が白色であるが、アキノウナギツカミの方が淡い色に見えるところがある。
両方とも茎に下向きの棘があり、ぬるぬるしているウナギでもつかめるということからこの名が生まれたようである。なお、ナガバノウナギツカミには花柄に毛があるのに対し、アキノウナギツカミには毛がないのでこれも判別点になる。 写真は花をつけるアキノウナギツカミ(左)とナガバノウナギツカミ(右)。 湿地には湿地を好む花の数 生の姿はチョイスの姿
<1777> 大和の花 (81) ヤノネグサ (矢の根草) タデ科 イヌタデ属
全国的に分布し、朝鮮半島、中国、インド、ネパール、タイ、ロシアなどで見られるという。水辺や湿地に生える高さが50センチほどの多年草で、茎には下向きの小さな棘がある。葉は互生し、卵形から広披針形で、この葉に矢の根、つまり、矢じりを連想したことによりこの名が生まれたという。葉先は尖る。
花期は9、10月ごろで、枝先に10数個の小花がかたまってつく。小花の花被は5深裂し、上部は紅色、下部は白色で、アキノウナギツカミなどほかのタデ属の仲間によく似るが、草丈も花も全体に小振りである。 写真は水辺でほかの草に混じって花を咲かせるヤノネグサ(左)とその花(右)。ともに下北山村で。 露を帯び咲きたる花のヤノネグサ色に出にける秋をまとひて
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