花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

だまされる人の心性

2023-12-31 12:05:00 | Book
 人にだまされるということは、だまそうとする相手を信じちゃうということです。身近な人にだまされるならまだしも、さして親しくもない人にだまされる場合、そこにはどんな心の隙があるのでしょうか。この点に関して、ひとつの例を紹介してみます。

 賃貸物件のオーナーが、賃借人のひとりと話をするうち、信用していろいろ自分のことを話すようになりました。ある時、ファッションに関するアドバイスを受けたので、そのお礼に高価なプレゼントをします。またある時、ちょとした頼み事をします。頼み事とは別の賃借人への言伝でした。すると、言伝の相手の態度に相当な立腹の様子。あらあらと思っていると、その賃借人は家賃を踏み倒して姿をくらましました。部屋に残されたのはガラクタばかり。

 さて、このオーナーは詐欺師まがいの賃借人をどうして信じてしまったのでしょうか。このことについて、とある意見を述べる人がいます。面白い見方なので引用してみます

 「身近な人間のことは警戒するのに、余所者には心を許してしまうひとは多い。自らの精神がからっぽであることをそばにいる人間に晒しているので、相手が自分をあるがまま容赦なく評価しているのを感じる。しかしひとは誰からも褒められないと、褒められたくてしかたがなくなるし、長所がないとあるように見せたくてしかたがなくなる。だから外部の人間の評価や優しさがいかに儚いものであっても当てにするようになる。未知の人間に貢献することで、自尊心の糧を得るのである。交際仲間との距離が近ければ近いほど、薄情になり、遠ければ遠いほど、親切になるのである。」

 この成程と思わせるコメント、実はかの文豪バルザックのものです。小説「ゴリオ爺さん」の中にあります。2023年から2024年にかけての越年本がこの「ゴリオ爺さん」なのですが、年末年始の休暇をバルザックの人間観察眼を楽しみながら過ごしたいと思います。

一身独立して一国独立す

2023-12-27 19:52:00 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「独立とは独立すべき勢力を指していうことなり」 

 家屋の堅牢さは風雨の中にあってこそ試される。穏やかな日の姿は堅牢さの証にはならない。同じく国家の独立は、独立しているように見えても安心せず、大風雨に耐える家屋の如く、諸外国との間にあって勢力を落とさないことにあると福沢諭吉は言う。文明は勢力を維持するための手段であり術である。目的に照らして術の軽重緩急を量り、用法をあやまたないのが肝要。そうすれば物事の見方は狭隘皮相から解き放たれ、昨日の怒りは今日の喜びとなり、怨敵が朋友に見えることもある。要は、惑溺を排し、日々工夫をめぐらし大目的を忘れないのが大事。一人ひとりのこの実践が国を独立に導くと説く。

福沢諭吉著「文明論之概略」(岩波文庫)から

長久手の市民発電所

2023-12-19 20:30:00 | Weblog
 愛知県の長久手市では、エネルギーの地産地消を通じて地域や子どもたちの未来につながる取り組みが行われています。一般社団法人みんまちエナジーは官民と連携し、太陽光発電による電力供給と売電の利益を還元するプロジェクトを進めています。


■エネルギー地産地消と地域づくりの仕組み

①市の公共施設に太陽光パネルと蓄電池を設置 → 温室効果ガス削減にも貢献
②電力を児童館へ供給するほか災害時の非常用としても活用 → 子育て支援、地域強靭化
③電力を市へ売却し、収益の3分の1は街づくりに役立てる → 新しい街づくり財源の創出


 長久手のこの事例は、発電インフラをコモンズとしながら、地域の中でお金を回して市民サービスの向上を目指す試みだと思います。街づくりに還元する収益の使い道を広く住民たちが考えるようになれば、コミュニティの活性化や自治意識の高まりが期待できます。今後の展開に凄く興味を持っています。

↓ みんまちエナジーのHP

黴菌と病気

2023-12-10 11:08:45 | Weblog
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「黴菌が病気ではない。その繁殖を許す身体が病気」

 1940年、議会において軍部に批判的な発言があったとして斎藤隆夫氏は衆議院を除名される。そこに軍の圧力があったのか、なかったのか、いずれにせよ政治家が識見高く、しっかりと政治を行っていれば、軍に付け込まれる隙は生まれなかったであろう。見識なく、腰もない政治家が軍の鼻息を伺えば、除名でも何でもするだろうと湛山氏は斬る。続けての言は、軍人の政治関与が問題ではなく、政治家が関与を許すことにある。黴菌の繁殖を許す身体が病気だと知るべき、と。もろもろ政治にまつわる問題は起こるが、政治家のみならず私たちみんなで肝に銘じたい。

岩波文庫「石橋湛山評論集」所収「いわゆる軍人の政治関与」から

新しい親ガチャ

2023-12-07 20:31:00 | Weblog
 本日の朝日新聞朝刊一面に、多子世帯を対象とする大学無償化の記事が載っていました。「政府は3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けない」、そうです。

 子どもが3人以上いる世帯がどれくらいかあるかは分かりませんが、おそらく割合としてはかなり少ないような気がします。子どもが1人もしくは2人の中にも、学費負担が家計を圧迫している家庭は多いでしょう。年収による支援措置があるにせよ(※)、3人以上はタダ、未満は支援ありの有償、あるいは全額負担となれば、公平感を失することになりはしないでしょうか。富裕層でも子ども3人なら無償で、子どもが2人の年収600万円超は支援なし、となってしまいます。

 思うに、子育て世帯への経済的援助と教育を受けやすくする施策はそれぞれ分けて考え、しかも両立させるべきものでしょう。余談ですが、多子世帯の大学無償化が少子化対策として有効かも疑問です。少子化対策が先ず向かうべきは非婚者の多さと考えます。それはさておき、子どもの数のちょっとした違い、年収のちょっとした違いで、負担が大きく変わってしまうのでは、納得しづらい人が出るのは否めません。もっとキメの細かい施策が必要かと思います。

(※)記事から:「年収380万円未満の世帯では現在、授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある。政府は今春、少子化対策として、24年度から、年収600万円までの中間層の多子世帯などに対象を広げ、授業料を減免すると発表した。」


多子世帯、大学無償化へ 25年度から、所得制限なし 政府方針:朝日新聞デジタル

多子世帯、大学無償化へ 25年度から、所得制限なし 政府方針:朝日新聞デジタル

 「異次元の少子化対策」をめぐり、政府は3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けな...

朝日新聞デジタル