花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

ミサイルと子ども食堂

2022-12-21 20:32:03 | Weblog
 本日の朝日新聞朝刊に「後藤正文の朝からロック ミサイルと子ども食堂」というコラムが載っていました。ミュージシャンの後藤正文さんは、食を通じて子どもたちを支援する子ども食堂の数が昨年より1317カ所増えたというニュースを読んだその日、防衛費増額のための増税に関するニュースを見て、次のような感想を持ったそうです。

 「アメリカ製のミサイルや戦闘機を購入するために1兆円の増税がなされるということをすっきりとのみ込めなかった。防衛費と『子ども食堂』をはじめとする社会支援にかかる費用を単純に比較するわけにはいかないが、トマホークミサイル1発の値段が約3億円だという報道にはため息が出る。」ちなみに子ども食堂では1000円で5食分の食事が提供出来るそうです。

 続けて後藤さんはこう述べています。「戦争に巻き込まれない国であることは、国民的な願いだろう。しかし、それだけが、私たちがこの国で安心して暮らせる理由にはならない。ミサイルと戦闘機で国土を守っているうちに子どもたちが減り、困窮者が増え、人々が未来に対する明るいビジョンを失うのなら本末転倒だと思う。」

 1995年1月に阪神淡路を襲った巨大地震の後、加藤周一さんは危機対応としての政治のあり方に対する考えを朝日新聞夕刊に寄せています。「日常における危機対策の最大のものは、国民の生命財産の安全保障のために現実的な政策をとり得る政府をつくることである。現実的な政策とは、いうまでもなく、安全を脅かす多くの要因のおこり得る確率の大きさに順って、対策に投じる資源・人員・予算を配分する政策にほかならない。」(1995年2月20日付夕刊「夕陽妄語」・ちくま文庫「夕陽妄語2」所収)

 ミサイルが飛んでくるとか、台湾が狙われているといった不安感を煽るようなやり方ではなく、防ぐべき危機それぞれを比較考量して、なすべく策と費用を提示して欲しいものだと思います。

 以下は余談です。後藤さんによると子ども食堂は民間の自発的な活動が主で、公的な仕組みは整備されていないそうです。一方、阪神淡路大震災直後、行政の後手後手対応に比べて被災民たちが自ら助け合い連帯していったことに加藤さんは触れ、「大地震はこの国の行政組織のおどろくべき非能率を暴露すると同時に、神戸市民のおどろくべき能力、危機に臨んでの自制心と失われない秩序感覚を、啓示したのである」と語っています。相通ずるものを感じるとともに、30年近く経っても相変わらずの面におどろかされます。

「後藤正文の朝からロック ミサイルと子ども食堂」
(後藤正文の朝からロック)ミサイルと子ども食堂:朝日新聞デジタル

(後藤正文の朝からロック)ミサイルと子ども食堂:朝日新聞デジタル

 「子ども食堂」の数が昨年より1317カ所増えたというニュースを読んだ。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の調査では、全国で7331カ所にな...

朝日新聞デジタル

 

置いてけぼり

2022-12-18 13:00:00 | Weblog
 先日、東京都写真美術館で開催されている「星野道夫 悠久の時を旅する」を観てきました。星野さんはアラスカを初め極北の動物や自然を題材としてきた写真家で、またエッセイストとしても有名です。撮影のため訪れたカムチャッカ半島でヒグマに襲われて亡くなられたことは、多くの人に惜しまれています。

 さて、展示の前半部分にあった「春のアラスカ北極圏、群れにはぐれてさまようカリブー」とキャプションの付いた写真の前に立った時、私はあることを思い出しました。だいぶ前になりますが、軽井沢から北の方の奥へ入ったところにある留夫山と鼻曲山に仲間と登った時のことです。行程をほぼほぼ終え、霧積温泉の近くまで下ってきていました。この日は、大相撲秋場所の千秋楽にあたり、北勝海と旭富士が相星で並び雌雄を決することになっていました。

 優勝の行方が気になっていた私は、最後の小休止をした際、山の中で弱い電波をキャッチすべく、ダイヤルで周波数を合わせる方式の昔のラジオで懸命に音を探していました。途切れ途切れの音声に意識を集中させ、やっと北勝海の優勝を聞き届けて顔を上げました。すると、あたりには誰もおらず、「ヤバっ、置いてけぼりにされた」と、慌ててみんなの後を追って走りました。

 「群れにはぐれてさまようカリブー」を観て、ふとそんな昔のことを思い出しました。ところで、この被写体のカリブーは如何なる理由を持って群れからはぐれてしまったのか、それがとても気になります。

アナザー・パワー

2022-12-01 19:12:00 | Weblog
 本日の朝日新聞朝刊に「敵基地攻撃 自公が実質合意」という見出しの記事が出ていました。記事では、従来の専守防衛から方針を変更する理由を次のように書いていました。「中国や北朝鮮ではミサイル開発が着々と進む。政府・与党内では『日本の今のミサイル防衛システムでは迎撃が難しくなる』との危機感が高まった。敵の領域内にミサイルを撃ち込み、直接打撃を与える敵基地攻撃能力を持てば、相手に攻撃を思いとどまらせる『抑止力』強められる。こうした考えが『政策判断』の変更につながった。」

 仮に自国の人命を極めて軽く扱う国が相手だった場合、日本の攻撃能力強化が本当に抑止力となるかどうかは疑問です。それはさて置き、防衛力増強の話が出るたび思うことがあります。国際紛争を解決するために国連が作られたのに、どうして国連の調停機能が上手く働かないのか、そして働かせるために知恵を出し合おうと言い出す人がいないのでしょうか。

 本当に平和を望んでいるのなら、いろんな力を結集すべきです。これまでの歴史を見れば、抑止力があればそれだけで戦争は起こらないというのは幻想に過ぎません。抑止力以外の力、差し当たり調停力にも目を向けて欲しいと思います。