花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

戦争の反人間性

2021-09-30 19:30:00 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

  「スペインでのさまざまな犯罪的行為は、実際におこなわれていながらも、たんなる自慢話に似ていた」

 かつて武士の世、敵の首級を挙げることが手柄であったように、戦時下では平時において残虐と見做される行為も自慢の種になり得る。それは人間の命が、価値あるものとないもののふたつの範疇に切り分けられるから。価値のない生命を抹殺することは称揚される(少なくとも非難の対象とはならない)。同朋の死には涙を流す人が、平気で殺人を犯す状況を作り出すのが戦争である。

シモーヌ・ヴェイユ著 「重力と恩寵」(岩波文庫)から

逃げ出す国と受け入れる国 ~9月9日付・朝日新聞朝刊より~

2021-09-09 19:06:00 | Weblog
 2004年、ミシガン州の人口2万2千人の町、ハムトラムクはバングラディシュやイエメンからの移民でイスラム教徒の住民が過半数を占めるに至りました。イスラム教徒たちが礼拝への呼び掛けをスピーカーで流す許可を市に求めてきた際、反イスラムの動きが沸き起こります。一方、「もしイスラム教徒の隣人に表現の自由がないなら、私たちすべてにとっての脅威になる」と支援に回る人も現れます。最終的には住民投票で55%の賛成を得て、モスクを認める条例が生まれました。その後、この町ではいろいろな国からの移民が増え、今では20以上の言語が話されているそうです。
 今、町の歴史博物館の運営者はこう語ります。「あらゆるものは変わっていく。それなら、自らコントロールして、変化をよい方向に導くほうがいい。新しい移民を歓迎することで、彼らの中に、単なる住む場所ではなく、自分たちのコミュニティーだという意識が芽生えるのだ。」また、市長は、「異文化間の誤解や様々な問題があっても、ここに住む人々は交わることに価値を見いだし、お互いにどうやって共に生きるかを学んでいる。人々はそのことに誇りを持っている」と述べています。
 大統領選ではアメリカ国内の分断が大きく報じられていましたが、この記事を見る限り世界中から移民を受け入れてきたアメリカの懐の深さが垣間見えます。こういった良識が、移民との共生だけではなく、分断の懸け橋になることを期待したいです。(国際面「(9・11から20年)二つの祈りの音、鳴り響く町 イスラム教徒が過半数、探る共生」)

 同じ朝刊の紙面に、アフガニスタンのタリバン政権の記事が出ていました。その中に、「暫定政権では、旧政権で『宗教警察』として恐れられた勧善懲悪省も復活した」とあります。「勧善懲悪省」が具体的に何を行う役所なのかは書いてありませんでしたが、名前からして如何にもおっかなそうです。政治権力、軍事力、警察力、そして道徳の泉源をタリバンが一手に握れば、恣意的に何でも出来てしまいます。民主化とは逆に舵を切るわけで、大政翼賛的社会になってしまうなら、そりゃぁ、国外へ逃げ出したいと思う人たちがいっぱい出てくるでしょう。(総合面「タリバン、権力独占 暫定政権33人、反対勢力や女性排除 勧善懲悪省が復活」)

 同じ総合面にこんな記事も出ていました。「菅義偉首相が今月下旬に米国を訪問する方向で検討していることがわかった。バイデン米大統領との会談などを視野に入れている。訪米が実現した場合、国連総会に出席する可能性もある。複数の政府関係者が明らかにした。首相は29日投開票の自民党総裁選への立候補を断念しており、総裁交代に合わせ、首相を退く方針。退陣直前の外遊は異例だ。」
 八方塞がりで政権を投げ出した身としては、新総裁・新総理誕生の時に、その場にいたくない、アメリカにでも逃げ出すかと思ってのことでしょうか。国内はさておき、国際的にも立つ鳥跡を濁すようなことにならなければ良いのですが。

菅総理退陣、あるいは陣すら取らせてもらえなかったこと

2021-09-04 10:35:00 | Weblog
 昨日のお昼に流れた、菅総理自民党総裁選不出馬のニュースを見て、突然のことに驚きました。一昨日には、二階幹事長へ出馬の意思を伝えたと報じられていたからです。ずっと総裁再選の意向を示してきたのに、敢えてこのタイミングで幹事長にところへ行ったのはどうしてだろう、と少し変な感じはしていました。不出馬表明の報道に触れ思ったのは、菅降ろしの動きがある中、「でも、総裁選に出るよ」と幹事長に言いに行ったのだろう、わざわざ言いに行ったことはすなわち、菅降ろしの風が相当に強かったのだろう、ということでした。

 コロナ対策において、上手くいってることも、いってないことも、政策の意図について国民の理解が得られるよう説明責任をきっちり果たしていれば、「コロナ対策に専念するため総裁選に出馬しない」なんて嘘くさいことは言わずに済んだのに、と思います。今回の幕切れには、後味の悪さが残りそうです。

 政治に唯一の正しい答えがないとすれば、多種多様な意見や利害を調整しながら、物事を決めていかなくてはなりません。政治が官邸主導になってから、ややもすると決めることに重きを置き過ぎて、調整することが疎かになっているのかもしれません。何事もバランスを欠いては、どこかにしわ寄せが出てくるものです。次のリーダーには、しっかり話し合い、調整し、その内容をきっちり説明出来る人になって欲しいものです。