大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2013年11月26日 | 創作

<815> 幻想短歌 「若狭恋歌」 (2)     ~<814>よりの続き~

        まさるとも劣らぬものを名に負へる美しきかな白百合の花

  彼女はこのころから夫と同じ肺の病に罹り、学業半ばにして退学を余儀なくされた。その後、姉の嫁ぎ先の京都で療養につとめたが、父の危篤の報により故郷に帰った。間もなく父が亡くなると、その父を追うように彼女も病を悪化させ、「わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく」の歌などを『明星』に発表し、その一年後の春、二十九年の短い生涯を閉じたのであった。「髪ながき少女とうまれしろ百合に額(ぬか)を伏せつつ君をこそ思へ」(『恋衣』)と詠んだように、白百合の花に愛着を示した。では、彼女、山川登美子に寄せて詠んだ「若狭恋歌」一連の歌を披露したいと思う。  写真はイメージ。

                                                

  陽に漱ぐ若狭より来し君ゆゑに 心とはなる我が身なりけり

  宵山の人の流れの藍深き中に紛れて恋歌一首

  扇より零れし笑みを夏病の眼のうちに掬ひしは恋

  もみぢ葉の音楽堂へ続く道 往き往きて我が恋歌の道

  具象派も抽象派もみな君の目のやさしさに逢ひ伴はれゆく

  理不尽に君を誘ふ一行は自負の言葉を点睛に置く

  男ゆゑかくは歌はじ されど恋 されど恋歌 切なくぞある

  如月の月下を奔る馬の目の水晶宮をともに歩まむ

  旅を来しものの眼に映るもの 今宵の灯火は春を点せり

  一枚の切符を求む 行き先きは君の歌冠のふるさと若狭

  恋の子が恋に寄せたる恋の歌 おぼろ月夜の花の下道

  君の歌 光の中に見えしとき 心に点す若狭なりけり

  ひとひらの花に始まる繚乱を君に贈らむ 若狭恋歌

  恋ひ恋ひて恋に死すてふ恋のあり 花野の君の手枕の中

  記し置きし約束のメモ雨に濡れ 菖蒲の色に滲みつつあり  

  寄する恋 寄せては返す波に寄せ 思ひははるか夢路の若狭

  随身の一睡の夢 その夢の花にもの問ふ恋もあるかな

  清水へ祇園をよぎることなども されど今宵の君は美し

  アカシアの花咲くころのボ-ト祭 恋よまされと水辺の光

  愚かなる恋と言ひやるものもあれ さはれ言葉の中なる翼

  我が机上のそのわづかなるスペ-スに込めて生まれし恋歌一首      

  霧深き山に向かひて入りし鷺、鷺のすがたはすなはち君の

  おもふ身のこれやこの身の燃ゆるべく 篝が闇を焦がす火祭

  紫陽花の花に寄り寄る恋の言ひ 赤き雨傘一つ行かしむ

  ひとすぢの紅ひくはるかなる若狭 いまひとたびの歌も恋歌

  雪降らば閉ざさるる国ゆゑにして 若狭は春の陽を恋ふる国

  春が来て若狭の国を訪ふこころ 眺めのうちに君を置きて

  少女子のそこにありける君ゆゑに しぐるる海も鴫立つ磯も

  余呉の湖あたりか知らず夜の闇 ひとり向かへる若狭なりけり

  吹雪きしがこころ温めゐる恋の若狭なりけり恋しき若狭

  降り積もる雪になかばを埋めながら薄紅梅のほのかなる紅 

  遙かなる星の光に触れてゐる寒林の闇の中の目頭

  あの虹の色に加ふるものあらば 夢の移り香とこそ言はめ

  緋連雀 悲恋啄む夢にゐて 君の移り香かすかなるかも

  若狭とは 恋恋恋の 恋の果て 果て果て果ての白百合の花

  「遠敷郡」(をにゅうぐん)ああ麗しき語感かな 春を告げ来る遠敷明神

  一首得てもって加へて言ひやるに すなはち恋の若狭なりけり

  身は心を入れてありけり 我が身には心に永久の白百合の花

 


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