<2912> 大和の花 (969) ヤマナシ (山梨) バラ科 ナシ属
人里近くにあって稀に見られる落葉高木で、樹高は10メートルから15メートルほどになる。葉は長さが6センチから18センチほどの卵形または狭卵形で、先が急に細くなって尖り、縁には細かく鋭い鋸歯が見られる。はじめ褐色の綿毛に被われるが、後に無毛になる。
花期は4月から5月ごろで、短枝の先に散房花序を出し、直径3センチほどの白い5弁花を5個から10個つける。雄しべは20個ほどで、葯は紫色を帯びる。花柱と萼片は5個で、萼片は花が終わると脱落する。ナシ状果の実は直径2、3センチの球形で、秋に黄褐色に熟す。果肉は硬く、渋みが強いので食用に向かない。
本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島南部から中国にかけて見られるという。大和(奈良県)では宇陀市榛原赤埴の仏隆寺境内の推定樹齢400年と言われる古木をはじめ、点在して見えるが、植栽起源と思われるものがほとんどで、自生がはっきりしているものを私は知らない。
日本のものは古い時代に中国から渡来した。これがナシ(和ナシ)の原種、即ち、ナシの祖先と目されている。『万葉集』にはナシ(梨)に関わる歌が4首見えるが、4首中3首がナシの黄葉を詠み、残りの1首は花に関する物名の歌で、実に関する歌はない。これは万葉人がナシの実に興味を示さなかったからと思えるが、この点、万葉時代のナシはヤマナシに近いものではなかったか。 写真は旺盛に花をつける仏隆寺の古木(左)、花のアップ(中)、長い柄を有する実(右)。 年の瀬やRequiem聞くこともまた