花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

39兆円の拳

2022-10-29 14:04:49 | Weblog
 岸田首相が物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策として39兆円の財政支出を表明しました。今日の朝日新聞朝刊の社説では、「財政規律の喪失を憂う」の題の下、リーマン・ショックや東日本大震災時を上回る金額規模であること、国会審議を必要としない予備費の乱用、総額ありきで効果に疑問があることなどから、「政策の優先順位や将来世代への負担を脇におき、総額を膨らませれば支持が得られるだろうという発想なら、次元の低さにあきれるばかりだ」と批判しています。

 私は新聞を読んでシェイクスピアの「マクベス」のあるセリフを思い浮かべました。マクベスを攻めるイングランドの武将・シュアードのセリフです。「あれこれ考えてみたところで、出てくるものは不確かな希望だけだ。確実な結果がほしければ、この拳によって決するしかない。さあ、それには、まず進軍だ。」(福田恆在訳・新潮文庫)

 岸田首相は時として行動力を示そうとされます。ただ、それが空回りしているように見えます。とにかく何かをやれば良いというものでもなく、「不確かな希望」を練り上げていく胆力も示してほしいと思います。

目線が近くなってしまった玉川さん

2022-10-08 09:51:45 | Weblog
 テレビ朝日社員でコメンテーターとして同局の番組、「モーニングショー」に出演する玉川徹さんが、安倍元首相の国葬における菅前首相の弔辞に対して、「電通がはいってますね」と演出が行われているかのような発言をしました。しかし、これは事実無根ということで玉川さんは謝罪しました。そして、テレビ朝日は玉川さんに出勤停止10日間の処分を与えました。

 玉川さんの辛口コメントは、視聴者の間では好き嫌いの両方に分かれてはいても、「モーニングショー」の「売り」のひとつとは言えるでしょう。ここからは私の想像です。玉川さんは自らの「受け筋」を充分意識していて、敢えてエッジの効いた意見をしていた。世間の見る目に自分を合わせているうちに目線が近くなってしまい、逆に全体が見えなくなった。ご贔屓さんを見ている中、エッジの効かせ加減を誤り、口が滑ってしまった。

 「電通がはいってますね」と、菅前首相の弔辞をさも演出されたものと揶揄したものの、実は自分で自分を演出し過ぎた結果、墓穴を掘ってしまったように私には見えます。

自分であるために

2022-10-03 20:13:57 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「自らの存在を肯定するために登っていた」

 エベレスト頂上を目指して標高8000メートルを超える、いわゆるデスゾーンを登行していた著者は、遭難してそのまま取り残された死体をいくつも目にする。死を身近に感じた時、「なぜ人は山に登るのか?」、この有名な問いを思う。それに対して、「自らの存在を肯定するため」、そして「それこそが生きるということ」との答えをもって、前へ足を踏み出していく。先鋭的なビッグウォール・クライミングを続ける山野井泰史さんは、「山へのチャレンジは、クライマーとしての自分が死んでいないことの証明」と語ったが、二人の言葉には相通ずるものがある。果たしてマロリーの考えや如何に。

上田優紀著 「エベレストの空」(光文社新書)から

空即是色

2022-10-01 14:49:57 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「心を満たすのに必要なものはそれほど多くはないのかもしれない」

 エベレスト登山のベースキャンプに向かうキャラバンの途中、ヤクの糞をストーブの燃料にするような、村のロッジに泊まる。「山を尊敬すれば、微笑んでくれる」と語る宿のおじいさんと言葉を交わすうち、心が満たされていくのを感じる。情報やモノの豊かさはないけれど、おじいさんとの温かな交流は、得難い幸せを与えてくれる。量やグレードで数値化出来る豊かさには際限がない。限りがないことは、空虚さを伴う。心の満足に必要なのは、実は少ししかない。要は、その本当に必要なものに気付けるかどうかなのだろう。著者の言葉に、「空即是色」の境地を思う。

上田優紀著 「エベレストの空」(光文社新書)から