花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

おやっ!、それとも、おやっ?

2022-06-26 10:26:00 | Weblog
 先日、子どもと美術館へ行きました。帰りにとある中華料理店で冷やし中華と瓶ビールを頼みました。ビールを持ってきたお店の人から、「グラスは2つですか?」と聞かれました。ビールはもちろん自分用、年齢よりは幼い感じの子どもは、傍目からはお酒が飲める歳に見えないはず。ところが他人の目にはしっかり大人と見えていたことに、「おやっ!」と思いました。

 そう言えば、美術館を出た後、どの絵が印象に残った絵かを振り返っていた時にも、「おやっ!」と思うことがありました。以前は好き嫌い中心のコメントだったのが、絵が描かれた背景やモチーフについて自分なりの解釈をはさんだり、私が気づかなかった点を指摘するなど、今までとは目の付け所が少し変わってきているなと感じたところでした。

 親は意外と子どもの成長に気がつかないものかもしれません。「三日会わざれば括目して見よ」とまでは言わずとも、知らず知らず成長しているようです。

 さて、子どもが時として新しい面を見せてくれる一方、親はどうでしょう。昨日出来ていたことが、今日は出来なくなって、いずれは「おやっ?」という目で見られるようになるのは致し方ないとして、今しばらくは、こちらはこちらでアップデートを心掛け、新しい刺激を与え合うようにしたいものです。

マリリン・モンローと君子の交わり

2022-06-19 19:44:10 | Book
 山登りの行き帰りの電車の中で亀井俊介著「アメリカでいちばん美しい人 -マリリン・モンローの文化史-」(岩波書店刊)を読みました。その中に、マリリン・モンローが作家アーサー・ミラーとの結婚生活が破綻した理由を述べた時の言葉がありました。

 「人間って、時々、人から望まれる通りの人になろうと努めることがあるわね。友人が私に無邪気で内気であってほしいと思っていると、私は知らぬ間に彼らに対してそうなっているのよ。反対にもし彼らが私の中に怪物を見ていたら、たぶんもう私に話しかけてもこないわね。私はアーサーとの結婚でも、その通りのことが起こったんだと思います。結婚当初、彼は私を、ハリウッドの狼どもの中では美しくて無邪気な生き物だと思ってくれました。(中略)けれども、怪物が姿を現した時には、アーサーは信じられませんでした。その時、彼は私に失望しちゃったんだわ。」

 自分が見ている姿だけがその人のすべてではない、そのことを心に留めているかいないかは大きな違いだと思います。この人はこういう人だと決めつけ、違う部分を見せられると失望する。それを避けるには、心に遊びの部分を作っておく必要があるような気がします。

 「君子の交わりは淡きこと水の如し」と言いますが、「水の如し」の「水」とは、相手を色眼鏡で見ない、色付けなしでありのままに受け止めることを指しているのではないか、そのような解釈をしてみたくなるマリリンの言葉でした。

女工哀史から戦争への道

2022-06-12 13:41:10 | Book
 梅雨空で家に垂れ込めていた某日、「大正デモグラフィ」(速水融/小嶋美代子著 文春新書)を読みました。大正時代を歴史人口学の視点から振り返った書です。その中に、明治に興った紡績業が女工哀史の時代を経て昭和の中国浸出につながったとの記述がありました。ざっとした流れは次の通りです。

①明治時代後半、紡績業の規模が拡大し多くの女工が雇用されるようになった。
②第一次世界大戦後の不況下、紡績工場は窮乏した農村から低賃金の女工を雇い入れ、女工哀史に描かれたような労働条件で生産を行い、国際競争での勝ち残りを図った。
③女工哀史的状況への反発から女工募集が困難になり、また労働運動や社会主義思想の広がりもあって、労働条件を改善する必要が生まれコスト増となった。
④賃金が安い中国へ「在華紡」と呼ばれる工場進出を行うようになる。
⑤「在華紡」が中国人の反日感情を高めるとともに、中国における利害の衝突から英国や米国とも対立する。
⑥紡績工業が中国に移ったことで国内には失業者が増え、社会不安、政治不安が起こる。国内問題の解決を海外進出に求め戦時体制が敷かれていった。

 国内の問題を国内の人の目に触れない遠いところへ転移させることは、「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著 集英社新書)に書かれている外部化に当たりますが、女工哀史から在華紡、日中戦争への過程はまさしく外部化が生んだ過ちであり、歴史の教訓にすべきものと思います。