花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

柔軟性という魔物 : おまけ

2009-11-30 22:34:37 | Weblog
 「それでも新資本主義についていくか」の著者、リチャード・セネット氏は、2008年4月25日付け朝日新聞朝刊で、安定的な雇用が壊れている現状がもたらしたものとして、次の3つをあげています。①組織への帰属心の低下、②働き手同士の信頼の喪失、③組織についての知識の減少。さらに、これらの変化が働く人びとにどう影響するかについて、セネット氏は、「人は仕事が不安定になるとものごとを長期的、戦略的に考えられなくなり、自信を失う」と指摘しています。
 新聞の社会面で目に止まる、インサイダー取引や不正経理、それから○○偽装といったものに代表される企業犯罪は、もしそれが増加傾向にあるならば、雇用の安定の喪失がもたらす、長期的、戦略的思考の喪失の現われであると言えるかもしれません。常識的に考えれば、長期的、戦略的思考の持ち主は、危ない橋は渡らないからです。そして、このところコンプライアンスやコーポレート・ガバナンス、内部統制など、企業とその従業員が不法な活動を行なわないようにするための枠組みが盛んに言われるようになったのも、同じコインの裏表なんだと思います。

柔軟性という魔物

2009-11-27 23:44:37 | Book
 柔軟な組織、組織の柔軟な運営と聞けば、何やらプラスイメージを抱きがちですが、時として柔軟性が人間性を蝕むこともあるようです。権限を現場に委譲するとか現場に裁量を与える言うと聞こえは良いものの、往々にして、権限の委譲には徹底的な成果主義が付いてきます。どうやるかは任せるが、結果は必ず出せということです。そして、結果が出せないと、メンバーが交替させられたり、チーム自体がスクラップされたりします。
 それから、最近顕著なことですが、世の中が変わっていくスピードや範囲が昔と比べものにもならない規模になっているので、トップに立つ人たちのこれまでの成功体験が意味のないものとなっています。そうなると、トップの人たちはますます現場任せになって、それはとりもなおさず結果を性急にもとめることにもつながっていきます。結果が出ない時、「じゃぁ、こうしたら」といった結果を出すための指示が出せないので、人を替えたり組織をいじることに走りがちになります。そして、組織のメンバーはトップダウンのめまぐるしい方針変更、 組織変更に疲弊してしまうことになります。「どこをどう歩こうがあなたの勝手だが、どこに地雷が埋まっているかは分からないので、それは自分で気をつけて」、と言われているようなものです。
 チャップリンのモダンタイムスのように歯車と化した仕事のありようはもちろん嫌ですが、いくら柔軟性とかいう美名であっても、その実明日をも知れないその日暮らし的な職場もご免です。アメリカの社会学者、リチャード・セネットの「それでも新資本主義についていくか」(ダイヤモンド社刊)を読んで、そう思いました。

IT社会の光と影

2009-11-10 23:58:05 | Book
 8日の日曜日、朝日新聞の読書欄を読んでいたら、デイヴィッド・ハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争」(文芸春秋社刊)が紹介されていました。「この本のことは知らなかったなぁ、新聞の書籍広告はいつもチェックしているのに、ハルバースタムのようなビッグ・ネームの新刊を見落としていたとは何たることか」と思いながら、書評を読みました。「朝鮮戦争では夥しい数の誤算が存在した」とか「(マッカーサーが)トルーマンが推進しようとした中国との交渉を露骨に妨害する様子も生々しく描かれている」とか「終戦間近との楽観的雰囲気の中で冬服もなく北朝鮮北部の雲山に送られたアメリカ軍が一挙に中国軍に壊滅させられる状況の描写は、迫力がある」といった評者の文章に、かつて「ベスト&ブライテスト」(朝日文庫)や「静かなる戦争」(PHP研究所刊)を夢中になって読んだ時のことが思い出され、「こいつは読まねばなるまい」と思いました。
 早速、近所の図書館の蔵書にあるかどうかをインターネットで調べてみたところ、既に20人の予約待ちの状況ではありませんか。20人と言えば、一人が2週間借りたとして40週です。「それまで待てないなぁ」とがっかりして、仕方がないのでAmazonで注文することにしました。注文した後、ふと思ったのですが、もし図書館の蔵書検索システムがなかったなら、「まだ誰か借りてるなぁ、早く返却してくれないかなぁ」なんて思いながら、足繁く図書館へ通ったことでしょう。そうすれば、足腰が強くなり、健康増進、やっと手にした本に感謝感激、の一石二鳥になったかもしれません。IT社会は便利だけれども、その便利さが仇となって、かえって有り難みが失われることがあるかもと、ふと思いました。
 Amazonで頼んだ翌日、上下巻で約1000頁の本が届きました。健康増進とはいきませんが、会社の行き帰りの電車の中で本を読みたいがために、足取り軽く駅へ向かう日々が続くことは請け合いです。それは、図書館だろうとAmazonだろうと変わりはなさそうです。

すごくうれしい

2009-11-05 23:58:52 | Sports
 先日のブログで女優・岡田茉莉子さんが「長続きしない人をスターとは呼べません」とおっしゃっていると書きましたが、岡田さんのスターの定義に、「スターは世の中を明るくし人々に力を与える」というのも付け加えて良いかもしれません。今日、アメリカの大リーグでヤンキースがワールド・シリーズを制し、松井秀喜選手がMVPに選出されました。このニュースで、私は何となくとてもうれしい気持ちになったからです。
 仕事が終わって家に帰り、一冊のスクラップブックを取り出しました。そこに綴じてある2005年4月3日付け朝日新聞朝刊からの切り抜きは「語る 松井秀喜」と題したコラムで、開幕を前にした松井選手の思いが述べられています。「そりゃ、全打席でホームランを打って、守備もいつも好プレーをして、足も速くて、というのは理想です。でも、自分の能力以上のものを出そうとしても、無理ですから。自分の能力の百%をゲームの中で出せる選手でいられれば、それでいいと思う。僕は、グラウンドで元気に、一瞬一瞬に百%の力を出し切る。それでいいプレーができて、チームが勝てたらうれしい。最後にチャンピオンになれたらうれしいし、結果として自分もいい成績が残せて、ファンの人が喜んでくれたり、元気や勇気をもらってくれたりしたなら、すごくうれしい。それだけです。」
 今日は、松井選手が4年前に語った通りの日になりました。松井選手はすごくうれしいと思いますが、私もすごくうれしい、ただそれだけです。