花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

アイロンのにおいがした朝の数日後

2012-09-27 02:43:49 | 季節/自然
 子どもが「アイロンのにおいがする」と言った朝以来、東京では涼しい日が続いています。夏の踏ん張りはないのかと、ややあっけなく感じるくらい、秋の気配があたりを覆っています。ここ数日は電気シェーバーで髭を剃っていると、肌への引っかかり感がなく、ヘッドがなめらかに動いていきます。会社では、誰かが食べる肉まんのにおいが流れてきました。終電帰りで寝酒用のビールを買おうとコンビニに立ち寄り、ついでに何か食べるものはないかと物色した時、冷やし中華ではなくカップ麺に目が行きました。知らぬ間にそこここへしっかりと秋はその足跡を残しているようです。ベランダで植物に水やりをしていたら、ゴーヤが小ぶりな実をつけていて、なんだか夏の置き土産のような気がしてきました。正岡子規の句に「行く秋のふらさがりけり烏瓜」があります。これを下敷きにして「来る秋を見て見ぬふりのゴーヤかな」と戯れてみました。

アイロンのにおいがする朝

2012-09-24 23:18:01 | 季節/自然
 時折雨が降ってぐずついた土曜日、そして朝から冷たい強い雨が終日降っていた日曜日とは打って変わって、爽やかな青空が広がった月曜の朝、登校する子どもをバス停へ送っていく途中、子どもが言いました。「今日は気持ちのいい朝だね。アイロンのにおいがするよ」と。いきなり、「アイロンのにおい」と言われ、鼻をくんくんさせましたが、もちろんアイロンのスチームのにおいはしませんでした。けれども、子どもの言わんとすることは分かるような気がしました。ねっとりじっとり蒸し暑い空気とは全然違う、アイロンがけしたシャツのパリッとした感じを思わせる乾燥したすがすがしさを表現したのでしょう。
 今年の残暑はことのほか厳しく、秋の訪れはまだまだ先のような気がしていましたが、この数日で一気に暑気が払われたような感じです。これからも、夏と秋のせめぎ合いはしばらく続き、土俵際で夏はしぶとく粘りそうです。しかし、この朝の清涼感からすると、秋の身体には力みなぎり、ひと揉みふた揉みするうちに、確実に秋の足が前に出て来ることでしょう。昨日、熱戦を繰り広げた日馬富士と白鵬の一戦を思い合わせながら、夏と秋のがっぷり四つが崩れ、攻守逆転となった朝のようにに思えました。

7番目のキラーアプリケーション

2012-09-17 17:07:23 | Book
 ニーアル・ファーガソン著「文明」(勁草書房刊)は、その副題である「西洋が覇権をとれた6つの真因」が示す通り、ヨーロッパが如何に近現代において繁栄の中心となりえたかの解明に挑んだ本です。明王朝の頃は中国がヨーロッパよりも進んでいましたが、その後立場は逆転します。ヨーロッパが他の地域よりも優位にたつようになった理由として、著者は「競争」・「科学」・「所有権」・「医学」・「消費社会」・「労働倫理」の6つをキラーアプリケーションと呼んで取り上げています。そのひとつひとつのアプリケーションについて、該博な知識を披露しながら説明していますが、私が読んだ限りでは「競争」あたりはかなり著者の主張にうなずけたものの、ページが進むにつれてだんだん論点がぼやけてきたように思え、うなずけない度合がうなずける度合に勝るようになってきました。それでも、全体を読み終えて思ったのは、次のことでした。今、ヨーロッパは中国の経済的躍進に直面し、明王朝の頃のような影の薄い存在になろうとしているかに見えます。しかし、そういった時にヨーロッパの発展を支えたものは何だったのかを問う書がでるところに、ヨーロッパのしぶとさがあると思います。いたずらに悲観的になるでもなく、中国の強みをただただ真似しようというのでもなく、先ず自らの歴史を振り返ってみる姿勢に、ヨーロッパの良さがあると思います。その意味では、「歴史」を7番目のキラーアプリケーションに加えても良いのではないでしょうか。

節電は終わらない

2012-09-09 22:28:42 | Weblog
 これまでも反・原発の立場を表明してこられた作家の池澤夏樹さんが、9月4日付の朝日新聞夕刊で、2040年には人口が今の6割にまで減少するとの試算結果が出た福島県に触れながら、「この一年半で企業や国は実はとても無力だ、ということを我々は学んだのだ」とおっしゃっています。「東電と国は自分たちでどうしようもない災害を引き起こしてしまった。福島県の衰退、多くの人たちの生活基盤の破壊、失われた未来、この先ずっと放射能に脅えて暮らす不安。そういうことをあなたたちはどうすることもできない。覆水は盆に返らない」と政府と東電の無力ぶりを非難する一方、「それならば、せめて同じような事故が決して起こらないよう、すべての原発を調査し、危険率の高いものから速やかに廃炉の手続きを進め、代替エネルギーの開発に力を尽くし、可能なかぎり早く原子力と手を切る算段をすべきではないのか」と呼び掛け、「それがあなたがたに可能な唯一の誠意ある態度ではないのか」と訴えています。
 同じ日の朝日新聞朝刊には、吉見俊哉東大教授の「高度成長とアメリカ」と題するインタビュー記事が載っていました。見出しに「成功物語の裏面で米支配が内面化 原発はその象徴」とあるように、アメリカの世界戦略として日本に原発が建設されたことを吉見教授は指摘しています。曰く、「軍事大国のイメージをやわらげるとともに、原子力技術を第三世界に提供することで、自陣営に取り込もうという狙いがあった。とりわけ被爆国の日本が原発導入に動けば、ヒロシマ、ナガサキへの非難をかわせるし、宣伝効果も大きい」、さらには、「米国内の原子力産業の育成を促すうえで、日本は非常にいい原発プラントの輸出先になるとの計算があった」として、「敦賀を手がけたのは米ゼネラル・エレクトリック、美浜は米ウェスチングハウス」であった事実を添えています。そのような高度経済成長という「成功物語の裏面」を示した上で、「日本は高度経済成長で良い思いもした。だがその結果、アメリカの支配を受け入れ、沖縄に米軍基地が集中し、狭い列島に一時54基も原発が建ち、事故で放射能がついた雨が降る中、それでもアメリカ製の傘をさすしかない。これは日本人が大事にしてきた高度成長という成功物語の裏面で、自らはまった袋小路です。そして原発事故で、政府や電力会社への不信が高まる一方、迅速な情報収集・支援活動をした米側への信頼が相対的に高まった。やっぱり傘はアメリカ製に限るよね、と。そんな日本って、いったい何なのでしょうか」と、アメリカにすり寄ってきた戦後日本のあり方に疑問を呈しています。
 夏の節電期間が終了し、発電能力に対する余裕度を示す予備率では、最小の九州電力が6.9%、当初電力不足が懸念された関西電力は11.8%でした。節電の夏も2回目になり企業や家庭の節電対策がより進んだことを表しています。池澤さんの「可能なかぎり早く原子力と手を切る算段をすべきではないのか」との呼び掛けに、私たちが応えるとすれば、それはまず節電を心掛け、電力不足を理由に原発再稼働を推し進めようとしている人たちに「No」を突きつけることだと思います。高度経済成長の果実を食べた人間、原発の灯の恩恵を受けた人間のひとりとしては、ただただ東電や政府の無策のみを攻めるだけで済ませることは出来ません。9月4日火曜日のこのふたつの記事を読んだ週末、我が家の蛍光灯のシーリングライトに代わってLEDのライトを求めました。些細なことでも出来ることから一つずつ、しつこく積み重ねていきたいと思います。さぁ、今度は秋の節電の始まりです。