花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

年たけてまた越ゆべしと思いきや 命なりけり小夜の中山

2023-11-29 20:35:00 | Book
 難解な本を読んでる時、集中しているつもりでも、目と意識が離れ離れになって、頭にいささかも内容が残らないまま、目だけが文字を追って先に進んでいってしまいます。最近では、西田幾多郎の「善の研究」がそうでした。

 中身を一切記憶していない読書なんて、家人などは時間と労力、それにお金のムダと思っていることでしょう。自分でも理解力のなさにはあきれるばかりです。でも一方でこうも考えます。以下はたとえ話です。

 巨岩を持ち上げようとしてもミクロン単位すら動かず、己の非力を嘆くばかり。でも、ムダとは分かりつつ、なぜか巨岩へ挑むことを止めることが出来ない。月日は流れ幾星霜、しかしながら虚仮の一念も蟻の一穴も全く気配なし。ダメなものは所詮ダメとうなだれつつ組んだ腕が、何だかちょっと引き締まっているように見える。

 心理学で言う合理化のようではありますが、多少の慰めとしてそういったこともなくはないだろうと考えています。少なくとも結果が出ないことにも楽しみを感じられれば、結果が出ないことを避けて通るよりも、それでいいかなと思います。たまには難解本にチャレンジして無力感を味わうのも、命あってのことではあります。望むらくは、血の巡りが多少良くならんことを。

イエスマン

2023-11-20 21:17:00 | Book
 独裁者が落ち目になって周囲に疑心暗鬼の目を向けるようになると、実力者を排除して、取り巻きをイエスマンで固めるそうです。鹿島茂著「ナポレオン フーシェ タレーラン」(講談社学術文庫)によると、ナポレオンも例外ではなかったとあります。

 ナポレオンに反撃を加えるヨーロッパ諸国の連合軍にパリを占拠された時、フォンテーヌブローでパリ奪還を狙うナポレオンの下から諸将がパリを目指して逃げ出します。同書にはこう書いてあります。「ナポレオンのまわりの者は、先を争ってパリへゆく口実をさがそうとしていた。・・・・ 用があるからとパリへゆく者、使いに出されたと称する者、自分の軍ないしは部隊のために身をささげる必要があるからという者、金を工面しにゆくとか妻が病気だからと口実を設ける者など、じつにさまざまである。適当な理由はいくらでも見つかるものだ。」

 イエスマンとはかくあるものなのでしょうか。つけを払わされたナポレオンは落胆のあまり、失敗に終わりますが、服毒自殺を試みます。ご存知の通り、この後、ナポレオンはエルバ島へ流されました。

 余談ですが、ナポレオンの死因はヒ素中毒だとか。セント・ヘレナ島について行った従僕が早くフランスに戻りたくて、ワインに盛ったとの説があるようです。

辻邦生から北杜夫への手紙

2023-11-13 19:14:00 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「孤独であれ!」 

 辻邦生と北杜夫は旧制高校以来長きにわたって手紙をやり取りしていた。「夜と霧の隅で」による芥川賞受賞や「どくとるマンボウ航海記」のヒットで作家としての地盤を築いた北杜夫へ、辻は滞在先のパリから手紙を送り、作家としてあるべき姿への考えを伝える。外国文学や政治や野球など、つまり自分の周辺的な部分について語り過ぎると、世の中が求めるイメージが広がり、それに合わせてポーズを作らなければならなくなる。そこには自分を見失う危険性が潜んでいる。「つねに内から、自分の本能でしか、ものはつくれない。」だから、小説家は「孤独であれ!」と。辻と北の親密な交際は死ぬまで続き、お互い日本文学史に残る作品を生み出していった。

辻邦生・北杜夫 往復書簡「若き日の友情」(新潮文庫)から