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競売物件の占有者の退去等に関する請負契約が、弁護士法に違反し民法第90条により無効とされた事例

2008年10月28日 | 最高裁と判例集
その会員となって競売物件を買い受けた者との間で、競売物件の占有者の退去、共有物分割訴訟の準備等に関して締結した請負契約が弁護士法第72条に違反し、民法第90条により無効とされた事例(東京高裁 平成19年4月26日判決 原判決取消 請求棄却 Lexis判例速報22号57頁)

1 事案の概要
Xは、会員を募り競売物件の情報提供等を業とする会社であり、Yは建設請負業等を営む会社である。競売の対象となった本件土地付建物は、建物は債務者Aが所有し、土地は債務者Aと第三者Bの共有となっていた。Bの土地持分についてのAの利用権原は不明であった。建物の占有者としては、競売による買受人に占有権原を対抗できる賃借人C及び引渡命令の対象となる6名の者がいた。YはXの会員となって、本件土地付建物の競売についての情報提供を受け、平成13年2月に4億5000万円で裁判所の売却許可決定を受けた。同月、Xとの間で、次の内容の「明渡し業務請負契約」を締結した。

① Xは、占有権原をYに対抗できない6名の占有者と明渡し交渉を行い、本件建物から退去させる。

② Yが本件土地の共有物分割請求訴訟を裁判所に提起するにつき、その準備を行い、Yに訴訟代理人となる弁護士を紹介し、訴訟を円滑に遂行させる。

③ YはXに対し報酬として2100万円(消費税込み)を支払う。6名は平成13年7月までに退去し、Yは同年1月及び6月に、Xに対し報酬として700万円ずつを支払った。

また、YはCとの間で「建物明渡に関する和解書」を同年10月に締結し、Cに460万円を支払った。他方、YはXから紹介を受けたP弁護士を訴訟代理人として本件土地の共有物分割請求の訴え(訴訟1)を提起し、平成14年4月に本件土地の競売を命ずる判決が確定した。

ところが、この判決に基づきYが申立てた競売手続において、平成15年6月にDが本件土地の買受人となり、同年11月、Yを相手取って建物収去・土地明渡を請求する訴え(訴訟2)を提起した。YはP弁護士に訴訟2の遂行を委任し、平成16年4月、YがDに5650万円を支払って土地を買い戻すことで解決した。

同年12月、YはXに、報酬残額700万円から、競売申立費用の一部として69万円余、訴訟2に係る弁護士費用200万円及び本件土地の所有権移転登記申請費用60万円を控除した残額を支払った。
Xは、Yに対し、報酬額の未払い分の支払を請求する訴えを提起した。最近の判例から 眈競売物件の占有者の退去等に関する請負契約が、弁護士法に違反し民法第90条により無効とされた事例

(東京高判 平19・4・26 Lexis判速22-57)

2 判決の要旨
第一審はXの請求を認容したが、控訴審は、次のように述べて原判決を取り消し、Xの請求を斥けた。
①「明渡し業務請負契約」に基づくXの行為の弁護士法第72条本文該当性Yは、Xの代理人として、本件建物の明渡しに関する交渉を行い、明渡しを内容とする和解を成立させ、また、Yが本件土地(共有地)の分割請求訴訟を提起する準備を行い、弁護士を紹介して訴訟を円滑に進行させ、約定の報酬の相当部分の支払を受けたものであるから、Xの行為は弁護士法第72条本文にいう「報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件(中略)その他一般の法律事務に関して(中略)代理、(中略)和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらを周旋すること」に当たる。

②Xの行為の業務性
Xの会員となり、Xから関東圏での競売物件の詳細記録の提供を受ける顧客はYに限られるものではなく、複数の会員が存在する。また、Xが提供した競売対象物件に関する情報に関し、当該物件に興味を覚えた会員からXに対し照会があった際に、Xが自己の実績を宣伝しつつ当該物件の占有者の排除を請け負うまでの行為の態様は、Xが行っている会員制の競売情報提供システムと密接な関係があり、また、Xが入手した競売対象物件に関する情報に基づき自ら買受人となって占有者の排除を行うというXの業務とも密接な関連性、同質性がある。
よって、Xは反復の意思をもってYとの「明渡し業務請負契約」に基づく法律事務の取扱い等をしたものであり、それゆえに業務性があるというべきである。

③弁護士法第72条に違反する契約の無効性YがXとの間で「明渡し業務請負契約」を締結して前記の行為を行ったことは、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、弁護士法第72条本文所定の法律事務を取り扱い、その周旋を行ったことに当たり、同条本文に違反するといわざるを得ない。X-Y間の本件契約は、同条違反の法律事務の取扱いの根拠となるものであり、本件契約を有効とすることは、同条本文に違反する行為が繰り返されることを是認することに他ならない。
したがって、本件契約は、同条本文に違反する事項を目的とする契約として民法第90条により無効というべきである。

3 まとめ
弁護士法第72条本文に違反する事項を目的とする契約が民法第90条により無効となることについては、既に最一小判昭和38年6月13日があり、重要な先例となっている。
本判決は、競売物件の占有者の退去に関する請負契約が弁護士法第72条に違反し、民法第90条により無効とされた事例として参考になるものである。競売物件でない一般の賃貸住宅、マンションの占有者の退去に関して管理業者が関与することは往々にしてあると思われるが、本判決を参考に十分な注意が必要であると思われ
る。



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