東京多摩借地借家人組合

アパート・賃貸マンション、店舗、事務所等の賃貸のトラブルのご相談を受付けます。

高齢者が詐欺の標的に…監督官庁もメチャクチャ「ヤバい制度」の悪用に「反社会的集団」が乗り出す日 伊藤 博敏 ジャーナリスト

2024年06月01日 | 法律知識

増加する「身元保証サービス」

全国の65歳以上の1人暮らし世帯が急増し、2001年の318万世帯が22年には873万世帯となり、1000万世帯超えが目前だ。
血縁、地縁が薄くなっているなかでの1人暮らしの老人には、深刻な悩みがある。老人施設はもちろん賃貸住宅への入居、病院への入
院の際、保証人を求められるのだが、用意できずに断られるケースが少なくない。
そこで増えているのが高齢者の身元保証サービスで、内容は契約を結んで保証人になるだけでなく、日常生活の支援、現金や財産管
理、葬儀を含む終活サービスなど多岐にわたる。
同時にトラブルも少なくない。監督官庁があるわけではなく、免許も届け出も不要で誰でも参入できる。そこで情報弱者の老人につけ
込むような価格設定や余分なサービスを付け加えて高額請求。解約を申し出ても返金されないといった苦情が全国の消費生活センター
などに寄せられるようになった。
そのため内閣府の孤独・孤立対策室が中心となって4月19日、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(案)」をまとめ、5月18日
までパブリック・コメントを求めた。今後、早急に策定することになっている。

刑事罰を伴う法整備が必要

契約締結にあたっては、「民法や消費者契約法に定められた民事ルールに従いつつ、契約の適正な説明(重要事項説明書の交付)を行
うこと」とし、「寄付や遺贈を契約条件にすることは避け、遺贈を受ける場合も公正証書遺言によることが望ましい」と書かれてい
る。
また契約の履行にあたっては、「提供したサービスの時期や内容、費用等の提供記録を作成し、保存のうえ定期的に利用者に報告する
こと」や「利用者から前払い金(預託金)を預かる場合、運営資金とは明確に区分して管理することが望ましい」としている。
どれも当たり前すぎる内容で、これがガイドラインなら事業者のモラルに期待するしかなく、確信犯的な悪徳業者ならなんなく抜け穴
を見いだして突破しそうだ。
日本弁護士連合会は5月17日、「サービス内容が多様・複雑で費用体系が明確でないためにトラブルが多く消費者保護の必要性が高
い」と問題点を指摘したうえで、次のように指摘している。
<適正化を図るためには、一般的な現行法上の制度を前提とするガイドラインを示すだけでは足りず、事業の特性を十分に考慮した法
制度の整備を速やかに検討する必要がある>
法規制しなければダメだというわけだ。確かに悪徳業者も存在する現状を考えれば、「望ましい」「重要である」といった書き方のガ
イドラインで防げるものではなく、刑事罰を伴うような法整備が必要だろう。

監督官庁がない

司法書士が中心となった公益社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」の5月17日付意見も厳しい。
<「義務」や「禁止事項」にはほとんどふれられていないため、ガイドラインに沿った確実な運用が期待できるのか不透明である。
チェックリストにチェックが入っているなら問題ないという認識であれば、現場において数多くのトラブルが発生する可能性も否定で
きない>
これもガイドラインでは防げないという意見だ。何より同様の意見を身元保証サービス事業に参加している業者自身から聞けた。葬儀
事業からこの分野に進出して1年目の業者である。
「中小の業者が多く、しかも監督官庁がなく縛りもないから、みんな好き勝手にやっている印象です。利用者から通帳と印鑑(キャッ
シュカード)を預かっているよう業者もいて『それは止めましょう』というガイドラインで対応できるものじゃない。認知度が高く信
用のあるリーディングカンパニーがビジネスをリードすればいいのですが、そうした企業もいない以上、法整備をしっかりするしかな
いと思います」
監督官庁がないというのは、この種の役所仕事では致命的だ。公表された「ガイドライン(案)」には取りまとめ役として「内閣官房
(身元保証等高齢者サポート調整チーム)」の名が上げられ、窓口は内閣府孤独・孤立対策室で以下に次のような省庁の名前が書かれ
ている。
金融庁、消費者庁、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省ーー。

反社が乗り出してきたら…

それだけ事業内容が多岐にわたるわけだが「ガイドラインの策定時期はいつか」という筆者のごく基本的な問い合わせに応える部署が
ない。結局、わかったのは厚生労働省老健局が内容のとりまとめは行うものの、今後のスケジュールを把握しているのは内閣官房副長
官補室で、それも「今のところいつになるとはハッキリ言えない」という心許ないものだった。
老人相手の犯罪といえば「振り込め詐欺」が思い浮かぶ。警告が繰り返され、何度報道がなされても被害者が減らないのは、他人との
縁が薄れて孤独に沈み、あらゆる騙しのパターンを持つ連中に引っかかってしまうからだろう。そして老人にはカネがある。
海外を拠点とした振り込め詐欺グループの摘発が相次ぎ、担当する警視庁捜査員などによると「そろそろ(振り込め詐欺も)限界に近
づいた」と思う連中もいるという。
そうした反社会的集団が、身元保証サービスに確信犯として乗り出せばどうなるか。ガイドラインの段階でもたもたしている状況では
ない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 更新料と未払いで地主から契... | トップ | 総務省の令和5年度住宅土地統... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

法律知識」カテゴリの最新記事