(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)
「非情の相を-----しかと眼をこらして-----見定めよとか。」
源平合戦で平氏を率いる知盛は勇猛果敢な武士とは言えない。たまゆらの人間とは無縁な自然の営み、すなわち情など持たない天命に思いを致し、自らを慰め、力づけ、命の重さを知りなさいと女官の影身に言われ、己の行く末を見つめようとする。決戦に敗れても、まだ三種の神器を携え、落ち延びた先で再起を図ることも出来たが、「見るべき程の事は見つ」と壇ノ浦の海に飛び込み果てる。一方、源氏の将義経は、武士ではない水主や楫取を殺してはならぬという戦の法を破るに躊躇はなく、ただひたすらに勝ちのみを求める。その義経もやがて奥州の地で討たれるのは歴史の伝えるところだが、その時彼の眼は何を見たであろうか。
木下順二著「子午線の祀り・沖縄」(岩波文庫)から
「非情の相を-----しかと眼をこらして-----見定めよと
源平合戦で平氏を率いる知盛は勇猛果敢な武士とは言えない。たま
木下順二著「子午線の祀り・沖縄」(岩波文庫)から