花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

女工哀史から戦争への道

2022-06-12 13:41:10 | Book
 梅雨空で家に垂れ込めていた某日、「大正デモグラフィ」(速水融/小嶋美代子著 文春新書)を読みました。大正時代を歴史人口学の視点から振り返った書です。その中に、明治に興った紡績業が女工哀史の時代を経て昭和の中国浸出につながったとの記述がありました。ざっとした流れは次の通りです。

①明治時代後半、紡績業の規模が拡大し多くの女工が雇用されるようになった。
②第一次世界大戦後の不況下、紡績工場は窮乏した農村から低賃金の女工を雇い入れ、女工哀史に描かれたような労働条件で生産を行い、国際競争での勝ち残りを図った。
③女工哀史的状況への反発から女工募集が困難になり、また労働運動や社会主義思想の広がりもあって、労働条件を改善する必要が生まれコスト増となった。
④賃金が安い中国へ「在華紡」と呼ばれる工場進出を行うようになる。
⑤「在華紡」が中国人の反日感情を高めるとともに、中国における利害の衝突から英国や米国とも対立する。
⑥紡績工業が中国に移ったことで国内には失業者が増え、社会不安、政治不安が起こる。国内問題の解決を海外進出に求め戦時体制が敷かれていった。

 国内の問題を国内の人の目に触れない遠いところへ転移させることは、「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著 集英社新書)に書かれている外部化に当たりますが、女工哀史から在華紡、日中戦争への過程はまさしく外部化が生んだ過ちであり、歴史の教訓にすべきものと思います。

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