花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

聞く力

2022-09-25 11:59:38 | Weblog
 イギリスの政治思想家、マイケル・オークショットは保守主義の擁護者とされています。保守主義と言っても、その指し示す内容は人によって異なりがあります。オークショットの立場は、歴史的な経緯を先人の英知と見て、イデオロギーに基づいて足早な改革を行うのではなく、漸進的な改良を積み重ねていこうとするものです。

 オークショットは「政治というもの」について次のように述べています。「政治というものは何らかの新しい社会を想像することでも、既存の社会を抽象的な理想に合致させるべく改造することでもなく、我々の現存の社会からほのかに聞こえてくる要求をより充分に実現するために今何をなす必要があるのかということを認識することであろう。」(勁草書房刊「政治における合理主義」所収の「自由の政治経済学」より)

 「社会からほのかに聞こえてくる要求をより充分に実現する」ことを是とするオークショットなら、声の大きな人や近づいてきて耳打ちする人の要求を優先的に実現しようとする姿勢には、異を唱えただろうと思います。

国葬を前にして思うこと

2022-09-21 20:26:00 | Weblog
 人は、国という枠組みや国が行う政治の働きと無縁で生きていくことは、当然ながら出来ません。そうである以上、国や政治を視界から遠ざけて見ないようにするのではなく、時折国や政治に求めるものを整理し、自分事にしていくことが必要だと思います。日本に住んでいる限り、日本や日本の政治について考えることは、学校で言うところの必須科目になります。

 安倍元首相の国葬が決まってから、マスコミは国葬に関して随分多くの時間を割いてきました。報道の過半を占めているのは、安倍氏銃撃に端を発した旧統一教会問題です。国葬は選挙などと同様、人々が国家や政治に目を向ける良い機会かと思います。故人の政治的事績を振り返り、一人ひとりがそれらをどう評価するか、活発に議論が行われることは、国家観や政治観を磨く得難い場となります。ですから、そういう流れが生まれて欲しかったところではあります。

 安倍政権の中にあって、旧統一教会との関係はどれくらいの重みを持っていたのでしょうか。アベノミクスをはじめとする数多の政策や官邸主導の政治手法と比べた時、その比重はかなり小さいと思われます。けれども、ここ1、2ヵ月の扱いは全くバランスに欠けていて、安倍氏の政治活動の中心的な部分がないがしろにされています。旧統一教会問題は看過出来ないことではありますが、話題性のあるトピックが殊更大きく取り上げられ、政治家安倍晋三のもっと核心的な部分が、国葬を前にして顧みられないことを残念に思います。

風は秋色

2022-09-06 20:59:00 | Weblog
 9月最初の金曜日、松田聖子さんのコンサートで日本武道館へ行ってきました。妻は子どもと行くつもりでチケットを取ったのですが、子どもが行かないことになったので、代役が回ってきました。

 人生を四季に例えるなら、還暦は秋も半ばといったところでしょうか。聖子さんは今年還暦、私も近い世代で人生は秋本番に差し掛かっています。会場に入る時、チケットに書いてある文字が小さくてなかなか読めず、どの入口に行けば良いか、目を凝らす始末。聖子さんはまだしも、自分の秋は相当深まってるのかもしれません。

 さて、「チェリーブラッサム」で始まったコンサートはアイドル時代を彷彿とさせるもので、最初の衣装替えではお姫様衣装になって「渚のバルコニー」などを歌ってました。高校くらいの時に聞いた曲がたくさんあって、すっかり回春の思いに浸ることが出来ました

 また、中盤は音楽番組のミュージックフェアチックな趣向で、中高年のテンションが上がり過ぎて息が切れないよう配慮がなされ、しっとりとした歌声も聞けました。そして、最後のメロデーパートは「ロックンルージュ」や「夏の扉」などで、しばしヤングだった頃に戻ったような感覚が味わえました。

 ただ、つかの間の回春の後は、余計自分の年齢がリアルに身に迫ってくるようでした。昔なつかしい歌を、アイドル風に頑張って歌ってる聖子さんの姿を見ただけに、武道館から九段下の駅まで歩く間、段々ハレからケに戻ってくると、現実が少しほろ苦くも感じられました。