<3429> 奈良県のレッドデータブックの花たち(61) カキツバタ(杜若・燕子花) アヤメ科
[別名] カキツ、カオヨバナ(顔佳花)、フデバナ。
[学名] Iris laevigata
[奈良県のカテゴリー] 絶滅寸前種(環境省:準絶滅危惧)
[特徴] 池沼などの水辺に生える多年草で、花茎は分枝せず、高さ50~70センチ。剣状の葉は長さが30~70センチほどで、基部は茎を抱く。花期は5~6月で、花茎の先端に2~3個の6花被片からなる花がつき、3個の外花被片は楕円形で垂れる。内花被片の3個は立つ。花の色は普通青紫色であるが、白い花も見られる。実は蒴果で、熟すと3裂し、褐色から赤褐色の種子を現わす。
なお、アヤメ、カキツバタ、ノハナショウブはよく似るが、アヤメは陸生で湿地には見えず、外花被片に網目模様が入り、カキツバタとノハナショウブは水辺に生え、カキツバタは外花被片に白い斑紋が入るのに対し、ノハナショウブは花が赤味を帯び、外花被片に小さい淡黄色の斑紋が入る違いがある。これに園芸種のハナショウブが加わるが、ハナショウブは人の管理下で育ち、野生ではまず見られないと言われる。
[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国東北部、シベリア東部。
[県内分布] 私の知る限り奈良市の大和高原の池畔一カ所。
[記事] 日本では愛知、京都、鳥取の3府県の群落が国の天然記念物に指定されている。中でも、『伊勢物語』第9段に見える「かきつはた」の5文字を57577の句の頭に置いて都に残した妻を偲んで詠んだ在原業平の「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞおもふ」の歌に因む三河の国八橋のカキツバタ群落は名高い。
大和地方では法華寺(奈良市法華寺町)、長岳寺(天理市柳本町)、春日大社萬葉植物園(奈良市春日野町)、磐之媛命稜(奈良市佐紀町)などがカキツバタで知られる。磐之媛命稜の外濠に生育しているものは野生的であるが、植栽起源の可能性が強い。純然たる自生地としては奈良市の大和高原の池畔が知られるが、限定的で、絶滅が懸念されている。
カキツバタの名は、カキツバタの花を掻き付け(摺り付け)の技法によって衣服に染め付けたことによる「掻付花」が転じたと1説にある。なお、カキツバタは『万葉集』の7首に登場する万葉植物で、1首には「かきつばた衣に摺りつけますらをの着そひ猟する月は来にけり」(巻17―3921・大伴家持)と見える。花の美しさには定評があり、よく似たアヤメと比較して「いずれアヤメかかきつばた」の諺になり、花は図案化され、紋所としも用いられている。尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」は有名。 写真は左から自生地の群落、青紫色の花、白色の花、実(裂開して種子が見える。とまっているのはウチワヤンマ)。
この世に有意義でないものはない
何らかの意義をもってある
意義のないものは存在しない
絶滅しても意義あるものは存在する
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