<401> 2012・秋祭り(1) 曽爾の獅子舞
秋日和 祭りの獅子の 舞い上手
七日の日曜日、奈良県宇陀郡曽爾村の門撲(かどふさ)神社で秋祭り恒例の獅子舞が行なわれ、境内は多くの人出でにぎわった。獅子舞は午前八時から神前での奉納舞が行われ、曽爾村の長野、今井、伊賀見三地区の奉舞会の舞い手が、笛や太鼓や鉦の音に合わせて悪魔払い、獅子踊り、参神楽、三三九度、接ぎ獅子、荒舞などの獅子舞を順次披露し、正午過ぎお開きになった。
門撲神社は平安時代初期の『延喜式』神名帳に載る古社で、祭神の天津児屋根命をはじめ五神を祀り、曽爾村の八地区の産土神として崇められている。獅子舞は、伊勢の大神楽を習って来た者が、各地区に伝え、門撲神社で舞うようになった。当屋記録では江戸時代の享保三年(一七一八年)に神楽・獅子舞を奉納し、五穀成就の感謝と村の安泰を祈願したとされ、獅子舞は戦時下も欠くことなく、二九〇年以上続く貴重な郷土芸能として奈良県の無形民俗文化財に指定されている。
古くは旧暦の九月九日、重陽の節句に行なわれていたが、現在は前述した三地区の奉舞会の会員を中心に獅子舞保存会によって継承され、体育の日の前の日曜日に行なわれるようになった。七日は連休の中日とあって、バスツアーやススキが見ごろの曽爾高原の散策を兼ねて訪れる行楽客も多かった。絶好の秋日和になり、獅子舞は盛り上がった。
ところで、曽爾村も世の中の趨勢に違わず、少子化の影響を受け、獅子舞に参加する小中学生が少なくなり、三地区だけでは足りず、他の地区の応援を受けるようになって来たという。そんな中で小学生も、中学生も稽古を重ね、見事な舞いを披露した。また、英語教師として村の教育委員会に勤めていた米国人教師も参加して、伝統の舞いに国際色を添えた。
以下は私ごとであるが、この獅子舞を見ていると、子供のころを思い出す。私の郷里は岡山県の瀬戸内海に面した片田舎であるが、毎年麦秋のころになると伊勢の大神楽の一座が抽斗などの付いた箱型の車を曳いて泊りがけでやって来て門付けをし、各家の玄関先で獅子が鈴を鳴らして行った。寸志をわたし、その金額が多い家では真剣を抜いて舞うこともあった。曽爾の獅子舞を見て、あれは悪魔払いであったと察せられた。
郷里の広場ではいろいろな舞いが披露され、獅子を囃し立てるニワトリなども登場したが、曽爾の獅子舞では天狗やひょっとこなどがその役を担っていた。曽爾の場合は、旅の一座と違ってにぎやかで、規模の大きさが感じられた。思うに獅子はネコ科の動物で、猫の習性を持つと言え、囃し立てるとそれに乗じてまた舞いを始めるという次第で、その舞いはにぎやかに運んだ。中でも見応えがあったのは、肩の上に子獅子が乗って立つ接ぎ獅子で、子役は軽業さながらにその役をこなし、舞いの終了後には拍手が鳴り止まなかった。このような祭りを見ていると、子供というのは大切に育てなくてはならないと思えて来る。
上段の写真は人垣の中で舞いを披露する獅子舞。下段の写真は左から獅子踊り。真剣を持って踊る悪魔払い。悪魔払いの獅子舞を終えて笑顔のメネフィー・ロバートさん。中学生が披露する獅子舞。大勢で舞い踊る参神楽。参神楽に登場したひょっとこ。小学六年生の子獅子が肩に立って舞いを披露する接ぎ獅子。