花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

憲法記念日に読んだ本(下)

2013-05-06 10:54:29 | Book
 その他、「憲法とは何か」を読んで「なるほど」と思ったのは、憲法改正の国民投票についての提案です。「第一に、国会による改正の発議から国民投票まで、少なくとも二年以上の期間を置くこと。第二に、国民投票にいたるまでの期間、改正に賛成する意見と反対する意見とに、平等でしかも広く開かれた発言と討議の機会を与えること。第三に、投票は、複数の論点にわたる改正案について一括して行うのではなく、個別の論点ごとに行うことである。」
 第一の提案の理由は、「短期間のうちに改正提案がどのような帰結をもたらすかについて十分に考える余裕もないまま、ワイドショー並みの薄っぺらな情報に乗せられて安易な投票をする危険を避ける」ことや、発議をする側からすれば、「支持基盤となる特定の団体にとって有利な改正提案のように、特定の政党のみの短期的利害だけを考えてなされるような改正の提案は、少なくなるであろう」し、「自分たちだけでなく、他の人々にも共通する社会全体の利益の実現を目指すよう強いることにつながる」からだそうです。
 第二の提案については、「憲法改正という国民の政治や生活の基本にかかわる問題であるからこそ、改正賛成側の一方的な情報提供ではなく、賛否両論が公平に提示され、幅広い観点から論議の戦わされる場を確保することがなおさら重要」となり、「所定の憲法改正案に賛成するか反対するかが問われているのであるから、かりに公報を発行するのであれば、憲法改正への賛否両論をそれぞれ平等に掲載しなければ、選挙公報と同様の周知をはかったことにはならない」、ことを理由に挙げています。
 第三番目の提案の理由としては、「それぞれの論点が党派を超え、世代を超えて、日本社会の根幹に関わるルールを改変することとなるのであるから、複数の論点を一括して有権者の意思を問うのは邪道といえる。そこでは、通常の政治過程と異なり、相衝突する多様な利害の調整が問題となっているわけではない」、としています。
 2005年10月に自民党が公表した「新憲法草案」に対する次の記述も示唆に富むものだと思いました。「想像していたより『復古調』ではなく、穏やかな内容だとの感想を抱いた人は少なくないであろう。しかし、そうなった背景には、改正の発議には衆参両院で総議員の三分の二の賛成を得る必要があるという現行憲法の課した条件がある。この要件が単純多数決に緩和されたとき、同じように穏やかな改憲案が提案されるとは期待しないほうが賢明ではなかろうか。」
 短絡的な動機から読み始めた本ですが、安易な取り掛かりに反して、なかなか実のある読書でした。(おわり)

憲法記念日に読んだ本(中)

2013-05-05 21:55:44 | Book
 また、長谷部さんは慣行としての憲法についても述べられています。成文化された憲法典ではなく、慣行としての、つまり生きた憲法は何かと言うと、「社会が複雑化・多様化し、あらゆる局面で法が援用されることの多い法化の進んだ」中、「自分たちの従うべき社会生活のルールが何であるかを、専門的能力を備えた人々に(中略)教えてもらわなければならない社会」では、「妥当な法を判別する能力を備えた専門家集団の慣行として存在する」もの、それが「憲法」です。
 憲法典を変えたとしても、実際に憲法の中身に関して鍵を握っているのは慣行としての憲法を形成する専門家集団になります。となると、日銀総裁の人事に関与した時のように、最高裁判事の人事に政府が介入するようなことが起きないか、気になるところではあります。(つづく)

憲法記念日に読んだ本(上)

2013-05-04 14:53:17 | Book
 極めて短絡的な発想ですが、「憲法記念日だから憲法に関する本を読もう」と思い、図書館から借りた長谷部恭男著「憲法とは何か」(岩波新書)を読みました。目下、憲法改正論議が喧しいこともあって、自然、憲法改正に関する記述は特に目を引きました。
 憲法がなぜ、法律の中で特に改正のハードルが高くなっているかについて、長谷部さんは次のようにおっしゃっています。「意味のないことや危なっかしいことで憲法をいじくるのはやめて、通常の立法のプロセスで解決できる問題に政治のエネルギーを集中させるためである。不毛な憲法改正運動に無駄なエネルギーを注ぐのはやめて、関係する諸団体や諸官庁の利害の調整という、憲法改正論議より面白くないかも知れないが、より社会の利益に直結する問題の解決に、政治家の方々が時間とコストをかけるようにと、憲法はわざわざ改正が難しくなっている。」
 確かに、憲法は国民主権とか基本的人権の尊重といった国の基本方針を規定する法律なので、憲法を変えたからといって、今、日本が抱えているさまざまな課題がすぐさま解決されるとは思えません。喫緊の政治課題は象徴的に何かを変えることではなく、実際に私たちの生活に結びついたもっと別のところにあるような気がします。(つづく)