大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年07月15日 | 植物

<2389> 大和の花 (558) マルバマンネングサ (丸葉万年草)              ベンケイソウ科 マンネングサ属

         

 やや湿気のある山地の岩壁や道端の石垣に生える多年草で、タンポポのようにロゼットで越冬する。茎は地を這い、節から根を下ろして広がり、分枝して先が斜上する。高さは8センチから20センチほどになり、群落を作ることが多い。葉は肉厚で光沢があり、長さは1センチ弱の倒卵形乃至倒卵状さじ形。先は丸く、基部は柄のように細くなって対生する。

 花期は6月から7月ごろで、斜上した枝先に集散花序を出し、黄色の花を咲かせる。花は長さが5ミリほどの披針形で先が尖る花弁5個の星形で、上向きに平開する。雄しべは10個で、裂開直前の葯は橙赤色。裂開後のそれは黒色に変色する。

  本種は日本の固有種で、学名のSedum makinoiは発見者で名づけ親の植物学者牧野富太郎に因む。本州の群馬県以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも自生のものを見かけるが、グランドカバーなどに利用されるとともに、斑入りなどの園芸品種も開発され、販売も行われている。 写真は山道の傍で花を咲かせるマルバマンネングサの群落とその花と葉のアップ(いずれも十津川村)。

   時は平等 時は永遠 私たち 限られた 生命体は この時の中   時を消費しつつ 千差万別に   生きている

<2390> 大和の花 (559) ツルマンネングサ (蔓万年草)                       ベンケイソウ科 マンネングサ属

                                           

 中国、朝鮮辺りが原産地とされる多年草で、古くに中国からもたらされた外来種として知られ、関東以西の道端や石垣、土手や河川敷などに生え出している。茎は基部でよく分岐し、地を這って広がる。長さは20センチほどになり、先は普通斜上しない。

  葉は長さが2センチほどの楕円状披針形で、光沢がなく、肉厚。先は鈍形で、柄はなく、3輪生する。花期は7月ごろで、茎の先に花序を出し、小さな黄色い星形の5弁花をやや密につける。大和(奈良県)でも見られ、大和川の支流である川西町の寺川の河川敷で見かけたことがある。

  マンネングサの仲間はほかにもコモチマンネングサ、オノマンネングサ、メノマンネングサ、メキシコマンネングサなど多く、みなよく似るが、本種は茎がつる状になるのでこの名がある。韓国では生食するようであるが、日本では聞かない。 写真は群生して花を咲かせるツルマンネングサと花のアップ。  生きて行くということは自らのエネルギーを発揮してゆくことである

<2391> 大和の花 (560) ヒメレンゲ (姫蓮華)                                 ベンケイソウ科 マンネングサ属

          

 渓谷の湿った岩上に多く見られるマンネングサの仲間の多年草で、別名をコマンネングサ(小万年草)という。高さは5センチから15センチほどで、群落を作ることが多い。葉は長さが0.5センチから2センチほどのさじ形乃至は倒披針形で対生し、上部では広線形となり互生する。

 花期は5月から6月ごろで、茎頂に集散状の花序を出し、鮮やかな黄色い星形の花を上向きに開く。花は長さが5ミリ前後の披針形に近い先の尖った花弁が5個、雄しべは10個で、裂開直前の葯は橙赤色になる。萼は花弁より短い。実は袋果。花が終わると、走出枝を出し、先端に直径1センチほどのロゼットが出来、これによって越冬する。春になると、このロゼットからまた茎や葉が展開する。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では亜種が中国、ベトナム等に見られるという。つまり、本種は日本産で、大和(奈良県)では紀伊山地でよく見られ、山間部から標高1300メートル以上の深山にも及ぶ。なお、ヒメレンゲの名は小さいロゼットの形が仏の蓮華座に似るからという。 写真はヒメレンゲ(上北山村の無双洞ほか)。   微笑のモナ・リザ 永遠とは辛かろう

<2392> 大和の花 (561) キリンソウ (黄輪草)                                       ベンケイソウ科 キリンソウ属

             

 海岸の岩上から標高の高い冷温帯の岩場まで垂直分布に幅がある日当たりのよいところに生える多年草で、太い茎を有し、高さが20センチから50センチになる。葉は長さが2センチから7センチの広倒卵形乃至は広倒披針形で、質は厚く、上部の葉の縁には鋸歯が見られ、互生する。

 花期は5月から8月ごろで、ほぼ直立する茎頂に普通3出の集散花序を出し、先が尖った黄色の5弁花を多数つける。上向きに開く黄色い花が輪状につくのでキリンソウ(黄輪草)この名がある。北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、シベリア東部に見られるという。

  大和(奈良県)では平端部から高原、または標高の高い大峰山脈の山頂付近でも見られる。 写真はキリンソウ。左から曽爾高原の花、山上ヶ岳の花、花のアップ。曽爾高原のものは徐々に数を減らし、今ではほとんど見られない。山上ヶ岳の花は1個体の花数が少ない感がある。奈良県の直近の調査報告では、全体的に減少傾向が見られ、奈良県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種に当たる希少種から絶滅危惧種に変更されている。    愛しさは愛情の一端

<2393> 大和の花 (562) ヤマトミセバヤ (仮称)                                     ベンケイソウ科 キリンソウ属

                       

 イワヒバなどとともに生える多年草で、川上村の奥深い滝傍のほぼ垂直に切り立った岩崖に見られる。茎は束生して最初斜上し、成長するに従って垂れ下がり、長さ30センチほどになる。肉厚の葉は緑白色で青みがかった扇状の円形で、普通3輪生する。

 花期は9月から11月ごろで、垂れ下がった茎頂の集散花序に多数の小さな淡紅紫色の5弁花をつける。花後は茎葉とも枯れ、根元に出来る芽によって越冬するという。香川県・小豆島特産のミセバヤによく似るが、川上村の個体はそこにのみ見られる奈良県の固有種として、厳重な保護が訴えられている。

 生える場所が滝傍の切り立った人跡未踏の絶壁であるため、採取されることなく、保存状態はよいが、厳密な調査もし難く、学名もつけられていないようで、『大切にしたい奈良県の野生動植物』(奈良県のレッドデータブック2016年改訂版)では仮称の断りが見える。減りもしていないが、増える様子もなく、自生地が極めて厳しい一箇所という存在にあり、絶滅寸前種にあげられている。 写真はヤマトミセバヤ。なお、ミセバヤの名は花が美しいところから見せたいと思う意の昔の言葉「見せばや」によるという。                 ドラマのない人生はない