大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年07月06日 | 植物

<2380> 大和の花 (551) ツリフネソウ (釣舟草)                  ツリフネソウ科 ツリフネソウ属

        

 山野の湿ったところに生える高さが50センチから80センチほどになる1年草で、湿潤な山道の傍などで群生し、ひと固まりになって花を咲かせているのに出会うことがある。1年草なので毎年同じ光景が見られるとは限らない。

 赤みを帯びる茎には節があり、葉は長さが5センチから13センチの楕円形乃至広披針形で、先は細長く尖り、縁には粗く鋭い鋸歯が見られ、柄を有して互生する。花期は7月から9月ごろで、上部葉腋から花序を斜上し、普通葉よりも上に数個の花を細い花柄に垂れ下げる。

  花は袋状の萼と3個の唇弁からなり、下唇の2個は合着して大きく、花全体が紅紫色で、内側に紫色の斑紋があり、距が袋状の筒部の先に突き出して細く尖り、下側に巻く特徴が見られる。ツリフネソウ(釣舟草)の名は、この細い柄にぶら下がった花の姿が帆掛け船に、また、花器の釣舟に似ることによると言われる。

  白い花も見られると言われるが、私はまだ出会ったことがない。筒状の距には蜜が溜まり、この蜜によって虫を誘う典型的な虫媒花で知られる。蒴果の実は熟して物に触れると弾けて種子が飛び散るので、実を手で触ってみると熟しているかどうかがわかる。

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、ロシア東南部に見られるという。大和(奈良県)では各地に見られ、山足の湿地でよく見られる。食用や薬用の話は聞かない。 写真はツリフネソウ。左から群生の花、花のアップ(葉より上部に花が咲くのが特徴で、他種との判別点になる)。  期待は他を頼る心による

<2381> 大和の花 (552) キツリフネ (黄釣舟)                      ツリフネソウ科 ツリフネソウ属

                     

 山地の湿ったところに生える高さが40センチから80センチの1年草で、ツリフネソウの仲間である。葉は長さが4センチから8センチの長楕円形で、先は鈍く尖り、粗い鋸歯が見られる。花期は6月から9月ごろで、上部の葉腋から花序を垂れ下げ、黄色乃至は淡黄色の長さが3、4センチの花を細い柄の先に釣り下げ、葉の下側に位置して咲く。また、花はツリフネソウとほぼ同じ唇弁の花であるが、黄色であり、後ろに突き出す距の先が垂れ下がり、巻かない違いがある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、ユーラシアから北アメリカに広く見られるという。大和(奈良県)では高原地帯から標高1400メートル付近の深山にも見え、花が黄色の濃いものと薄いもの、また赤褐色の斑紋がはっきりしているものと全くないものなどタイプの異なる花があり、深山では比較的淡黄色に赤褐色の斑紋が入るものが多い印象を受ける。 写真はキツリフネ。左から濃い黄色の花、内側にわずかな赤褐色の斑紋が入る花、淡黄色に赤褐色の斑紋が目につくタイプの花。 本能は生きものの証

<2382> 大和の花 (553) ハガクレツリフネ (葉隠釣舟)               ツリフネソウ科 ツリフネソウ属

             

 山地の湿った林縁や道端などに生えるツリフネソウの仲間の1年草で、高さは30センチから80センチほどになる。葉は長さが4センチから15センチの菱状楕円形で、先は細長く尖り、縁には鋭く粗い鋸歯が見られる。花期は7月から9月ごろで、葉腋から花序を垂れ下げ、ツリフネソウによく似た唇形の花をつける。

  花は紅紫色から淡青紫色まで変化が見られ、内側に濃い斑紋が入る。名にハガクレ(葉隠)とあるのは花が葉の下に隠れるように垂れ下がるから。花の後ろに突き出る蜜を貯める距の先が内側に曲がるが、ツリフネソウのように巻き込むことはない。蒴果の実は熟すと弾ける。

 本州の紀伊半島から四国、九州に分布を限る襲速紀要素系植物として知られる日本の固有種で、大和(奈良県)ではほぼ吉野川水系に沿う中央構造線の南側、西南日本外帯に当たる紀伊山地に分布し、奈良盆地や大和高原など北側の内帯では見かけない。 写真はハガクレツリフネ(天川村ほか)。 生きている証の 街を行く雨傘