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高額な立退き料を提供されたにもかかわらず正当事由が認められなった事例

2010年08月09日 | 最高裁と判例集
土地賃貸借期間満了に伴う建物収去土地明け渡し請求について、賃貸人の自己使用のためのビル建築計画があり、更地価格の約83パーセントに相当する立退料が提供されたにもかかわらず、正当事由が認められなかった事例(東京高裁平成4年6月24日判決)

【事案の概要】
Y(賃借人)は、昭和23年に、本件土地上にある借地権付き建物を購入し、当時の地主から本件土地を賃借することになった。その後、賃貸人は本件土地の譲渡や相続にともない転々と変更し、X会社が昭和62年に本件土地を譲り受け、賃貸人の地位を承継した。本件賃貸借契約は昭和43年8月に約定期間20年として更新され、そして昭和63年8月に期間が満了した。
X会社は前賃貸人の債務の保証していた。その保証債務を支払ったため、前賃貸人はX会社に本件土地を譲渡(代物弁済)した。本件土地の賃貸人となったX会社は本件賃貸借契約が期間満了となる前に、更新を拒絶する旨をYに通知した。
 X会社は他のビルを賃借していたが、同ビルの明け渡しを求められており、本件土地に自社ビルの建築を予定していた。他方、Yは昭和23年に本件土地を賃借して以来約40年、同所で靴の販売店を妻、子どもの3人で営んでおり、既に高齢であった。所有建物は木造二階建てで昭和33年ころ改築したもののかなり老朽化していた。本件土地は都心の商業地に所在し防火地域に指定されていたため建て直す際は耐火建築物にしなければならないところ、Yにはその計画はなかった(注:本件では元賃貸人との間で堅固建物の建築を認められていた事情がある。)。
 Xは、Yに賃貸借契約の更新拒絶にあたり、更地価格の83パーセントの立退料を提供した。

【判旨】
 Xが本件土地を自己使用する必要性は一応認められる。また、本件建物がかなり老朽化した木造建物であるうえ、本件土地は都心の商業地域で、防火地域内にあるから、ビル建築が適切とも思われる。しかし、Xは本件土地に賃借権があることを知りつつ本件土地を取得したこと、本件土地に自社ビルを建築することになったのは前賃貸人の債務を肩代わりしたことから偶然入手したものであるから、Xの本件土地使用の必要性はそれほど強くない。他方、Yは約40年にわたり同所に居住し、店舗を営んできており、既に高齢であることから、本件土地を使用する必要性は切実である。Xが提供する立退料ではほぼ同じ条件の借地を求め店舗を開店することは困難であるから、立退料の提供は正当事由を補完するとは認められない。

【寸評】
正当事由の判断は「土地の使用を必要とする事情」を比較することが中心的な考慮要素であり、立退料の申出はあくまで補完要素である。借地借家法6条は、「土地の使用を必要とする事情」「従前の経過」「土地の利用状況」「財産上の給付の申出」を考慮して正当事由がなければ更新拒絶は認められないと定めているが、各考慮要素の関係が必ずしも明らかではないので改めて紹介する。 (弁護士 大竹寿幸)

(東京借地借家人新聞より)

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