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裁判事例  賃貸不動産の差押え後の賃料減額の合意

2009年02月05日 | 最高裁と判例集
東京地裁判決 平成12年2月9日
(判例タイムズ 1094号 290頁)

《要旨》
 賃貸物件の競売開始決定後、賃貸人と賃借人との間になされた賃料減額合意には競落人に対する詐害的意図はなく、適正賃料に至るまでの部分については競落人に対抗できるとされた事例


(1) 事案の概要
 Yは、Aからすでに抵当権が設定されている店舗・事務所兼共同住宅の4階部分の2室を月額40万円余で賃借した。その後平成10年2月に、競売事件の開始決定に基づく差押えがなされた後、AとYとの間で、同年9月以降の月額賃料を23万円余に減額する合意がなされた。
 本件建物は、平成11年7月にXにより競落され、この後、YはXに対し、賃貸借契約の期間満了である平成12年5月末までの10か月間、月額賃料として23万円余を供託し、同年8月末に本件物件を明け渡した。
 Xは、AとYとの賃料の減額合意による賃料は不当に低額であるとして、競落時から期間満了まで従前の賃料との差額(170万円)の支払を求めるとともに、賃貸借契約期間終了後明渡しまでの期間についてX自身の鑑定により主張する適正月額賃料33万円余の3か月分の約100万円の支払を求めて提訴した。

(2) 判決の要旨
 ①競売開始決定に基づく差押え後に、被差押人である賃貸人がその賃料を減額し、その減額が通常の用法に従った使用収益の範囲を超える場合には、差押債権者ひいては競落人を害することになるので、減額につき合理的理由がない限り、差押債権者及び競落人に対して対抗できない。
 ②しかし、適正賃料と比べて高額の賃料を減額する合意については、そのうち適正賃料に至るまでの部分は本来の収益力に賃料額を一致させるにすぎず、特段の事情がない限り、合理的理由があるというべきである。
 ③X、Y双方から提出された鑑定書には修正すべき点があるが、これらを修正して求められる正常賃料を平均した賃料額である21万円余を本件物件の適正月額賃貸料と認めるのが相当である。
 ④適正賃料額までの本件減額合意には合理的理由があり、諸事情を考慮しても、YとAが詐害的意図の下に本件減額合意を行ったとは推認できず、合理的理由を否定すべき特段の事情は認められない。


(3) まとめ
 賃貸物件の差押え後の賃料減額合意の効力については、「強制競売開始決定が債務者に送達された後、債務者が賃借人と何ら合理的理由なしに賃料を半額にする旨合意しても、これをもって競落人に対抗することはできない。」とする最判 昭和35年10月14日があり、本判決はこれを前提にしつつ、「通常の用法に従って使用収益」している場合には、それに見合った適正賃料額に至るまでの部分の減額であるから、合理的理由があると判断したものである。


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