大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年07月10日 | 植物

<2384> 大和の花 (554) アカショウマ (赤升麻)                               ユキノシタ科 チダケサシ属

          

 山地の草地や林縁などに生える多年草で、太く赤みを帯びる根茎を有する。葉は長い柄があり、概ね3回3出複葉で、小葉は長さが4センチから10センチの長卵形。先は尾状に尖り、基部はややくさび形。縁には浅い鋸歯があり、葉柄の基部や節には鱗片状の赤みを帯びた褐色の毛が生えるものが多いが、変異も見られる。

 花期は6月から7月ごろで、40センチから80センチの花茎を直立または斜上し、広円錐状の総状花序に白い小花を多数咲かせる。花序の側枝は長いが、同属のトリアシショウマ(鳥足升麻)のように側枝が更に分枝することはなく、あってもごく一部に過ぎない。小花は長さが3ミリ程度の線状ヘラ形の5弁花で、雄しべは10個、雌しべの花柱は2個。実は蒴果で、秋に熟す。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)でも見かける。その名は、薬用植物として馴染みの生薬名升麻で知られるキンポウゲ科のサラシナショウマ(更科升麻)の葉や小葉のつき方に似ていることと太い根茎が赤みを帯びていることによると言われる。 写真はアカショウマ(東吉野村ほか・なお、右端の写真は渓流沿いで撮影したものであるが、葉の形状が卵形に近く、先が尾状に長く尖っていることからアカショウマと見た)。   この世は太陽光の赤橙黄緑青藍紫の世界 赤外と紫外も想像してみよ

<2385> 大和の花 (555) アワモリショウマ (泡盛升麻)                      ユキノシタ科 チダケサシ属

                                     

 渓流の岩場などに生える草丈が50センチほどの多年草で、岩場の隙間に生え出しているものから群生してひと固まりになって生えているものまで見られる。時には増水して濁流に曝されることもあり、茎や葉柄は針金のように固く強靭に出来ているところがある。

 葉は3、4回3出複葉で、小葉は菱状披針形から菱状楕円形まで、先は尖り、縁には重鋸歯が見られ、葉には光沢のあるものが多いが、ないものも見られる。花期は5月から6月ごろで、円錐状の総状花序に白い小花を多数つける。本州の中部地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では標高1400メートル以上の深山でも見られるが、渓間や渓流沿いの岩場でよく見かける。花には甘い芳香がある。

  アワモリショウマ(泡盛升麻)の名は泡が盛り上がったように見える花序の姿によると言われる。よく似るアカショウマ(赤升麻)とは葉の形状によって判別出来る。なお、小型のアワモリショウマは盆栽に適し、よく鉢植えにしたものが売り出されている。学名はAstilbe japonicaで、園芸品のアスチルベは本種の改良品として知られる。別名アワモリグサ(泡盛草)。 写真はアワモリショウマ(下市町ほか)。  つばめ 雨の中の自在

<2386> 大和の花 (556) チダケサシ (乳茸刺)                                  ユキノシタ科 チダケサシ属

            

 湿生植物として知られ、山野のやや湿ったところに生える草丈が30センチから80センチの多年草で、茎や葉柄など全体的に細毛が多く、花序軸には腺毛が見える。葉は2回から4回の奇数羽状複葉で、小葉は長さが1センチから4センチの卵形。先は尖らず、縁には重鋸歯が見られる。

 花期は6月から8月ごろで、花序は細長い円錐状となり、側枝は短く、斜上して淡紅色を帯びる白い小花を多数つける。直径4ミリほどの小花はへら状線形の花弁と萼片が5個ずつで、雄しべは10個、雌しべの花柱は2個。この花が咲き出すと夏も本番。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では各地に見られるが、最近、群生しているところが少なくなっている感を受ける。チダケサシ(乳茸刺)の名は、食用キノコのチチタケ(チダケ)を本種の茎に刺して持ち帰ったことに由来するという。 写真はチダケサシ(曽爾高原のお亀池ほか)。   孤独は心理の一端 他者との関係性において意識される

<2387> 大和の花 (557) ヤグルマソウ (矢車草)                      ユキノシタ科 ヤグルマソウ属

                                         

 山地のやや湿気のある林内や渓谷沿いなどに生える高さが80センチから1.2メートルほどになる多年草で、地下茎によって群生することが多い。葉は掌状複葉で、直径50センチに及ぶ。小葉は倒卵形で、先が長く尖り、縁には切れ込みと鋸歯が見られる。この大きな葉が端午の節句に揚げられる鯉幟の矢車に似るところからこの名があるという。ヤグルマソウはキク科のヤグルマギク(矢車菊)の別名と同じで、一般にはキク科の方が馴染みがあるが、山でヤグルマソウと言えば、ユキノシタ科の本種を指す。

 花期は6月から7月ごろで、高く直立する花茎の先に長さが20センチから40センチの円錐状の花序を出し、白色の小花を多数つける。小花に花弁はなく、花弁状の萼片が5個から7個つく。雄しべは8個から15個。実は他種と同じく蒴果で、熟すと弾ける。

 北海道西南部と本州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地に見られるが、減少が続き、奈良県のレッドリストには絶滅の危機が最大レベルの絶滅寸前種にあげられている。 写真は大峰山脈の標高1650メートル付近の岩場で撮影したもので、矢車のような葉と白い大きな花序が印象的だった。ひと固まりになって見られたが、現在は安全柵の整備のため圧せられ、小さな株になってわずかに残る程度になっっている。  生は流転する